第8話 初クエスト

 気を取り直し、俺たちは掲示板から良さげな依頼を探した。


 E級依頼

 ・アトラント近くに群れをなすゴブリンの討伐

  報酬:1体につき2銅貨

  クリア条件:ゴブリンの全滅

 ・ウルフの縄張りに生えている薬草の採取

  報酬:採取量100gにつに1銅貨

  クリア条件:採取量100g以上

 ・イリム湖に落とした指輪探し

  報酬:5銅貨

  クリア条件:見つかるまで

 ・リヴェンへの荷物の配達

  報酬:10銅貨

  クリア条件:往復で配達できること


 E級だからかどれもパッとしない地味な依頼ばかりだ。強いて言うならゴブリン討伐か。


 「ゴブリン討伐にしますか?」

 「そうしよう。」

 

 ――こうして俺たちは水属性魔法の実践を兼ねて冒険者ギルドでゴブリン討伐の依頼を受注した。

 

 依頼内容は「アトラント近くの森で群れを成しているゴブリンの討伐。クリア条件はゴブリンの全滅。報酬は1体につき銅貨2枚。」

 ギルドでの聞き込みによると、群れの数は5体程度らしい。


 5体×2銅貨……10銅貨か。

 宿屋で1泊2銅貨、1回の食費は2銅貨×3回で6銅貨。

 1日分の生活費は賄えるが、大して儲からない。

 ゴブリンの皮なんかも売れるのだろうか。


 そんなことを考えているうちに、ゴブリンの群れがいるとされる場所に到着した。


 あれ?


 「ノア……あれって……」

 息を殺し、茂みに隠れながら様子をうかがう。俺は群れのある方向を見ながらノアに声をかけた。目の前にいるのはゴブリンではなく、ハイエナのような魔物だった。だが、普通のハイエナではない。皮膚の上には硬そうな鱗のようなものが生えていて全身を覆っている。群れの数も5体どころではない。10……いや、15体は超えている。


 「あれはハイハイエナだ。中級の魔物だな。」


 ハイハイエナ……そういえば家にあった魔物図鑑で見た気がする。

 

 「中級の魔物……ですか。」

 思わず息を飲んだ。そんな俺にノアは続ける。


 「おそらくギルド側の情報が誤っていたんだな。ゴブリンではないが……ラキ、やるぞ。」

 「えっ……わ、わかりました。」

 「作戦を練ろう。」

 ノアはそう言って群れから離れた。俺もそれに続いた――。


 「ハイハイエナは硬い鱗のような皮膚で覆われてるのが特徴だ。ちょっとやそこらじゃ攻撃は通らない。」

 「じゃあ、アクアフィールドで足元を覆って動きを止めてからアクアボールで仕留めるのはどうですか?」


 どうですか?とは言ったものの、俺に出来る攻撃と言えばこれくらいしかない。


 「いや、ハイハイエナの特徴はそれだけでは無い。その動きの速さと群れの統率力が高いのも厄介な特徴だ。」

 「速さと統率力……」

 ノアは少し考え込むような仕草をした。しばらくして口を開いた。

 

 「こうしよう。私が魔法で群れごと囲み、動く範囲を狭める。その間、お前は土属性で足元の土を粘土状にし、完全にハイハイエナの動きを止める。そして、アクアウェーブで仕留める。」

 「えっ、ちょ、ちょっと待ってください! 俺まだ土属性魔法もアクアウェーブも出来ないんですが!」

 「いまのお前に足りないものは自信だな。もっと自分に自信を持て。お前なら出来る。昨日だって出来ていたじゃないか。いま出来ないことを考えるな。何をするかを考えろ。」

 「……」

 

 ノアの真剣な眼差しが俺を射抜く。俺はその目から逸らせなかった。否定する余地もなく、俺はただ頷いた。

 

 むちゃくちゃだ、この人は。

 でも……俺に自信をくれる。


 「わかりました。全滅させましょう!」

 「その意気だ。」

 ノアはさっきの真剣な表情から柔らかな微笑みを浮かべていた。


 

