第13話 大迷宮【第三階層】
【第三階層】
<閃光の剣>の面々は、その名に恥じない剣の腕で第一階層を難なく進み、第二階層入口の部屋の敵もアイオリアらの協力もあって、見事に平らげてしまった。
ここを前進基地として、<獅子隊>が第二階層を再び進み、修復の済んだ罠を回避しながら、補充された巡察隊と戦い、隅々まで探索した。
その結果、ついに第二階層の秘密の出入り口を見つけることに成功した。
<閃光の剣>のメンツを呼び寄せ、巡察隊の詰め所であろう部屋へ斬り込む。
案の定、中には武装した亜人たちが待機していたが、見つかるとは思っていなかったと見え、不意をつくことが出来た。
第二階層を2パーティで隅々まで点検し、これ以上亜人の詰め所となる部屋がないことが確認できたため、<閃光の剣>は当初よりも前進した第二階層最後の部屋でキャンプを張ることになった。
<獅子隊>も同時に休憩に入り、第三階層の探索に備えて補給、食事、休憩を取った。
第三階層は当然ながら激戦続きとなった。
罠の数こそ減ったものの、組織だった亜人たちの部隊が非常に手強かったのだ。
ときには倍する敵と戦うこともあった。
さらには伝承にしか登場しないような魔獣まで亜人たちに飼いならされた戦力として立ちはだかったのである。
それでもメンバー総力を上げての戦いでひたすらに鍛え上げられてきた<獅子隊>は、あらゆる敵を撃滅し、迷宮深奥へと進んでいく。
幾度も迷宮に入り直しながら。
<閃光の剣><アンセル><鉄牙>も<獅子隊>ほどではないが、数多くの戦いを経て成長していった。
こうして<獅子隊>は第三階層の踏破に全力投入できるようになったのである。
<番犬>
その部屋に入ると、巨大な物陰が左右にあった。
むくり、とその体が起きる。
黒い体毛に巨大なシルエットの犬型魔獣。
その赤い目は爛々と燃え、口からも炎が吹き出している。
首輪と鎖で繋がれて入るものの、部屋の中を自由に動くくらいの長さはある。
「ヘルハウンドです。
魔術付与を!」
キー・リンが叫ぶ。
リョーマとキー・リンが即座に魔力付与の呪文を詠唱し、前衛3人の武器をさらに強化する。
体高3mを超える巨大な魔獣は、猛然と前衛3人に襲いかかった。
アイオリアとイリアス兄弟が、その鼻っ面に強烈な闘気の爆発を叩き込む。
ギャン、と悲鳴を上げたヘルハウンドだが、そこは瞬時に体勢を立て直し、再び食らいつこうとした。
アイオリアは大盾に闘気を満たし、もう一度右のヘルハウンドの顔面をぶっ叩いた。
その隙をついて、ヴレンハイトが過たず右のヘルハウンドの目を狙い、大剣を突き刺す。
目から血ではなく炎を吹き出しながら、右のヘルハウンドはのたうった。
オルディウスの方は、左のヘルハウンドに対し、抜き胴の要領で開いた口を横真一文字に切り裂いた。
咬合筋を断ち切られたヘルハウンドは、閉じられなくなった口から焔を吹き出しながら身悶えた。
とはいえ、炎を吹き出した部位は、恐るべき速度で修復されていく。
ヘルハウンドが咆哮した。
ビリビリと部屋に響き渡り、フィレーナ、アーサー、キー・リンが耳を抑えてうずくまる。
<畏怖の咆哮>と呼ばれる能力で、聞いた者は恐怖にすくんで身動きが取れなくなるというものだ。
グインが即座に<平常化>の祈りを捧げ、回復させる。
前衛3人にさらにアミルが加わり、後衛からは魔力弾や電撃、真空波が飛ぶ。
ゲバのクロスボウもヘルハウンドの目を貫き、その動きを鈍らせた。
噴き出す炎はアミルが緩和し、致命打となる噛みつきを避けながらダメージを積み上げる<獅子隊>一行。
四足獣というのは思いの外頑丈で素早く、厄介な相手なのである。
時間にして数分に及ぶ戦いの後、やっとの思いでヘルハウンド2頭にとどめを刺すことに成功した。
「ふーっ」
珍しくディオノスが息を吐く。
リョーマには魔力容量で劣る分、魔力弾の連射で疲労したのだ。
