小学生から好きでした。

微風 豪志

第1章 小学生の時の話

「はふぅぅぅぅヴヴヴぅ」

父親からくらったゲンコツの後、たんこぶをなでて身に受けた理不尽に対するささやかな抵抗として部屋に篭っていた僕は息巻いていた。

「いつか絶対大成してやる」

泣きながら書いた小説は確かなパトスと僅かなカオスを含んでいたけど、それを共有できるような小説仲間はいなかった。

「本当に生きにくい世の中になったもんだよな」

僕は自分一人だけがただ唯一全てを知ってるつもりになっていた。

それもこれも全部スマホが悪い。

ドラえもんのような便利な道具はみんなのもとにも訪れたのだから、僕と同じ全能感に酔った人間もまた多いのだ。

書き殴った自作の小説に埋もれながら泣き疲れて目を閉じた。


翌日は学校があった。

国語、体育、数学、社会、英語。

僕は国語の田淵先生が大嫌いだったから国語の授業を抜け出して裏山に向かった。

裏山というのは学校の裏にある山でたまに授業の一環でそこに行く時もあった。

僕はそんなことは関係なしに授業をほっぽり出して、裏山へと行くことが度々あった。

「鳩山ぁ!いる?」

「お、坊主授業どしたぁ?」

「鳩山ハンマー貸して」

この鳩山さんという人は僕が小学校の時に大変お世話になった人で、裏山に続く道にある途中の池に鯉がいたのだが、そこと裏山の入り口の草を刈ったり、鯉に餌をあげたりする山の入り口の管理人さんであった。

「坊主授業どした?」

トンカチを取り出して僕に渡しながら鳩山さんはいつも通りの質問をする。

「飽きたから抜け出してきたよ、ハンマーありがとう」

僕は鳩山さんに手を振る。

もちろんその手にはトンカチがしっかりと握られていた。

「危ないから振り回しちゃいかんよ、それから気をつけて行くんだよ」

山々の木々の間を抜け小さな渓谷を跨ぐ、大きなダムの横にある木と葉でできた秘密基地

そこの玄関をくぐると彼女がいた。

「やっときた、帰るよ」

「げ。ナギちゃん」

幼馴染の忍田 凪さん僕の初恋の人だ。

「田淵めちゃ怒ってたよ」

「だろうね」

「真面目に勉強しないと、私委員長だから、あなた呼びに来ないといけない、あーゆーOK?」

「oh...ok」

折角秘密基地に改築を施そうと思っていたのに、でもこの時の為に授業を抜け出しているといっても良い程この瞬間は気分が高揚した。

帰り道歩幅を合わせて彼女が少し先を歩く、それを見つめながらいつか隣を歩くことを想像したりもするけど。

ナギちゃんには好きな人がいる。

隣の席の明菜ちゃんだ。

女の子が好きなんだって、当時はよくわからなかったけど、今にして思えばよく俺に打ち明けてくれたなって思う。


______

「ナギちゃん好きな人いるでしょ?」

「...うん」

「そっか......誰?」

「明菜ちゃん」

「.....明菜ちゃん女の子だよ?」

「...そうだよ」

「...ごめんね」

「謝らないでよ」

「いや...ごめん」

君を好きな気持ちを迷惑に取られるかもしれないと思って謝ったけど、質問したことを謝ったんだと思われたかもしれない。

「また謝ってる、よくないよ謝りぐせがついちゃう」

_________


「おい、おーい!教室着いたよ」

「あ、うん」

ガラガラと音を立てて扉を開ける。

それと同時に授業終了のチャイムが鳴って、そこには腕を組んで貧乏ゆすりをしている田淵の姿があった。

「やーなーぎーだーこーうーじくぅ〜ん?」

「田淵先生...もしかして怒ってます?」

「もしかしてじゃなくてしっかりと怒ってます!優等生である凪さんにも迷惑をかけて!あなたには学生としての自覚はないんですか?」

「はい!すみませんっ!」

「またあなたは空返事で、ここまで心がこもってない謝罪は初めてです!」

教室からクスクスと笑い声が聞こえる。

僕にとってそれは心地の良いものだった。

なぜなら低俗な僕の承認欲求を生得的に満たしてくれたからである。

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