彼女は本で世界を救った
有栖川 花音
第1話 漫画家の魂の転生先
20XX年の現代にて、絶大な人気を誇った漫画家が居た。
誰よりも気高い、紛うことなき天才漫画家。
そんな彼女はタチの悪い風邪を拗らせ、死んだ。
彼女の魂は死後、フィクション(物語)が存在しない世界〝アルメシャル〟の孤児として産まれ変わった。
その孤児〈ステア〉に彼女の記憶はない。
だが、少女は珍しい夜空のように深い蒼色の瞳を持っていた。
そして、記憶はなくとも、漫画家としての技術と想像力を受け継いでいた。
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「…!返して、私のパン!」
ステア(私)は孤児だ。
「へへーん!見せびらかしてる方が悪いんだい!」
「そーよそーよ!」
だから、努力して、正規の手段で食べ物を得ても、奪われてしまう。
奴らはここらで有名な悪ガキ兄妹。
ジョシュアとジュリア。
いつも私が稼いで買ったものを横取りしてくる。
でも、それは仕方のないこと。
何故ならここは、弱肉強食の貧民街だから。
そして私は、空腹に悶えながらも水を求めて森に来ていた。
『森の湖に行けば、今日を乗り切れる…』
人は、水だけで2~3週間は生きられる。
その為、私は危険だと分かっていても、今日を生きるために湖へと歩みを進める。
この森に住む多くの動物達は、温和でこちらから攻撃しない限り襲ってこない。
だが、それでも例外は居る。
狼などの種族は縄張り意識が高く、少しでも縄張りに入ると問答無用で喰い殺される。
『気を付けなきゃ…』
そう、思っていたのに…
「かヒュー、、、かヒュー、、ヒュー」
『…シク、じっタ……』
狼に左足のももと右の脇腹に喰らいつかれてしまった。
血を大量に失った。
このままでは、間違いなく、死ぬ。
『孤児は、やっぱり、誰にも看取られる事なく、死ぬ運命…なんだ、……』
私は、這いずりながらも、馬車が偶に通る小道まで来て意識を失った。
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ガラガラ…
馬車が通る音がする。
しがない商人の端くれが、いつの間にか子爵に成った。
『私はなんと幸運な人でしょう。』
そう、思っていた時期もあった。
けれど…
最近はどんな事業をしても失敗ばかり、このままでは一代で没落してしまう…
「ヒヒーン!」
「おわっ!?」
馬の甲高い鳴き声と共に馬車が大きく揺れる。
「何事ですか?」
私はそう言い、馬車から降りる。
するとそこには…
「こ、子供?」
まだ年端もいかない幼女が大量に血を流して倒れていたのです。
我が家はお金もあまりありませんし、いつもなら見て見ぬ振りをしたでしょう。
ですが、この時は何故だかこの幼女を助けねばと思ったのです。
私は御者と協力して幼女を馬車の中に運び込み、邸宅へと急いで向かったのでした。
彼女は本で世界を救った 有栖川 花音 @arisugawacanon
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