キー・リンが魔力補充の水晶をディオノスに渡す。
滲んでいた汗が引き、疲労の色が目に見えて軽くなる。
「助かったぜ、ディオノス。」
アイオリアが言う。
着実にダメージを蓄積できる魔力弾を撃てる人材が豊富なのは、本当に前衛にとってありがたいことなのである。
<冒険者の天敵>
その部屋は変哲のない石造りの四角い部屋であった。
いや、変哲がないわけではない。
部屋の中に金貨と思しきものがいくつも転がっている。
「罠か?」
アイオリアの直感が警告を鳴らす。
ずる、と地面から何かが滲み出してきた。
不定形の粘液のようであった。
「スライムか!」
アイオリアは一歩下がった。
今まで足をおいていたところに、にゅっと触手のようにスライムの先端が生える。
一瞬遅ければ、スライムに包まれて溶かされていたかもしれない。
「かなり大きいな・・・」
リョーマが言う。
<生物感知>をかけた結果、床下にかなり広く染み込んでいるようであった。
酸性の粘液を持つが故にあらゆる物を溶かし、不定形故に剣で斬っても斬れない冒険者にとって最悪の部類に近い敵である。
オルディウスが地面を思い切り踏みしめた。
大地の精霊力と闘気を石畳に流し込む。
ずるり、とスライムが石畳の上に押し出される形で全体を出した。
4,5m四方はあるだろう。
捕まればただでは済まない。
ボッ!と音がしてスライムの体が炎に包まれる。
アミルの火炎術だ。
石畳の中に逃げ込もうとするスライムを、そうはさせまいとアイオリアが地中に向け砕牙獅子吼を叩き込む。
あまりの威力にスライムの巨体が地上に少し浮く。
アミルの火炎は尽きること無く、じわじわとスライムを焼き、異臭を漂わせた。
「アミルと俺、アイオリア以外は部屋から出ろ!」
オルディウスがパーティに声を掛ける。
有毒ガスが出ているかもしれないからだ。
キー・リンが<物質分析>の呪文を使う。
「毒性は弱いようですが、無毒とまでは言い切れません。
無理はしないでくださいね。」
キー・リンはそう告げると、グインたち残りのメンバーとともに室外に退避した。
しばらくしてアイオリアが咳き込みながら部屋から出てくる。
グインが即座に<解毒>の祈りを捧げると、アイオリアの咳はすぐに収まった。
「大丈夫だ。
スライムの焼却も済んだ。
多分大丈夫なはずだが、一応感知してみてくれ。」
アイオリアがキー・リンに頼む。
「…反応はありません、完全に焼却できたようです。
さすがアミルさん。」
「アイオリアもよく気がついたものだ。」
ヴレンハイトが感心したように言う。
「なに、あからさまに怪しい感じだったからな。
ここの亜人たちは通貨を使っていただろう?
金貨を放置するのはおかしいと感じてな。」
「なるほど。」
これは余談となるが、スライムは金を溶かせないのであった。
<最終試練>
その室内は、まさに炎獄であった。
石造りの室内は並の生物では生存不能なほどの高温だったが、火の精霊たるアミルの加護か、<獅子隊>の面々は何とか行動可能であった。
しかし、そこに鎮座していたものは、この熱気を物ともしない、いや、熱気そのものの元凶であった。
「それ」は、火炎に包まれた体、巨大なコウモリの翼、太く力強い尾、捻くれた角、爛々と燃える瞳、鱗に覆われた体に黒鉄の鎧、そして手には炎の剣と鞭を持っていた。
そして5メートルを優に超える巨体。
アーク・デーモン(上級魔族)である。
周囲には一回り小さい(と言ってもオルディウスよりかなり大きい)が同じような姿の魔族が5匹。
「『最後の部屋』であることを祈るぜ・・・」
額からとめどなく落ちる汗の中、アイオリアがひとりごちる。
轟、と炎の剣を振りかざしながら、都合6匹、いや6体の魔族が襲いかかってきた。
取り巻きのデーモンの1体が何某かの「呪(しゅ)」を口にする。
キー・リンが真っ先に異変に気づいた。
「扉を閉められました!!」
