1話 夢のような物語



 また、朝か……窓からは太陽がこちらを覗いている。日の光で肌は熱くなって体がだるい。ベットの上から気だるげに時計を見るとカチカチと動く時計の針はもう昼の11時を指していた。

「……もう見飽きたな」

 変わらない風景。同じことの繰り返し。ただそれだけ――。

 

 眩しい光が目に飛び込んできた。どうやらこの国――「神聖帝国」の夏はまだ俺を寝かせてはくれないらしい。宗教色の強い国ならもっとこの暑さを神秘的な力で何とかしてほしい……そんな他力本願的なことを思う。

 外で忙しなく鳴く蝉と違い、俺はだらだらと寝転んでいた。開いた窓から聞こえる求愛の声とギラギラと照りつける太陽に少し嫌気がさしたがそれもすぐにどこかへと行ってしまった。

「起きなよフリー!もう12時だって!」

 奴が来た――白く長い髪が風に戦がれるベラ・コリウス。うるさい声が耳を刺激する。

「なんでお前は平然と人の家にいるんだよ。朝からベラはごめんだ」

「理想の展開でしよーそんなこと言わない。私の心が傷つくよー」

「それは残念。ところでベラ――母さんはいるのか?」

「いるいる、とっくに昼ご飯作ってあるよ。早く食べよー?」

「だからなんで家族づらなんだよ」

 俺は呆れたように言った。

「早く降りてこないと、昼なしだから!」

 寝起きぐらいゆっくりさせてもらいたい。切実にそう思う俺だった。俺は一階に降りると、茶色い机にはミネストローネとパンがあった。俺は椅子に座って食事にありついた。朝は食欲がない……義務的に口にパンを運ぶ。

「さあ、ベラも食べてね。今日は12月24日クリスマス・イヴだからね、楽しく食事をしなきゃ!――ところでベラ、フリー、今年もあれをするからね。『平和の神モッリス』の神聖な夜はいつもパーティをする――もちろん知ってるよね。あっ、コリウス家のみんなも遊びに来ていいからね?まあ、コルウスとコリウスだし、家族みたいなものか。ふふ」

母さんはいつにも増して饒舌だった。

「ありがとうございます。遠慮なく遊びに行きますね!」

相変わらず、さっきからベラは上機嫌だ。

「母さん。今夜はお父さんは帰って来るよね?」

母さんはパンを飲み込んで言った。

「うん、そのことなんだけどね。今日はお父さん帰って来れないらしいの。だから今夜は俺抜きで楽しく過ごしておいてだってさ」

 父さん、ソル・コルウスは仕事に行っていた。多分、今回も民俗学の研究として遠い島国「ひもうす」に行っているんだろう。

「まあ、父さんクリスマスなんか興味なさそうだもんな」

「たしかに、それはそうだわ」

 母さんは納得したように笑った。

 3人でミネストローネとパンを嗜み、食器を片付けていると窓の外から賑やかな子供達の声が聞こえてきた。どうやらそろそろ愉快なサンタクロースからのプレゼントタイム。毎年恒例のこの行事は俺たちアウロラに住む人々にとって大切なものになっていた。

