彼女は本で世界を救った

有栖川 花音

第1話 漫画家の魂の転生先

20XX年の現代にて、絶大な人気を誇った漫画家が居た。

誰よりも気高い、紛うことなき天才漫画家。

そんな彼女はタチの悪い風邪を拗らせ、死んだ。


彼女の魂は死後、フィクション(物語)が存在しない世界〝アルメシャル〟の孤児として産まれ変わった。

その孤児〈ステア〉に彼女の記憶はない。

だが、少女は珍しい夜空のように深い蒼色の瞳を持っていた。

そして、記憶はなくとも、漫画家としての技術と想像力を受け継いでいた。


 ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ 


「…!返して、私のパン!」

ステア(私)は孤児だ。

「へへーん!見せびらかしてる方が悪いんだい!」

「そーよそーよ!」

だから、努力して、正規の手段で食べ物を得ても、奪われてしまう。

奴らはここらで有名な悪ガキ兄妹。

ジョシュアとジュリア。

いつも私が稼いで買ったものを横取りしてくる。

でも、それは仕方のないこと。

何故ならここは、弱肉強食の貧民街だから。


そして私は、空腹に悶えながらも水を求めて森に来ていた。

『森の湖に行けば、今日を乗り切れる…』

人は、水だけで2~3週間は生きられる。

その為、私は危険だと分かっていても、今日を生きるために湖へと歩みを進める。

この森に住む多くの動物達は、温和でこちらから攻撃しない限り襲ってこない。

だが、それでも例外は居る。

狼などの種族は縄張り意識が高く、少しでも縄張りに入ると問答無用で喰い殺される。

『気を付けなきゃ…』

そう、思っていたのに…


「かヒュー、、、かヒュー、、ヒュー」

『…シク、じっタ……』

狼に左足のももと右の脇腹に喰らいつかれてしまった。

血を大量に失った。

このままでは、間違いなく、死ぬ。

『孤児は、やっぱり、誰にも看取られる事なく、死ぬ運命…なんだ、……』

私は、這いずりながらも、馬車が偶に通る小道まで来て意識を失った。


 ◆❖◇◆❖◇◆❖◇◆❖◇◆❖◇◆❖◇


ガラガラ…

馬車が通る音がする。

しがない商人の端くれが、いつの間にか子爵に成った。

『私はなんと幸運な人でしょう。』

そう、思っていた時期もあった。

けれど…

最近はどんな事業をしても失敗ばかり、このままでは一代で没落してしまう…

「ヒヒーン!」

「おわっ!?」

馬の甲高い鳴き声と共に馬車が大きく揺れる。

「何事ですか?」

私はそう言い、馬車から降りる。

するとそこには…

「こ、子供?」

まだ年端もいかない幼女が大量に血を流して倒れていたのです。

我が家はお金もあまりありませんし、いつもなら見て見ぬ振りをしたでしょう。

ですが、この時は何故だかこの幼女を助けねばと思ったのです。

私は御者と協力して幼女を馬車の中に運び込み、邸宅へと急いで向かったのでした。

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彼女は本で世界を救った 有栖川 花音 @arisugawacanon

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