悪徳な王女に転生した私、気ままな一人旅のはずが、相棒は子犬!? 無邪気な子犬と紡ぐ、癒しと成長の冒険スローライフ!
@Soraran226
第1話 封じられた異空間
「ここは……」
目を覚ますと、そこは何もない白い空間だった。
夢の中にいるような感覚で、視界がぼやけている。
私はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡す。
先ほどまで私はゲームをしていたはずだ。
人気の異世界転生ゲーム『王国の英雄』。
貴族派閥の争いを描いた複雑な政治ゲームで、多くのプレイヤーが熱中していた。
だが、今見えているのはそのゲームの画面ではなく、全く別の異次元の世界。
「目は覚めたか?」
突然、聞き慣れない優しい声が耳に入ってくる。
振り向くと、そこには……小さな少女が立っていた。
彼女の姿はまるで絵画のようで、黄金色の髪と透き通るような瞳が印象的だ。
そして、女神のような服装であり、神聖な雰囲気を纏っている。
「あなたは……?」
「ワッチはセレスティア。とある異世界を守護している女神だ」
女神……?
私はその言葉に驚きと共に少しの戸惑いを感じる。
喋り方や容姿と言い、女神には到底見えないのだが。
ゲームの中の出来事ではなく、現実のように感じるこの状況に、頭が混乱してしまう。
「一体どうなっているの、ここはどこなの!?」
「ここは異空間、封じられた世界だな」
「何で私はここにいるの、元の世界に返して頂戴!」
「それは出来ないなー、何故ならあんたには役目があるから」
「や、役目?」
セレスティアは静かに頷いた。
そして、彼女の瞳には悲しみの色が浮かんでいる。
「ワッチは、お前を意図的にこの世界に呼び寄せたんだよ。異世界を救ってほしくてな」
「救う……? どういうこと?」
セレスティアは私の問いに答えるために一歩前に進む。
セレスティアの周りには柔らかな光が漂い、その光は安心感を与えてくれる。
「実は、この異世界はお前がプレイしていたゲーム《王国の英雄》だ」
「ゲームの世界!? もしかして私はゲームの世界に入ったの!?」
「まあ、そういう事だ。それでなんだが、この異世界は現在、エラーによりシナリオがかなり狂っている」
「シナリオが……?」
「ああ、邪神ヴァルガスによってな」
邪神ヴァルガス――その名前には聞き覚えがあった。
確か、《王国の英雄》というゲームに登場する伝説的な設定だったはずだ。
ただし、本編には一度も登場しなかったキャラクターで、裏設定の類として語られる程度。
物語をプレイするうえではほとんど関係のない存在だった。
「邪神ヴァルガスって、確か女神との戦いで封印されたはずだよね?」
自分の頭を整理するように呟く。
ヴァルガスは女神との壮絶な死闘の末、異空間に封印された――そのはずなのだ。
少なくとも、公式設定では。
私はそう考えていると、少し疑問を持つ。
今私がいるのは、封じられた異空間。もしかしてだが。
「負けたの?」
「ああ、ワッチも油断はしていなかったんだがな。数秒魔法が遅れてしまい、ヴァルガスに封印されてしまったのだよ」
「それで、私をこの異空間に?」
「そうだ、お前をこの異空間に呼び寄せたのは、世界を救ってもらいたいからだ」
そう言って、セレスティアは最後の希望のような顔をする。
どうやらヴァルガスによって、《王国の英雄》は色々とシナリオが滅茶苦茶にされているようだ。
だが、私なんかで異世界を救う事が出来るのだろうか。
あるのは、原作の知識が少しぐらいだ。
前世は普通の大学に通い、ブラック企業で仕事をしていた。
好きな事は自然とキャンプぐらいだろうか。
これしか取り柄の無い私よりも、他のプレイヤーを転生した方が良かったのではないか。
そう思っていると、セレスティアが口を開く。
「実は、お前以外にも他のプレイヤー達を転生させていたのだが、策謀により命を落としている」
「う、嘘でしょ? そんなに深刻なの?」
「ああ、何せそのプレイヤー達は主人公である第一王子、第一王女に転生させたのだが、殺された」
驚きで目を見開く。
第一王子と第一王女――ゲーム《王国の英雄》では、選べる主人公の中でも最も人気が高いキャラクターだ。
魔法や剣術において圧倒的な能力を持ち、どちらを選んでも無双できる仕様だった。
それなのに、死んだ? 理解が追いつかない。
お互い魔法、剣術などに突出しており、簡単には死なない設定のはずなのだが。
「誰に殺されたの?」
