ベッド男

天川裕司

ベッド男

タイトル:(仮)ベッド男



▼登場人物

●浦賀有人(うらが ゆうと):男性。35歳。独身サラリーマン(婚約している)。

●川畑佳奈子(かわはた かなこ):女性。34歳。独身OL。有人のフィアンセ。本編では「佳奈子」と記載。

●秋川香恋(あきかわ かれん):女性。30代。有人の本能と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●街中:デパートやいかがわしいお店など必要ならで一般的なイメージでお願いします。

●Snuggle in Bed:お洒落なカクテルバー。香恋の行きつけ。

●佳奈子のマンション:アパートから引っ越すやや高級マンション。


▼アイテム

●Chain of Charm:香恋が有人に勧める特製のドリンク。これを飲むとその人の魅力が充分に発揮される。でも香恋との約束を破るととんでもない目に遭う(この辺りはややニュアンスで描いてます)。


NAは浦賀有人でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは、1人の人をずっと愛する事ができますか?

簡単なようで、これは結構難しい事。

なぜ難しいのか?それは人に欲望がある為。

今回は、1人の人を変わらず愛する事ができれば

それなりの幸せに辿り着いた筈なのに、

そう出来なかった人にまつわる不思議なお話。



メインシナリオ〜


ト書き〈デパートでデート〉


佳奈子「あ〜、あたし、あのベッド欲しいなぁ〜♫もうず〜っとこっから眺めてるだけで買えないんだもんなぁ。やっぱり値段高いし」


俺の名前は浦賀有人。

今年35歳になる独身サラリーマン。


いま隣に居るのは俺の彼女の佳奈子で、

俺達はもうすぐ結婚する予定だから

独身生活もあと僅か、という事になる。


有人「あのベッドかぁ。でもあんな大きなベッド、お前のアパートに置いたら、いろいろ手狭になるんじゃないか?」


佳奈子「大〜丈夫よん♪ほら前に言ったでしょ?あたしもうすぐ都内のマンションに引っ越すんだから♪」


有人「そうだっけ?」


佳奈子「あなたとの結婚に備えて引っ越すって、あたし言ったじゃない?もう〜話聞いてないんだから!」


有人「悪い悪い、そういえば言ってたなぁ。よし、じゃあ今度ボーナスが入ったらあのベッド買ってやるか♪」


佳奈子「え!?ほんと?」


有人「ああ」


佳奈子「嬉しい♪」


てな事で俺は今度、ずっと佳奈子が欲しがっていた

その大きなベッドを買ってやる事にした。


ト書き〈数日後に有人が1人でカクテルバーへ〉


でも、そうは言っても俺には不安があったのだ。


佳奈子は確かに俺の事を愛してると言ってくれてはいたが、

彼女はなにぶん美人で他の男からも未だによく言い寄られており、

八方美人タイプの佳奈子はそんな男達にも良い顔をして、

その内の誰かと一緒にどこかへ行ったり飲みに行ったり、

結構、身軽な生活をしていたのである。


果たしてこのまま結婚しても上手くやっていけるかどうか。

佳奈子の心を俺に留めておく事ができるかどうか。

俺は男として自信が無かった。


有人「はぁ、悩んでてもしょうがないか」


ある日の会社帰り、俺は1人で飲みに行く事にした。

1人でちょっといろいろ考えたい事もあったからと

いつもの飲み屋街を歩いていた時…


有人「ん、あれ?こんな店あったっけ?」


全く知らないバーがある。


『Snuggle in Bed』と言う名前の少しお洒落なカクテルバーで、

なかなかよさげだったのもあり俺は中に入って

いつものようにカウンターにつき1人飲んでいた。


すると…


香恋「こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。

見ると結構な美人。


名前は秋川香恋さんと言い、都内で恋愛コンサルタントや

メンタルヒーラーの仕事なんかをしてると言う。


でも少し喋っている時、段々不思議な気になってきた。

何か「昔にどこかで会った事がある人?」

のようなイメージが湧き始め、恋愛感情が湧かない代わりに

「自分の事をもっとよく知って欲しい」

「悩みを聞いて欲しい、そしてその悩みを解決して欲しい」

なんて事を思わされ、気づくと俺はその通りに行動していた。

結構、不思議な体験だった。


香恋「え?それは幸せな事じゃないですか♪どうして不安なんです?」


俺は佳奈子と婚約している事を彼女に伝えた。


でもそのすぐ後にあの悩み…

佳奈子を自分に繋ぎとめておく事ができるかどうか、

幸せな将来をどうしても素直に信じられない。

その辺りの事も伝えた。


香恋「フフ、そんなこと誰だって不安に思ってるものですよ?でもそう言う悩みこそ、夫婦の愛で乗り越えて行かなくちゃ。恋愛や結婚はハードルの連続とも言います。そのハードルを二人三脚で乗り越えて、初めてその男女の間に本物の愛が生まれたりするものです。どうか彼女の事を信じてあげて、2人で一緒に明るい未来へ歩いて行って下さい」


