クリスマスプレゼント
小狸
短編
クリスマスは、苦手であった。
世界では伝統的に(本当に伝統的かどうかはさておいて)、クリスマスの朝にプレゼントが用意されているという慣習がある。
我が家も、それに則って、小学生の頃までクリスマスプレゼントがあった。
しかし、夢はなかった、と補足しておく。
私の母は、「私が、私のお金を使って、あなたのために買ってあげているんだからね」ということを強調しながら、プレゼントを渡していた。
我が家にサンタクロースは、初めからいなかったのである。
母は、私が勉強に関係のないものを欲しがるのを嫌っていた。
だからだろう、トイザらスでプレゼント選びをする時、毎回私が選んだものに対して嫌な顔をしていた。
許されなかった、わけではない。
嫌な顔をするのだ、嫌なことを言うのだ。
そうして雰囲気が悪くなって「あーあ、誰のせい?」なんて言う。
ずるい。
妹の時には、優しくなんでも買ってあげているのに。
子どもの頃は、これを期待の裏返しと捉えていたのだから、なかなかどうして洗脳とは恐ろしいものである。
私は、母よりも父に似ていた。
妹は、母よりも母っぽかった。
そして、母は父が嫌いだった。
ただそれだけの話なのである。
クリスマスの用意も、母は嫌々やっていたようだった。
元々そういう行事が嫌いだと言っていた。
嫌いなことは何でも、私に押し付けるのである。
私ならなんでも受け止めてくれると思っているから。
私も飾り付けを手伝ったりなんかしたけれど、それはまるで頑張って家族ごっこをしているようなものだった。
クリスマスの食卓の雰囲気は、だから最悪だった。
仕事でくたくたの父と、クリスマスの用意を自主的にしたのに誰かにさせられたと言いたいような母と、それに同調する妹と、行き場のない私。
これが地獄絵図でなくて何なのだろう。
大学に入ってから、一人暮らしを始めた。
卒業し、仕事を始めて、今年五年になる。
今でも。
クリスマスは私にとって、苦い日でしかなかった。
その決着を、今日つけようと思う。
メリークリスマスから始まる、母に送る長文のライン、両親の介護はしないということ、今まで世話になった礼、今まで受けた被害の数々、言えなかった嫌だったこと、伝えられなかった辛かったこと、そしてもう二度と関わることはないということ、決定的な決別の証、一カ月前から、それはiPhoneのメモに保存してあった。
コピーして、ラインの個人チャットに貼り付けし、送信した。
そして最後に、一言。
さよなら。
打ち終わって、肩の荷が下りたのと、重圧から解放されたのと、色々な感情が織り交ざって、涙が
泣いてたまるか。
こんなもので、挫けてたまるか。
私は、そういう生き方を、自分で選んだんだ。
スーパーで買ってきたモンブランを食べた。
ほろ苦い味がした。
(「クリスマスプレゼント」――
クリスマスプレゼント 小狸 @segen_gen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます