死にゆく冬

鐸木

死にゆく冬

冬は足音たてずに忍び寄る。秋の影からこっそり顔を出し、今か今かと待ち構えている。慇懃にこんこんと雪を降らす様や、秋を退くのをちゃんと待っている様を見ていると、冬はとても律儀な性質なのだろうと思う。

また、雪が降ってきた。びゅうびゅう吹き晒す北風に、つまらない感傷を抱いて、今年も泣いた。冬はいつも悲しい。わたしは、冬に親愛を感じている。冬が吹かせるあの悲しくも乾いた風は、生きる苦しみへの最後の抵抗に思えてならない。冬の風で悴んだわたしの手は、淋しげな様相を呈していた。枯れゆく木々、霜がかかる雑草、氷に変わる水溜り、ざらつく地面…。生の苦しみを叫び、死を甘受する冬を生きる者たちは、かくも淋しい貌をしている。それらをただ見ているしかできない冬は、どれ程辛いだろう。

また、雪が背中を叩く。泣いている。死にゆく生物を想って泣いているんだね。暗澹たる色濃い影が、わたしの背後に差し込んだ。わたしも涙しよう。こんなに健気な冬を、誰が嫌えるだろう。誰が責められよう。

わたしは、直ぐに溶けてしまう牡丹雪に、懸命に手を伸ばした。冷たい水滴が、頬を、指を、肩を濡らして冷やしてゆく。

死にゆく冬よ、どうかお元気で。わたしもいつか、そこに行くよ。

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死にゆく冬 鐸木 @mimizukukawaii

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