3. ドライブ

 田中家の自家用車の中。


 運転席には父親。隣に、助手席に母親。


 後部座席に、英雄ひでお。隣に、一回り年下の弟。


 英雄が、"Video Vikingビデオ・バイキング"の解約を検討したおかげで、家族〈ROOMルーム〉が再稼働した。単身赴任の父親は、母親と弟のいる実家に一時帰宅。そこに英雄を合わせて、五年ぶりの一家団欒だんらんが実現した。


 今晩は、高級焼肉食べ放題。


 ドライブを一番楽しんでいるのは、母親。


 上機嫌に、ベラベラとお喋りが止まらない。


「そう、この人ったらずーっと、『(低い声で)単身赴任なんか寂しくない』だなんて強がってたのよ? で、いざ集まってみたら、『(再び低い声で)焼肉奢りだぁ! 車は出す、俺は酒は飲まんぞ! 喜ばしい家族の再会だ、パーっとやろう!』なーんて、張り切ってるのよ」

 夫を茶化ちゃかす、母親。


「いいだろう別に! 文句あるのか! タダで焼肉食べるクセに!」

 冗談ぽく、怒る父親。


「えー? なんてー? 英嗣ひでつぐのスマホがうるさくて聞こえないわ〜」

「おいっ! 英嗣、音を下げなさい! ほらっ!」



\世はまさに、大航海時代!/

 大音量の、アニメのナレーション。


 英雄は、英嗣のスマホをのぞき込む。


「あれ、英嗣ひでつぐ、何見てるの? 車でスマホは、酔うぞ〜」

「え? 『宇宙海賊アルカイダ』だけど。兄貴、知ってる?」

「知らん。というか、何のアプリで見てるんだ?」

VVブイブイだけど」

「え、"Video Vikingビデオ・バイキング"、この間解約したところだけど」

「なんか、まだ見れた」

「ほぉ……。あー、今月一杯はいけるのか」


 運転中の父親が、チラと後ろを振り返り、


「家族を再会に導いたサブスクだ。ギリギリまでお世話になろうじゃないか」


 と、言った。


「ひゃあああ! あなた! 前っ!!」


 母親の叫び。


 ブレーキは間に合わなかった。

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