有人「はぁ…」(何となく頷く)


俺は何となく頷いていたが


この人に話しても結局は同じだ。

自分が思ってる悩みなど、自分にしか理解できない。

そんな事も考えた。


そして、そんな浮かない顔をしている俺に彼女は…


香恋「もしかして、あなたが悩んでいる理由はもう1つ他にあるんじゃないですか?」


といきなり真面目な顔して聞いてきたのだ。


有人「え?」


ちょっと驚いた。

そう、このとき俺は確かにもう1つの悩み、

誰にも言えない、隠し通してきた自分だけの悩みがあった。


香恋「…その悩みってもしかして、あなたの性癖そのものにあったりして?もしそうなら悩まれる理由は分かりますよ?誰でも他人を完璧に支配する事など出来ません。だから無意識の内にも一線を引き、ある程度その支配を諦めて誰かと付き合うものです。だから『信じる』なんて言葉も生まれてくるんでしょう」


香恋「でも自分自身に悩みがあって、解決したいのにそれを解決できない…と言うのは自分の力量不足に悩む事になり、その悩みを全て知っているからこそ、それをどうにも出来ない自分を悲観してしまう。人が持つ悩みとは、得てして自分から出ている事が多いんですよ…」


本当に驚いた。

これまで俺が思い続けてきた事を、

彼女はそのそのまま言葉にしてきた。


確かにその通り。

俺は自分の性癖に1つ悩みがあった。


有人「…そうなんです。こんなこと人に言うのは本当に恥ずかしいんですが、僕、どちらかと言うと女性に攻められたいタイプなんです。でもこれまで、結婚するならそんな自分の性癖は誰にも見せちゃいけない、もっとしっかりしなきゃ…そんなふうに自分を騙し続けてここまで来ました。もしこんな自分の正体が彼女にバレたら…それを思うとどうにもなかなか…」


有人「アハハw変ですよね、こんな事で悩んでるなんて」


香恋「いいえ、そんな事はありません。あなたが悩んでいる事は、実は女性のほうでも悩んでいたりするものです。それにおそらくあなたはすごく性格が真面目なんでしょう。夫婦生活を利用して、そうした自分の欲望を満たそうとする人も居るのに、あなたにはそれが出来ない。分かりました。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私が少しお力になりましょうか?」


そう言って彼女は持っていたバッグから

栄養ドリンクのようなものを取り出し、

それを俺に勧めてきてこう言った。


香恋「ぜひこちらを1度お試し下さい。これは『Chain of Charm』と言う特製の栄養ドリンクでして、飲めばその人の内なる魅力を存分に発揮させ、男性なら女性、女性なら男性の心を大きく刺激して、その魅力に引き寄せる効果を持っています」


香恋「あなたはさっき、彼女さんの心を自分に留めておけるかどうか…それが心配だとおっしゃってました。私が手助けするのはその点で、彼女の心を自分にしっかり繋ぎ止めておく事が出来たなら、あなたのそのお悩みも半減する事でしょう」


香恋「いかがですか?自分の魅力を存分に彼女に伝え、明るい未来を歩いて行こうとは思いませんか?もちろんその間、あなたは自分のその性癖を何とかして治し、彼女との本当の夫婦生活を歩んで行く…その為の努力を続ける事にはなりますが」


やはり彼女は不思議な人だ。

そう言われると本当にその気にさせられる。


俺は彼女の言葉を最後まで聞かない内に、

そのドリンクを手に取りその場で一気に飲み干していた。


有人「ふぅ。…これで彼女の心は…」


香恋「有人さん。1つだけ約束して下さい。私がそのドリンクを差し上げたのは、飽くまであなたとその彼女さんの明るい未来を願う為です。こうしてドリンクを飲み、その一歩を踏み出した以上は、絶対に彼女を裏切らず、あなたはその性癖を必ず直す事。それさえ出来たら、あなた達は必ず明るい将来を迎える事が出来ます」


ト書き〈結婚前にトラブル〉


そして数週間…数ヶ月が過ぎ、俺達はいよいよ結婚を間近に控えた。


(新しく引っ越したマンションにて)


佳奈子「ウフフ、あのベッドが届くなんて嬉しいなぁ♪早く来ないかな〜」


佳奈子はもう新しいマンションに引っ越しており、

俺は今日、その佳奈子のマンションに

あのベッドを送り届ける予定にしていた。


しかもその日は佳奈子の誕生日でもあり、

バースデープレゼント代わりに

そのベッドを送る予定にしていたので、

バースデーカードとちょっとした手紙も添えておいた。


しかしこの時、俺の身にはもう既にトラブルが起きていた。


(数日前)