 ――俺たちは再びハイハイエナの群れの近くの茂みにいた。


 「いいか、私がハイハイエナを取り囲む。お前はその間、目を瞑っていろ。」

 「目を瞑る? それだと目標が定まらない……」

 「いいから瞑っていろ。絶対に開けるな。それと私の横に立って前を向いて入ればいい。」

 俺の言葉を遮ってノアは言う。

 

 「……わかりました。」

 普段と少し違う雰囲気のノアに緊張していた。


 ノアがハイハイエナの群れに向かって立つ。俺もその横に立った。


 「目を瞑れ、ラキ。お前はただ真っ直ぐ、前を向いて集中するんだ。」

 横にいるノアの声が凛としていた。低く響く声。初めて会った時の、あの時のような声だった。


 「はい。」

 俺は目を瞑り、ハイハイエナの方向に右手を向けた。


 「行くぞ!」

 ノアの声が耳に響く。俺は右手に力を入れ、集中する。


 「火の精霊アウスラグナよ、焔の輪を描き、全てを包む守護と裁きの炎となれ! イグニラス!」


 火の精霊という言葉に動揺した。目を瞑っていてもわかる。辺りが熱を帯びる。嫌な記憶が蘇り、身体が震える。


 「今だ、ラキ!」

 ノアの声で我に返った。俺は呼吸をするのも忘れていた。息を大きく吸い、詠唱する。


 「土の精霊エンディニアよ、その硬き意思と鼓動を命を育む柔き土となれ! テラスフィールド!」


 土がどうなっているか分からない。感覚がない。でも、土を粘土状にするイメージを集中して描く。ハイハイエナたちが吠えている。もがいているのかバタバタと動いている音がする。


 「いいぞ! 続けてアクアウェーブだ!」

 ノアの言葉を合図にアクアウェーブを詠唱する。


 「はい! 水の精霊イシュリアよ、蒼き流れで全てを包みこむ揺らぎとなれ! アクアウェーブ!」

 

 水のボコボコという音がしてきた。そこからザバーンという音に変わり、ハイハイエナの鳴き声は聞こえなくなった。


 「もう目を開けていいぞ。」

 恐る恐る目を開けた。そこには火も水もなかった。あるのは粘土状の地面に埋まった、ハイハイエナたちが息絶えているだけだった。

 俺は呆然としていた。目の前で起きたことなのに何も分からなかった。自分でやったことなのに。


 「よくやった。」

 それだけ言ってノアが俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

 

 ノアは俺に土魔法と水魔法を習得させたかったのかもしれない。ハイハイエナを群れごと囲むことが出来るんだ。きっと一掃出来るぐらいの火力のある魔法も使える。でも、俺にやらせたかったんだ。俺に自信をつけさせるため。俺はその期待に応えたい。そう思った。


 

 ――アトラントの森を後にし冒険者ギルドへと戻った。

 

 「ゴブリン討伐の依頼を受けたのだが、情報が誤っていた。実際はハイハイエナだった。これがそうだ。」

 そう言ってノアはハイハイエナの皮と肉、それから鱗を机に置いた。


 「あら、本当ですね! 失礼いたしました。では、報酬を検討しますので少々お待ちください。」

 受付のお姉さんはそう言って奥へ消えていった。


 「ノア、こういう時の報酬ってどうなるんですか?」

 「そうだな……大体は報酬を倍、もしくは素材を倍の価格で買い取ってくれる。」

 「へぇ、倍になるんですか。今回も倍になるといいですね。」

 

 俺とノアがそんなやり取りをしていると受付のお姉さんが戻ってきた。

 

 「お待たせいたしました。ハイハイエナの素材を倍の価格で買い取らせて頂きます。えぇと……ハイハイエナの素材買取価格は4銅貨ですね。倍の価格で買い取らせて頂くので……ハイハイエナ18体×8銅貨、合計で144銅貨です。お支払いは1銀貨と44銅貨となります。」

 「1銀貨と44銅貨……なかなか良い稼ぎになりましたね!」

 「あぁ、運が良かったな。」


 地道に稼ぐしかないと思っていたが、思わぬ所で稼ぐことが出来た。とりあえずしばらくの生活費は稼げたので安心した。


 こうして俺は無事? 冒険者としての第一歩を踏み出した。

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