【短編2500文字】文化祭の奇跡
陽麻
文化祭の奇跡
僕の高校生活での立ち位置は、よく言う学園カーストの最底辺だった。
何故、そうなってしまったのか、分からない。
でも、単純に僕が休み時間も本ばかり読んでいたから、余計に目をつけられたのかもしれない。誰に? 岩井、田中の男二人組に。
この二人はいわゆる人を馬鹿にして楽しむ、質の悪い人種だった。
岩井は身体も大きく女子に人気もある男だ。田中は優男っぽく、やはり女子が放っておかないタイプの男。
そんな不自由のない高校生活を送っていそうな二人なのに、細くて小さい体格の僕に『目障りだ』と絡んでくる。
そんな、いわゆる人気者にバカにされた僕は、クラスで浮いた存在だった。
読んでいた本は動物関連の本だ。
僕は将来動物に関する仕事をしたかったから。
飼育員、とか、獣医、とか。
たくさん勉強しなくちゃいけないのも分かっているけど、なによりも彼らのことを知るのがとても面白かったから、動物の本を片っ端から読んでいた。
そんなこんなで最低な僕の高校生活でも文化祭がやってきた。
文化祭の出し物は、クイズ大会。
五人対五人でクイズをし、当たっている人が多い方のチームが勝ち。
そんな中、僕は雑用係としてそのゲームに参加していた。
箱に入ったクイズの書いてある紙をみんなに回す係りだ。
クラスの出し物なので、女子もいるし、岩井も田中もいる。
気まずいと思いながらも無言で仕事をしていると、対戦相手が一人足りない組みが出た。
「よ、本の虫。お前がチームに入ってやれよ」
岩井が僕に話を振る。
面倒くさいことを押し付けてやろうという魂胆だ。
そのチームを見ると、下級生だろう、一年生の男女四人組だった。
僕はその子たちが可哀そうな気がして、すすんでそのチームに入ることにした。
「ああ、いいよ。でも僕の名前は本の虫じゃない」
岩井に言ってやったが、岩井はちっと舌打ちをして、「うるせえよ」とドスの聞いた声をあげた。
「岩井、やめなよ。じゃ、チーム対抗クイズ大会を始めまーす」
女子の声が高らかに響く。バックミュージックがじゃかじゃかとかかり始めた。
昨今人気のJ-POPだ。
この女子は坂倉さんといったんだっけ。女子でも人気のある可愛い子だ。
坂倉さんは、僕たちの一年生チームと、僕たちと同じ学年の二年生チームで、どちらが先攻になるかじゃんけんをさせた。
結果は僕たち一年生チームが先攻。
坂倉さんが回してくる箱から、僕のチームの仲間がクイズの書かれた紙を引いた。
その引いた紙を坂倉さんが読み上げる。
「コアラは毒のあるユーカリを食べます。それでも平気なのは、盲腸が長いから。〇か×か」
一年生チームは首を傾げて相談していた。
そして――僕はこのクイズの答えを知っていた。
「〇だよ」
「え?」
驚いたように僕を見た一年生ににこりと笑みを返す。
「じゃ、じゃあ〇で」
そう答えた一年生チームに坂倉さんは「当たりです!」と大声で答えた。
一種の尊敬のまなざしが一年生チームから僕に向けられた。
「まぐれ、まぐれ」
「ははは」
岩井がちゃかすように僕に言い、それを受けて田中も笑った。
その険悪な雰囲気に一年生たちは一瞬たじろいだようだった。
後攻の二年生チームは、クイズを外した。
次にまた僕たちのチームになり、出された問題は、やはり動物の問題だった。
「おおかみは人になつかない。〇か×か!」
坂倉さんの声が教室内にひびく。
一年生の熱い視線が僕に集まった。
「分かりますか?」
一年生のうちの女の子が僕に遠慮がちにきいてくる。
「うん、〇だよ」
「じゃ、〇で!」
女の子は僕を信用して〇と答えた。
「せいかーい! 一年生チームすごいね」
たまたま出た問題が、動物系が多くて、僕はクイズに答えることが楽だった。
クイズゲームは進んでいき、二年生チームは二点をとり、僕たちの一年生チームも二点で、最期の五問目のクイズになった。
「ワニに追いかけられたら、一直線に逃げる! 〇か×か!」
一年生の男子が首を傾げて考えている。
考えているところを邪魔しちゃ悪いから僕はだまっていた。
しかし。
「先輩、分かりますか?」
と遠慮がちに聞くので僕は答えた。
「×だよ」
と。
「せいかーい! 一年生チームに景品を差し上げまっす」
坂倉さんは一年生チームに棒状のスナック菓子を配った。
それだけでも一年生は笑顔で僕に礼を言った。
「先輩のおかげで勝てましたよ」
「本当ですよ。すっごく物知りなんですね」
わいわいと一年生が僕をほめちぎる。
「僕、動物が好きなんだ。クイズも動物系が多かったし、偶然知ってた問題が多かったんだよ」
僕は照れて頭を掻いた。
一年生は僕にお礼をいいながら、教室を去って行く。
学園カースト最底辺の僕が……何故か輝けた瞬間だった。
「ねえ、動物が好きなの?」
坂倉さんが僕に話しかけてきた。
女子の中でも人気のある、可愛い子が。
夢みたいで、僕は舞い上がった。
「うん、僕、将来は動物に関した職業につきたいんだ」
「あはっ、私もそうなの。だからクイズも自然と動物関係が多くなっちゃって」
「あのクイズ、坂倉さんが作ったの?」
「そうだよ。ちょっと
「うん」
クラスの人気者の女子と親しく話す。
それでも僕は物怖じしないで普通に話した。
「また今度動物の話しよう」
坂倉さんが僕に笑いかける。
「ああ、また今度ね」
そう話をすると、次のクイズ対戦を始めるために僕たちは持ち場にもどった。
岩井と田中はいつの間にかいなくなっていた。
文化祭が終わり、三学期に入るころ、僕と坂倉さんはとても親しくなった。
それと同時に、岩井と田中の人気の株はがっくりと下がったようだった。
女子に言わせると「子供っぽくて残念」なのだそうだ。
僕は今も休み時間はたまに動物の本を読んでいるけれど、いつも坂倉さんと話すようになり、そのつてで女子の友達がたくさん出来たのだった。それにつられた男子の友達もできた。
僕は彼らと話しをして、相互理解を深めようと努力した。
そんな僕はよくみんなから「優しいね」と言われた。
僕はもう、学園カーストの底辺じゃない。
気のいい友達がいっぱい出来たのだから。
奇跡って本当にあるのだなって僕は思った。
END
【短編2500文字】文化祭の奇跡 陽麻 @urutoramarin
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