「施錠」の呪文であったろうが、中級魔族の呪文となると話は簡単ではない。
キー・リンが「解錠」の呪文を唱えたようだが、何も起きた気配はない。
呪文行使のレベルが段違いなのだ。
「炎よ、我に従え!」
アミルが呪を唱える。
鎧の上からでも焼け付くような熱さであったのが、幾分和らいだ。
グインも防護の祈りを捧げ始める。
普段よりも集中し、長い祈りを捧げることで力を最大限に引き出そうというのだろう。
部屋の間取りの関係で前衛3人が3体(うち1体はアーク・デーモン)と白兵戦を開始した。
後ろの3体が前衛戦闘に参加できないのは不幸中の幸いだったかもしれないが、それでも後列から呪文攻撃が飛んでくることは想像に難くない。
立て続けに爆炎が弾けた。
敵後列からの爆炎呪文が炸裂したのだ。
フィレーナとアーサーの風障壁の効果で多少は和らいだであろうが、狭い室内で爆発が起きたことによる衝撃波は殺しきれない。
リョーマとキー・リンが前衛3人の武器へ魔力付与の呪文をかける。
爆炎と爆発による負傷に二人共顔を歪めてこそいるが、呪文をかける声の精気はまだ欠けていない。
倒さねば、早かれ遅かれ消し炭になるだけだと、全員が理解しているからだ。
ディオノスも盾を掲げて爆炎を防ぎながら、魔力弾を何発も飛ばす。
リョーマより魔力容量が少ないが惜しんでなどいられない。
一方で、アーサーはさらにアンダインを召喚し、アンダインは水流となって前列のデーモンに襲いかかる。
アーク・デーモンは剣と鞭を器用に操り、オルディウスは防戦一方となっていた。
ヴレンハイトも互角に持って行くには流石に分が悪いようであった。
向かって左、アイオリアが相手をしているデーモンにクロスボウを撃ち終えたゲバが戦鎚で殴りかかる。
グインも抜剣し、やはりアイオリアに加勢する。
オルディウスとヴレンハイトが(驚異的なことに)デーモンと渡り合えている間に均衡を崩そうというのだ。
精霊使い3人の力により炎の威力を減殺されたデーモンは、アイオリアら3人の攻勢の前にさすがに劣勢となった。
だが、後列から再び雷光と爆発が襲いかかる。
「ぐっ!」
ディオノス、リョーマ、フィレーナ、アミル、キー・リンの後列5人が狙われていた。
だが接戦の最中、被害は後列5人のみに留まる訳もなく、圧縮空気の障壁すら超えて到達した電撃と衝撃波がパーティ全体を打ち据える。
それでもアミルによる熱の緩和はかなりの恩恵をパーティにもたらしていた。
逆に、炎の化身であるアミルとデーモンたちでは防熱以外にできることは限られているとも言えた。
「くっ・・・!」
オルディウスが火炎の鞭による攻撃を幾度も受ける。
剣と違い無軌道に飛んでくる鞭は防御し辛い。
下手に避けると後列に届きかねないだけに、身を張っている部分もあるのだ。
魔術師ギルドで鎧に強化付与され、さらに重ねてリョーマらの強化呪文を付与されているおかげで、なんとか軽傷で済んでいる、という様であった。
そもそも、身長にして2倍強の相手に対し、防戦一方とは言え持ち堪えているのだからその戦闘力は驚嘆に値する。
その間に、アイオリア、グイン、ゲバ、アンダインの攻撃を受けた左翼のデーモンが押し込まれ、ついに陥落する。
しかし、すぐさま後列に居た1体が前進し、その隙を埋める。
アイオリアとて消耗している。
盾の上からとはいえ、したたかに叩かれ続けているのだから無理もない。
爆炎の効果は薄し、と見たデーモンたちは呪文を電撃と魔力弾に切り替える。
一番厄介な手合であった。
右翼、ヴレンハイトの側の均衡が揺らぎ始めた。
悪い方に、である。
中央に陣取るアーク・デーモンの振るう剣が左右両翼まで伸びてきたのだ。
オルディウスがじりじりと押し込まれてきていた分、アーク・デーモンの攻勢が強くなったのである。
アンダインが悲鳴を上げて消滅する。
アーク・デーモンの炎の鞭が締め上げたのだ。
(耐えられるか!?)
アイオリアも滂沱と汗を流しながら、必死に盾を掲げ、剣を叩き込む。
もう何度目かわからない攻防を繰り返す両腕は、なかば痺れてきている。
デーモンの膂力と強靭な鱗がアイオリア、ゲバ、グインの3人の攻撃を強固に阻んでいるのだ。
アーク・デーモンが、ずしゃり、と前に出る。
オルディウスがさらに押し込まれる。
「来い!アミル!!」
オルディウスが叫んだ。
その瞬間を見逃さず、後列でチャンスを伺っていたアミルがフランベルジュ(炎のように波打った刃を持つ大剣)をアーク・デーモンの膝に叩き込んだ。
さしものアーク・デーモンも曲げた瞬間の関節を狙われてはただでは済まない。
とは言え、うめき声を上げたものの、それ以上の効果は見られなかった。
だが、オルディウスにはその一瞬は待ち焦がれたものであった。
全力の横薙ぎを同じ膝関節に叩き込む。
膂力と体重、剣の重量が文字通りアミルとは桁違いの一撃だった。
鈍い音がして、アーク・デーモンの装甲に覆われた膝関節部分に大剣がめり込む。
オルディウスの持つ大剣は重量50kgに及ぼうかという人外のための武器である。
装甲の間から肉が覗き黒鉄色の血が吹き出した。
「風よ!断ち切れ!」
フィレーナの力強い声が聞こえ、アーク・デーモンの装甲が剥げた部分にカマイタチが襲いかかる。
今度こそアーク・デーモンは苦悶の叫び声を上げた。
それでも炎の鞭を振り回しながら攻勢に移ろうとするアーク・デーモン。
オルディウスが引いた分だけ前に出る形になったアーク・デーモンは、アミルとオルディウスの攻撃に遭い、負傷もあって形勢やや不利となったかに見えた。
キー・リンとリョーマ、ディオノスの魔力弾が一斉にアーク・デーモンに集中される。
事前に申し合わせたわけでもないのに見事な連携であった。
ヴレンハイトもアーク・デーモンからの圧迫が減った分、デーモン相手に集中し五分の戦いを続けている。
とはいえ、後列のデーモンからの魔法攻撃もあり、リョーマをはじめとしたパーティ後列全員も無傷では済んでいない。
「アミル・タリエンスが名において命ず!燃え盛れ!」
アミルの良く澄んだ強い声が響いた。
フランベルジュが纏う炎が赤色から黄色、白色へと変じてゆく。
「オルディウス!気をつけろ!」
アミルが注意を促す。
何を、等と言う必要はなかった。
その白色炎の放つ熱気は桁違いだったのだ。
輻射熱がオルディウスの肌を焦がす。
アミル自身の加護によりいくら熱から守られているとは言え、炎獄のデーモンをすら焼き尽くさんとするこの炎の前では無事では済まない。
アーサーが気力を振り絞って二度目のアンダイン召喚を行う。
この猛熱からパーティを守るためだ。
幾重にも張られた魔法防御と精霊力の加護が、かろうじてパーティを守っていた。
アミルの白熱化した剣がアーク・デーモンを襲う。
アミルの剣に触れたところから猛烈な蒸気を出しながら、アーク・デーモンの装甲が溶断されていく。
深々と左膝を抉られたアーク・デーモンはたまらず、片手をついた。
その瞬間を見逃さず、オルディウスの大剣がその頭部を狙う。
鈍い音がして、大剣はアーク・デーモンの側頭部から深々とめり込んだ。
アーク・デーモンの目がオルディウスを憎々しげに睨めつける。
その目から、ふと光が消えた。
5mを超えようかという巨躯が重厚な音を立てて崩折れる。
すかさず後列のデーモンがオルディウスとアミルに襲いかかったが、アミルの白熱化した剣の前に自らの剣を溶断される。
アミルはそのまま返す刀でデーモンの胴を薙ぎ払った。
鎧状の表皮を焼かれたデーモンは苦悶の声を上げる。
一気に形勢有利に傾いた<獅子隊>は、ここぞとばかりに死力を尽くして攻勢に出た。
衆寡敵せず、戦力の要たるアーク・デーモンを失った残りのデーモンたちに勝ち目はなかった。
1体、また1体と打ち倒され、最後の1体が倒れると部屋に満ちていた炎は消えた。
アミルも白熱化を解き、片膝をついて、肩で息をしていた。
よほどの負荷がかかっていたのだろう。
負荷がかかっていたのは他のメンバーも同じだった。
グインが汗を拭う暇もあらばこそ、メンバーの状態をチェックし、即座に治癒の祈りを捧げ始める。
キー・リンは震える手で背嚢を漁り、魔力充填の水晶を幾つか取り出すとグインに渡した。
それほどまでにパーティ全体の傷は厳しかったのである。
むしろよく死者が出なかったというべきであろう。
オルディウスとヴレンハイトの二人が完全に消耗しきっていることが戦いの過酷さを示していた。
グインが治癒の祈りを捧げている間に、キー・リンは背嚢からさらに羊皮紙の巻物を取り出した。
「ギルド秘蔵の、魔術師(スペルキャスター)が使える稀有な『回復』の呪文書です…。」
魔力補充の水晶で魔力を補充しながらキー・リンが詠唱を開始する。
祈祷と呪文、そしてポーションを総動員して、10人分の傷を癒やした。
数時間を掛けて怪我と疲労から回復した<獅子隊>の一行は、部屋の奥にある分厚い両開きの鉄扉を慎重に調査し、罠の類が無いことを確認すると、扉を開いた。
<研究室>
ギィィ、と重い音とともに扉を開く。
そこは一面の書庫であった。
キー・リンが<物品探知>の呪文を掛けるが、書庫自体が強力な魔法(おそらく書物保存のためのもの)がかかっていて阻害された。
やむを得ず、古代語の知識があるキー・リンとアーサー(なぜ古代語に習熟していたのかは不明だが)がそれと思しきものを片端から調べて回る。
1日がかりの捜索の結果、「魔神の封印」に関する研究書が10冊ほど見つかった。
それは克明に記載されたかつての大魔導師とその朋友たちによる魔神との戦いの記録だった。
それは神代の時代末期、世界に突如として現れた脅威である「無名の魔神」との戦いであり、その封印や武具に関する記録であった。
大魔導師とともに戦った闘神や武神たちの武具が、この魔導要塞と古龍の巣に分散して収納されていることも明らかになった。
「魔神」の封印は、不帰の山脈最奥にある神殿に安置されているとあり、「この封、乱すべからず」と括られていた。
かの大魔導師は、現在のライガノルドにおいては神と呼ぶべき能力の持ち主であり、それが警句を載せるほどの相手であるということから、魔神の脅威の程度が窺い知れる。
「要約すると『魔神討伐の戦記』ですね。」
キー・リンが概要を読み終えて言った。
「ここの蔵書は魔導武具についての研究結果や大規模儀式魔術の研究が残されています。
魔術師ギルドとしては世紀の発見でしょう。」
普段飄々としているキー・リンが、その疲労を忘れるほどに上機嫌になっているのは、なかなか面白い光景であった。
「今では失われた高位呪文の呪文書とその魔術理論の解説も…」
興奮冷めやらぬ風にキー・リンが続ける。
一同は苦笑しながらもその説明を聞いていた。
「ワシにはよくわからんのじゃが、ここに武具があるということかの?」
ゲバが悪気なく言う。
「あ、そのようです。
たぶん、奥にあるあの扉の向こうにあるのではないでしょうか。
かなり強力な魔力を感じますので。」
うっかり熱弁を振るっていたことに気付いたキー・リンが少しだけバツが悪そうにする。
<宝物庫>
書庫の奥、強力な魔術施錠がかかった部屋。
丹念に調べた結果、解呪の呪文書を見つけるキー・リンたち。
キー・リンとリョーマの魔力ではこの解呪の呪文を使うことができなかった。
そのため、<アンセル>のメンバーを呼び寄せるて儀式魔術(複数人で一つの魔術を行使する大規模魔術)の準備に入る。
都合6人の術者によってやっと開いた扉の先にあるのは、一面に武具を立てかけた部屋であった。
いずれも恒久的魔術を付与された武具ばかりであった。
<閃光の剣><アンセル><鉄牙>全員を招集し、配分を決めようという段階になったが、予期せぬ問題が起きた。
魔術武具のかなりのものが「名前持ち」であったのだ。
これら高位の魔術武具は、「意思」のような物を持ち、自らを使う者を選ぶ。
一つ一つ適合者を探していくのはなかなかの難事であった。
それでも1パーティに1~2セット行き渡ったのは幸いであったろう。
アイオリア「を選んだ」剣と盾は、その名を封神剣「スティアリス」、魔盾「スレイガルド」と言った。
大魔導師の残した著書の中にも記載されている最高位の武具の一つである。
オルディウス「を選んだ」のは魔鎧「ラングヴォルト」であった。
これは装着者のサイズに合わせて可変する構造を持つ特殊な鎧である。
グイン「を選んだ」剣は聖剣「フレスゲイン」、戦神に捧げられた剣である。
これら以外にも低位の魔導武具は幾つもあり、各パーティに分配された。
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