「宰相のリンカによる策謀、暗殺だな」
頭が混乱してしまう。なぜ宰相が暗殺をするだろうか。
というか、リンカなんてキャラは聞いたことがないぞ。
もしかしたらモブのキャラかもしれないが、これも邪神の影響なのだろうか。
「その邪神ヴァルガスってのは、今どこにいるのよ」
「奴は今アステリア帝国にて回復中だ」
(アステリア帝国、確か南部にある帝国ね)
私はそう思いながら、考えていても仕方ないので、セレスティアに聞きたかった事を聞く。
「私は、誰に転生するの?」
「お前の転生先は……フィーナという名前の悪役第三王女だ。申し訳ないが、ワッチにはもう力は残されていない、フィーナが限界だ」
セレスティアの言葉が耳に届いた瞬間、私は愕然とする。
悪役第三王女――その名を聞いた途端、頭の中に原作の記憶がよぎる。
フィーナ。それはゲーム《王国の英雄》に登場するキャラクターの一人であり、悪役的なポジションだ。
王族でありながら貴族派閥の権力争いに巻き込まれ、破滅の運命を迎える不遇な存在。
フィーナの最期のシーンは、プレイヤーの間でも「これ以上ないくらい悲惨」と話題になっていたっけ。
「フィーナって……あのフィーナ?」
思わず確認するように聞き返してしまう。
だが、セレスティアは申し訳なさそうに目を伏せるだけだった。
その仕草はまるで、「選択肢が他になかったんだ」と言っているようだ。
頭の中で一旦情報を整理する。
フィーナは悪役ではあるが、決して無能なわけではない。
むしろ、その魔力の強さは原作の中でも屈指のものだった。
上級魔法を難なく扱うフィーナの戦闘力は王国屈指の実力。
それでもフィーナが敗北したのは、政治的な駆け引きに敗れたからだ。
つまり、魔力は強力だが、立ち回りを誤れば破滅する。
そんな危ういキャラクターに、私は転生するというのか。
「フィーナとしての立場を利用し、《天の秘宝》を集めて邪神ヴァルガスを倒してほしい」
セレスティアの声が静かに響く。
真剣な眼差しでこちらを見つめるセレスティナの表情には、深い悲しみと決意が滲んでいた。
だが、その一言は私の胸に重くのしかかる。
「世界を救う、ね……」
小さく呟いた声が、自分でも驚くほど冷たい響きだった。
無理だ。そんなこと、できるわけがない。
だって私は普通の大学を卒業し、ブラック企業勤めのしがない凡人だった。
趣味はキャンプ、それぐらいしか取り柄が無いのだ。
私はふと、視線を落とす。
すると、セレスティアが深々と頭を下げている。
先ほどまでの軽い口調からは想像もできない、真摯な姿勢だった。
そのギャップに、胸がチクリと痛む。
「……わかりました」
そう答えたのは、衝動だったのかもしれない。
けれど、その瞬間、心の中で何かが吹っ切れたような感覚があった。
「やってみます。フィーナとして、この世界を救います」
私がそう言うと、セレスティアの顔に安堵の色が浮かんだ。
セレスティナはゆっくりと顔を上げ、私に微笑みかける。
その笑顔は儚くも、美しかった。
「ありがとう……。お前がこの世界の最後の希望だ」
私がそう言うと、セレスティナは口角を上げ、私の元に来る。もう希望が少ない中で、心が落ち込んでいたのだろう。
そうしてセレスティアは私に手を差し出す。
私はその手を握り返すと、周囲が眩い光に包まれていくのを感じた。
「そういえば、前世の私はどうなったの? 気になってたんだけど」
光の中で、ふと思い出した疑問を口にする。
「ああ、お前ならゲームをしながら死んでいたぞ、過労死じゃないか?」
「う、嘘でしょ!? 過労死って、そんなゲームばっかりやってたの私!?」
「うむ。ほら、お前、ボーナスステージを逃すの嫌がって睡眠不足なのにも関わらず、毎朝4時起きしてただろう?」
「……あれは日課だったの! それに死因がゲームとか恥ずかしすぎる!」
「まあ、それで魂が彷徨っていてな、そこに憐れんで女神のワッチがここに呼んだのだが……」
「私、そんな死に方してたなんて……」
「全く、お前の魂を拾うのも恥ずかしい気分だったぞ」
「セレスティア様!? それ言わないで!?」
――そんな無駄なやり取りをしているうちに、光が私を完全に飲み込み、意識が遠のいていく。
転生先が悪役で、過労死の理由がゲーム。私の人生、本当に大丈夫なんだろうか……?
薄れゆく意識の中、そんな疑問を抱きつつ、私は異世界へと旅立ったのだった。
―――
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