数日前。

俺はどうしても我慢ができず、又あの自分の性癖に従う形で、

よからぬ店に行き、よからぬ事をしてしまっていたのだ。


女性から責められる事に非常に興奮してしまう俺。


そして事を終えて、その店からの帰り道。

普段ほとんど人が通らない路地裏を歩いていた時…


香恋「こんばんは、有人さん」


と、いきなりあの香恋さんが現れたのだ。

「えぇっ!?」と非常に驚いた。


人の気配は何もせず、またその日、

その通りを歩いていた人は誰も居なかったのに、

いきなり背後から現れた事にまず驚いた。

恐怖した…と言っても良い程。


有人「あ…あんた…一体、何者なんですか…」


と言おうとしたところ俺のその言葉を遮るようにして彼女は…


香恋「あなた、私との約束を破りましたね。あれほど言っておいたのに。結婚する以上はその性癖をなんとか治し、真っ当な夫婦生活…本物の夫婦の愛を掴み取る為の努力をするようにと…。確かに他の人はそんな事をしながら、自分達のその行動を正当化して愉しんで居る事もあるでしょうが、あなたは私との約束を破りました。こうなった以上、あなたには責任をとって頂きます。私と出会ってしまった事が運の尽き、そう思って頂くしかないでしょうねぇ…」


そう言って香恋が指をパチンと鳴らした瞬間、

俺の意識は飛んでしまった。


そして俺は今…


ト書き〈ベッドになった有人〉


(家のチャイム)「ピンポ〜ン♪」


佳奈子「あ、はぁ〜い♪来た来た♪」


彼女の家にベッドが届いたようだ。


佳奈子「すっごぉい♪こんなに豪華で大きくて、しかもふかふかの羽毛ベッド♪最高ぉ〜♪」


佳奈子「ん?…あ♪有人からのバースデーカード♪あ、手紙なんかもちゃんと添えちゃって♪」


(有人の手紙:セリフの形で)


有人「佳奈子、お誕生日おめでとう。このベッドを君に送る事ができて、俺も本当に嬉しいよ。多分このベッドが着く頃には俺もそこに行ってると思う。これからも2人で一緒に、ずっと幸せにやって行こうな。…実はさ、俺、お前にこれまで1つだけ言ってない事があったんだ。俺の秘密ってやつだけど、オレ実は、女性に責められる事に本当に興奮しちゃうんだよ」


佳奈子「…え?なにこれ…」


有人「結婚しても、お前の尻にしかれたいってずっと思ってた…。いや、尻だけじゃなく、お前の全身にしかれると…もっと気持ち良いだろうなぁ…。今のお前の体の重みがさぁ…俺の体を刺激して…めちゃくちゃ興奮してるんだよぉ…俺…今…」


佳奈子「な、何よこれ…何なのよ…」


手紙の内容が気味の悪い方向へいって佳奈子は驚き、

それまでベッドに寝そべりながら読んでいたその手紙だが、

とっさに体を起こし、ベッドから離れようとした。


その時、不意に佳奈子はクシャミをした。


佳奈子は時計を見ながら

もうすぐ俺がやってくる予定にしていたその時間を確かめ…


佳奈子「こんな手紙、誰かのイタズラよきっと…!」


と、俺が書いたその手紙をどうしても俺のモノだと信じなかった。


でも一向に部屋にやってこない俺を心配したのか佳奈子は、

「今どこにいるのよ?有人…!?」

とベッドラックに置いていた携帯を手に取り、

すぐ俺に電話をかけようとしたらしい。


そのとき携帯を見ると、一通のメールが入っていた。

そのメールは俺が送ったもので…


有人「グフフ…さっきのクシャミもやっぱり可愛いね…」


と書かれてあった。

着信時間は、さっき佳奈子がクシャミをしたのと丁度同じ時間。


ト書き〈マンションを見上げながら〉


香恋「フフ、私は有人の本能と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。彼が自分の性癖を治せない事なんて初めから分かっていたわ。その上であのドリンクを飲ませて彼の夢を叶えてあげた」


香恋「あのドリンクは確かにその人の魅力を内側から発揮させるけど、その魅力は特定の人だけじゃなく、他の人にも影響しちゃうものなのよね。だからあのお店でも彼はきっと、とても人気者だった事でしょう。女性店員もいじめ甲斐があった事でしょうね…」


香恋「結局、有人は佳奈子のベッドになってしまった。彼女の全身にいつも敷かれて眠る彼。さぞ、本望と言ったところかな。…今度は彼女があのベッドを怖がっちゃって、捨てちゃわないように何とか彼女をなつかせて、別の愛で彼女を抱擁してあげなきゃね…」


(※)これまでにアップしてきた作品の内から私的コレクションを再アップ!

お時間があるとき、気が向いたときにご覧ください^^


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=XGEWF7SnCMc&t=163s

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ベッド男 天川裕司 @tenkawayuji

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