有人島〜シビト達の子守唄〜

@karakoba0110

第1話 月島祐介 島へ1

トントントン


軽やかな漁船のエンジン音と爽やかな潮風に包まれながら、見上げると初夏の日差しが柔らかく降り注いでいる。


僕の名前は月島祐介つきしま ゆうすけ

大学生だ。僕は今、ある無人島に向かっている。地元では忌み島と呼ばれる小さな島で、かつては小さな集落もあり少ないながらも島民が暮らしていたのだが、一夜にして全員が失踪するという事件が二度起きている。一度は江戸時代に、一度は昭和後期に。


昭和に起きた時には警察も調査に入ったらしいが、原因も島民も見つからなかったらしい。

それからこの島は不吉な島とされ、漁師たちも忌み島と呼んで近寄らないという。

噂では少女の霊を見た、とか風に乗って女性が歌うような声が聞こえてきた、なんていわれているのだ。


失踪事件は大学の郷土史に小さく載っていて気付いたのだが、噂はその後の聞き込み調査で分かった事だ。つまり、なかなかの信憑性があるという事。

僕はあちこちのホラースポットに行っては動画投稿サイトのme tubeに投稿している。いわゆるミーチューバーというやつで、学生生活の傍らホラースポットに突撃して動画を撮影、ちょちょっと雰囲気を加味させて投稿している。先日登録者が千人に達したばかりのあまり有名とはいえないチャンネルではあるが……


漁船は軽快に進んで、陸地からはかろうじて見える程度の大きさだった島の全景がわかるくらいになってきた。


「あれがいわゆる忌み島だ。一時期は炭鉱とかが見つかって人の出入りも増えていたんだが、事件の後は気味悪がって誰も近寄らねぇ」


お前さんみたいな物好き以外はな。と由来を説明した後付け加えてクックッと笑っている。

彼は鎮太郎しんたろうさんといって、近場の漁師さんらしい。ぶっちゃけよくは知らない。

先日郷土史で見つけた忌み島を見にきた時に知り合った。

地元の人は忌み島の事をよく思っていないのか、あまり語りたがらなくて何の情報も集まらずにどうしようかと思っていた所、声を掛けてくれた。お酒をご馳走すると上機嫌になって情報どころか連れてってやるぞと言い出したチョロ……げふん、優しい人だ。


「ちゃんとした島の名前もあったんだが、忘れちまった」


と、少しいい加減な所もあるけどこうして約束通り船を出してくれている。


「あれ、さっきまで気持ちよく晴れていたのに……」


心地良い潮風が、ぬるっとした感触に変わった気がして、ふと見ると重い曇天に変わっている。


「天気予報は快晴だったのに……雨具なんて持ってきてないよ」


「海も山も天気はころっと変わるからなぁ。次は気をつけるんだな?」


鎮太郎さんはそう言うと、何がおかしいのかクックッと忍び笑い?をしている。……あの笑い方クセなんだろうか。

一応要所要所で動画を撮っているし、当然鎮太郎さんは映らないよう気を使っているが、わかりやすいクセがあると特定されかねない。

……編集で消しとかないといけないかもなぁ。


そう考えていると、漁船はグッと速度を落とした。

さっきまではかなり遠くにあったと思った島がかなり近くに見えている。


鬱蒼としげっていて、いかにもという雰囲気を出している。

かつて島民が住んでいたというが、人口物は見当たらない。

地図で調べたのだが、この島はなぜか載っていない。鶏マークの検索サイト「ドゥードゥル」のマップアプリをだして鎮太郎さんにも見てもらって確認すると、この島は三日月の形をしていて欠けた部分が入江になっているそうだ。

外周は切り立った岸壁になっていて、入江にある桟橋しか船をつけられてないと言う事だ。


船は進んで、大きく舵を切ると細くなった部分を回り込んだ。ここが三日月のとっさきなんだろう。

やがて、前方に木で作った頼りない桟橋が見えてきた。その周りに沈んだ昔の漁船らしきものも見える。


さらに速度を落とした漁船は桟橋に沿うように止まった。


「よーし、ここが目的地だぜ、お客さん!」


鎮太郎さんが手際よくロープを引っ掛けると両手を広げて芝居掛かった仕草でそう告げる。


僕はと言うと、若干後悔していた。雰囲気が予想を超えている。ここが絶海の孤島という事もあるだろう。

もし、鎮太郎さんの気が変わって迎えに来てくれなければ、ここで遭難という事になってしまうのだ。


「よかった、電波はある」


不安を打ち消すように、ポケットからスマホを出すと電波が届く事にホッとする。


「…………」


鎮太郎さんが、僕のスマホをじっと見つめている。何だろう、どこか憎々しげに感じる……


「おっと、ほら荷物よこしな!」


僕の視線に気づいた鎮太郎さんは、パッといつもの顔に戻り桟橋に飛び移ると手を伸ばした。


「あ、ああ。すみません」


……まさか、ここまで来てやっぱいいですなんて言えないし、むしろ素材としては絶好の雰囲気じゃないか。

そう考え直した僕は鎮太郎さんに手を借りながら持ってきた荷物を桟橋に移した。


「ほんじゃ、3日後にここに迎えに来るからよ!」


最後に僕が桟橋に飛び移ると鎮太郎さんは、また手際よくロープを外し、舵を握った。


「すみませんがよろしくお願いします。何かあったらお家の電話に掛けさせてもらいますね!」


漁船のエンジンの音に負けないように叫び返すと、鎮太郎さんは「おう!」と言って手を挙げると、漁船を動かし始める。

しばらく見送っていると、鎮太郎さんの漁船はあっという間に小さくなっていった。

スマホに目を落とすとさっき確認した鎮太郎さんの自宅の番号が表示されている。

不測の事態が起きた時のため、連絡先として携帯の番号を聞いたら持ってないと食い気味に言われたのだ。あまり自分の事を話したがらないし、ここに連れてきてもらう燃料費にしてもらおうと謝礼も用意してきたのだが、頑なに受け取ってくれなかった。


「なあに、俺がやりたいからやってんだ。気にすんな!」


そう言って……


「よいしょっと」


こうしていても始まらないので、もってきた荷物を担いで移動することにした。たかだか動画の撮影といってもそこそこ荷物は多い。ちょっとした登山でもしそうな格好だ。


「まずは拠点を見つけないとなあ……」


快晴の予報だった空模様はすっかりお日様を隠してしまっている。いつ雨が降って来てもおかしくないくらいに。


「テントを張って……荷物を置いて……いい場所があるといいなあ」


そう独り言を言いながら桟橋を歩き、陸地に渡った。とうとう僕は忌み島についたのだ。初見で圧倒的な雰囲気に飲まれ、気おされてしまっていたが今では未知のスポットを探索するという高揚感に包まれている。

有名なホラースポットもいいが、こういう誰も知らない場所はまた違うわくわく感がある。


桟橋を渡り終えると、草に覆われてはいるがかつて道であったろうものがかろうじてわかる。僕はそれに沿って島の奥へと足を進めていった。


しばらく進むと道は登り坂になり、わずかに広くなっている。それにしたがって草が覆っていた道が分かり易くなってきた。重い機材を担ぎながらなので、ゆっくりと足元を確認しながらだったので、道が平らになった時にはすっかり意気を切らしていた。

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