傾国の美猫
江野ふう
第1話 愛でるだけのために生きていてよい存在
西方の国々から黎を経由して、はるばる極東の
「久しいな、欧喜殿」
「長らくご無沙汰しておりました。不義理をお許しください」
「いや。いい。相変わらず忙しいようで何よりだ。
苑都は
悦傑は苑都の都督を拝命し、関税官吏の長も兼ねている。
「昨晩入りました」
「到着して早々、
「何を仰いますやら。まずは悦傑さまにお会いしなければ、苑都に到着したとは言えません」
「そういう世辞には慣れんのだ……」
「久しぶりの我々だけの酒席だ。
おもしろい土産話でも聞かせてくれるかね」
「せっかくいただきました機会なのですが、おもしろい土産話の持ち合わせがなく……悩んだ上で、そういえば、悦傑さまにまだお見せしたことがないなと、我が家の猫を連れてまいりました」
「猫?」
白い布が掛けられているが、形からすると籠である。
なかには白いやわらかな毛で覆われた両の手のひらにおさまるほどの動物が入っていた。
投げ出した両足裏のぷっくりとした肉球は薄桃色をしている。
「待ちくたびれたのか、寝ておりますな」
「これはなんと……愛らしい。動物か?」
「左様でございます。
つい先日生まれたばかりの子どもです」
「猫……」
「猫」は西方由来の動物で、
人間長く生きてみるものだと思った。
「これは子どもというが……大きくなったら食べるのか?」
「食べません」
「乳を絞るのか?」
「絞りません」
「家畜の番をする?」
「いたしません」
「乗れるのか?」
「乗れません」
悦傑は顎髭をひねりながら首を傾げた。
「もしかして、卵でも生むのか?」
「生みません」
不可解である。
「じゃあ、何のために
「何のため……」
今度は欧喜は首を傾げた。
しばらく無言で考えて言う。
「
「愛でる!?これを?」
悦傑は籠の中で眠る猫を見た。
寝返りをうって腹を上に向けていた。
右の前足だけ「う〜ん」と伸ばしたので、桃色の肉球が見えた。
伸びをして身体を震わすと目を開けた。
くりくりした
――愛でる
猫の一声で、悦傑は理解した。
これは、愛でるだけのために生きていてよい存在だと。
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