N博士の目覚まし時計

ロックホッパー

N博士の目覚まし時計

                       ー修.


 「博士、重力制御装置はどうなっているんですか。」

 投資家のエージェントは、いつまで経っても完成しないN博士の研究にいらだっていた。博士は重力制御の権威であり、そして千年に一度の天才と言われているが、残念ながら投資に見合う成果が出せていない。

 「投資家の皆さんも相当な額を博士に投資しているんです。そろそろ、成果を出してもらわないと投資家の皆さんに説明がつかないのですが・・・。」

 白衣を着た初老のN博士は自信を持って答えた。

 「君が言う通りだ。だから、私も、私なりに成果が出ていない原因を検討してみたのだ。その結果、私が規則正しい生活ができていないことが原因ではないかと思い始めた。そのためには、いつも朝寝坊する妻に協力してもらい、ちゃんと朝食を取ることから始めたらいいのではないかと思っている。」

 「えっ、博士には奥さんがいらっしゃったんですか。」

 「失礼な。私が結婚しているなんて信じられないような顔をしているじゃないか。まあそれはいいとして、妻がなかなかのつわもので少々のことではベッドから出てこようとしない。以前は妻を早く起こそうとしていたが、最近は無駄な努力を止めて、朝食を取ることなく研究を始めていたのだ。しかし、考えてみると朝食抜きでは頭が働くわけがない。」

 「なるほど。脳に栄養を補給することも重要かもしれませんね。」

 エージェントは、N博士の考えに疑問を抱きながらも適当に話を合わせた。

 「それでだ、なかなか起きてくれない妻を起こすための目覚まし時計を作ってみたのだ。」

 N博士は研究室の隅に置いてあった冷蔵庫ほどの大きさの装置を指さした。装置の中央には操作パネルやスピーカーが付いており、側面には使い道が判らないアームも付いている。また下部には車輪が付いており、自走することもできそうだ。

 「これが目覚まし時計ですか。かなり大きいものですね。なんでこんなに大きいんですか。何か複雑そうですけど・・・。」

 「そうだな。最も力を入れたところは、重力制御でベッドに寝た人の周囲の重力を一瞬遮断し、2mくらい落下したように感じさせて目を覚まさせる機能だ。」

 「えっ、そんなことができるんですか。」

 「失敬な。君は私を誰だと思っているんだ。他にも、ジェットエンジンのすぐ後ろにいるくらいの爆音でベル音を鳴らしたり、消防車のようにアームから放水したり、スタンガンほどの電気ショックを与えたりできるぞ。まあ、一例にすぎんが・・・。」

 エージェントは、目覚まし時計なんかに重力制御を組み込むより、重力制御で空が飛べる装置を作ってくれ、と言いたかったがなんとか言葉を飲み込んだ。

 「君、一度体験してみるかね。」

 「私でよければ一度体験させてください。」

 エージェントは投資家へ説明する必要があったため、少し不安があったが試してみることにした。N博士はエージェントを研究室の中のソファに横たわるように勧め、装置をいじりだした。

 「では、目覚ましを行うぞ、えい!。」

 N博士は装置のボタンを押した。その瞬間、エージェントは一瞬宙に浮いた感じがしてベッドに落ちたように感じた。

 「す、すごい!ちゃんと重力制御できているじゃないですか・・・・。これなら奥様も目を覚ますでしょう。」

 「それだけではないぞ。君が感じたように、この装置の周囲数Kmにもこの作用は及んでいるのだ。」

 「え、それじゃ空中とか地中とかにも影響が及ぶんですか。」

 「そうだ、その通り。もし地中にドラゴンが眠っていたら、そいつも目を覚ますだろう。」

 「そ、それはすごいですね。」

 エージェントは、なんでドラゴン?と思いつつもN博士の機嫌を損ねないよう話を合わせた。その時、そばに置いてあった装置が突然動き出し、研究室の壁を打ち破って研究室を飛び出していった。

 「いったいどうしたんですか。」

 エージェントは突然の事態にN博士に尋ねた。

 「うーん、よくわからんが私がドラゴンがどうのと言ったので、それに反応して目覚まし時計自体がドラゴン討伐に目覚めたのかもしれんな。まさに『目覚めし時計』だな。は、は、は、は・・・。」

 何が「目覚めし時計」だ、N博士は何を作っているんだろうか。エージェントはN博士がすごいのかどうかますますわからなくなったが、少なくとも投資家への説明は絶望的だと悟った。


おしまい

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