「今年は何がくるんだろう?お菓子の詰め合わせかなー?」

「そうだな、俺もお菓子がいい。欲を言うと月餅がいい」

「お母さんは新しいお父さんがいいわー」

 母さんの冗談は笑えない。昔からそうだ。

 陽気な音楽がながれ、玄関の扉をノックする音がコンコンコン。コルウス家にもクリスマスが来たのだ。扉は勢いよく開かれ――。

「めぇりぃいいいいいくりすまぁぁあす!さあ今年もプレゼントを持って来たぞ!今年は特別にいい子には大量のローストターキーだああ!喜べ!」


「あら、残念。新しいお父さんはいないの」


「くそっローストターキーだったか……」


「お菓子……」


「……ずいぶん残念そうだな。まあ!ないよりかはマシだろ?」

 手渡しで各々が大量のローストターキーを受け取った。サンタクロースの自腹なんだろうか、どこから大量のローストターキーを準備できるお金が湧いてくるのか……。

「じゃあ、来年もいい子にしてるんだぞー!次は七面鳥をプレゼントしてやるからな」

「肉系のやつしかないのか……」

 陽気な夏のサンタクロースは次の子供達のもとへと去って行った。いよいよクリスマスって感じだな……。少し実感が湧かないが。

 大量のローストターキーを受け取った俺は次々に冷蔵庫に詰めていく一方で母さんは食器を洗っていた。

 俺を横目に母さんは言う。

「フリー。申し訳ないんだけど、ビス君の家に行って来てくれる?」

「あー牛乳と砂糖がないんだったけ?持ってこいってことだろ」

「うん、ありがと。あ!いい忘れてた。ベラもフリーを手伝ってあげてねー?」

「わかりましたー!」

「じゃ、行くぞ!!ベラ!クラヴィス家の長男様にメリークリスマスだ!」

俺たちは颯爽とクラヴィス邸へと急いだ。


 こんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんこんん……ドアをノックしても誰も出てこない。

「誰かいないのかー?ビスー牛乳を取りに来たぞー!」

シーンとしていて、家の中からはちょっとした物音すらしない。窓から家の中を覗いてみたが、見えたのは棚の上に1人寂しく置かれたサンスベリアだけだった。

「誰かいないのかな?フリー、ビスは牛舎の方にいるかもしれないよ。見に行ってみようー」

「そうするか」

 

 牛舎の方に行ってみると赤と白の変なやつが1人。

「変なやつがいるぞ。ん……?サンタクロースか」

 そう……赤と白の変なやつはさっきのサンタクロースのお兄さんだった。

「メリークリスマス!また会ったねー」

「メリークリスマス!悪いんだが今すぐにでも助けてくれないか……はあ、牛のよだれで溺れそうなんだ」

  サンタクロースは俺たちに向かって微笑んだ。しかしその顔はなんとも悲惨なものだった。乳牛たちに体全体を舌で舐め回されていたのだ。

「はは、前世はイケメンの牛だったんだな。羨ましいよお兄さん」

フリーは無邪気に笑った。

「牛にモテてどうするんだ?まったく、今はそのジョークを楽しむ余裕はないよ。はあ、とにかく早く助けてくれ。助けてくれるいい子にはローストターキー、いや、お菓子の詰め合わせをあげるからさ。助けてくれよ。なあ……」

「お菓子の詰め合わせ!?フリー、助けよーよ!」

「助けるか……。お兄さんからはローストターキーをたくさんくれた恩があるからな。それとお兄さん。さっきの発言、取り消すなよ!」

 俺は牛たちにドロップキックをかました。それも盛大に派手に大胆に。


「――なるほどな、それで牛たちにドロップキックをしたと……」

「はい」

「はい……」

 俺たちは土下座をしていた。ビスの隣では唾液まみれのサンタクロースがハンカチでよだれを拭いている。土下座をしている俺たちを見てサンタクロースは言った。

「まあビス。僕を助けるためにフリーとベラはやってくれたんだ。許してやってくれ」

「まあ、お兄さんを助けるためならしゃーないか……牛を傷つけるのはちょっと許せんけど、今回だけは特別に許すわ。で、牛乳と砂糖を取りに来たんやったな。うい、これ。牛乳と砂糖」

ビスから陶器の壺に入った牛乳と砂糖を受け取る。ついでにサンタクロースから二度目のプレゼント――お菓子の詰め合わせだ。

「ありがとう!ビス」

「また牛乳貯めとかんとな……まっ、貸し1てことで!今日の夜、遊びに行くからな。沢山ケーキを用意しておけよ。それもとびっきりのやつを。着色料がたくさん入ったベトベトなケーキはいらんからな!」

「了解了解大丈夫だってー。じゃあフリー行こー。ばいばいビス!」

「ばいばーい。もう牛傷付けんなよー!」

 逢魔ヶ刻の中、夕日で染まった緑の畦道を通って家に帰る。すぐ側では鈴虫が鳴いていた。
















「やっ!」



 




 

「僕だよ」






「僕思ったんだけどさー。この物語面白くないよね。飽きてきただろ。こんな、平凡でさ、なんの事件も何の起もなく結が来るのかすらわからない……退屈で、見る気が失せてゆくストーリー。まるで――他人から聞いた平凡でどうでもいい夢の話みたいだよね本当に。この物語を小説にしたら一体何万文字になると思う?10000字?100000字?それとも10字?どれにしろつまらない物語が長ったらしく牛のよだれみたいに続くか――たった少ししか書く内容がないペラッペラな三文小説になるかのどちらかだろ。笑えるね!ま、安心してよ!僕がもうそろそろ面白可笑しくしてあげるからさ。ね――」





 

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