しあわせなクリスマス

九戸政景

しあわせなクリスマス

「わあ……美味しそう……!」


 クリスマスイブ、暖房であたたかな部屋の中で席に着いた少年は目を輝かせる。目の前のテーブルには、香ばしい香りを上げるチキンや雪のように白いクリームと赤い輝きを放つイチゴでデコレーションされたケーキ、他にもほかほかと湯気を上げるスープや彩り豊かなサラダが並んでおり、少年のそばには同じように椅子に座る両親や同年代の少年少女の姿があった。



「メリークリスマス! そして誕生日おめでとう!」

「おめでとうー!」

「うん、ありがとう! クリスマスと誕生日が同じなんて損かなと思ってたけど、まったくそんな事なかったよ」

「損だけにそんな事、ってな!」

「もう、お父さんったら……」



 母親が呆れたように首を横に振る中、少年達からは大きな笑い声が上がる。周りの人々の姿はとても幸せそうであり、少年の表情も幸せそうだった。すると、少年の目から一筋の涙が流れた。



「あれ、どうしたの?」

「ご、ごめん……こんなに幸せでいいのかなと思ったらちょっと涙が出てきて」

「もちろんいいんだぞ?」

「そうよ。せっかくのクリスマスで誕生日なんだもの。幸せでいいに決まってるじゃない」

「うん、そうだよね」



 少年は涙を拭う。少年を見る人々の目はあたたかであり、少年は自身を包む様々なあたたかさに静かに目を閉じた。



「幸せだなあ……あったかいからかなんだか眠くなってきたかも」

「おいおい、パーティーは始まったばかりだぞ?」

「そうなんだけど、なんだか眠くなっちゃった……」

「ふふ、いいわよ。プレゼントをあげる時には起こすから今は眠ってて」

「う、ん……わかっ、た……」



 少年はうつらうつらしながら答える。そして参加者達に見つめられる中で少年は目を閉じた。



「ほんとに、しあわせだなあ……」



 少年は微笑みながら呟き、そのまま静かに眠り始めた。





「わあ、かわいいお人形!」

「僕のはヒーローのベルトだ! これ欲しかったんだ!」

「ふふ、喜んでくれてよかったわ。ね、お父さん」

「うむ、そうだな。サンタさんに感謝するんだぞ?」

「「はーい!」」



 笑顔を浮かべる兄妹は声を揃えて答える。そして兄妹がプレゼントを改めて喜び、幸せそうな子供達を両親が微笑ましそうに見る中、テレビではアナウンサーがニュースを読み上げ始めた。



『次のニュースです。昨日、✕✕市の民家で男の子が亡くなっているのが発見されました。亡くなっていた男の子は冷めたチキンやケーキ、カップサラダなどが並んだテーブルにつき、その周囲に並べられた椅子には『おかあさん』や『ともだち』と書かれたプレートが提げられたぬいぐるみが置かれていたもようです。男の子の死因は凍死と見られており、近隣住民の聞き取りから普段から男の子がネグレクトを受けていたとされていて、警察は母親と父親を重要参考人として現在捜索しています。以上、ニュースをお伝えしました』



 画面は悲壮的な顔をするアナウンサーからクリスマスに湧く街の人々の様子に変わり、家族達は幸せなクリスマスを過ごしていた。

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しあわせなクリスマス 九戸政景 @2012712

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