第7話 ギルドの洗礼
ギルド登録の手続きを終え、掲示板を眺めている時だった。突然、1人の冒険者がこちらに向かって喧嘩を吹っかけてきた。
「おいおい、 お前ら2人だけかぁ? 1人はやけに図体がデカいが、もう1人は……プッ! ガキじゃねぇか! ここはガキが来ていい場所じゃねぇ! 子守りなら家に帰んな!」
筋骨隆々の大男が乱暴な口調でこちらへ近づいてきた。その口から漂う強烈な酒臭さ。どうやら酔っ払っているようだ。
あれだ、新人冒険者に絡んでくる典型的なアホ。
めんどくさい。
俺は関わらない方がいいと考え、一旦外に出ようとノアに提案しようとした。しかし、彼はそういう考えではないらしい。
「ガキ? ラキは立派な魔術師だが。」
あっさりとそう言い切ったのだ。
「はぁん? こんなちっせぇガキが魔術師な訳ねぇだろう。嘘ついてんじゃねぇぞ!」
「嘘などではない。」
ノアは冷静に反論する。彼は売られた喧嘩を買うつもりだ。いや、もしかしたら喧嘩を売られたことを理解していないのかもしれない。俺は仕方なくノアのローブを引っ張りながら耳元で囁いた。
「ちょっと、ノア。これは関わらない方がいいですよ。面倒なことになります。」
「だが、否定しておかないと。」
「いやいや、律儀に否定しなくていいんですよ!」
俺たちのやり取りを見ていた男がさらに声を張り上げる。
「おい! 何をコソコソ話してる! もしかして俺様にビビってるのかぁ? なら、早く家に帰るんだな!」
男はガハハと大口で笑っている。
「ラキ、お前が魔術師であると証明してみせろ。」
「へっ!?」
俺は驚きの声をあげたが、続けてノアはこう提案した。
「なぁ、冒険者、このラキと勝負をしないか?」
「んん? 勝負だと? はっ! いいだろう、おもしれぇじゃねぇか!」
「決まりだな。外へ出よう。」
俺がノアの言ったことを理解する間もなく、あれよあれよという間に俺とこの筋肉酔っ払いバカと勝負をすることになってしまった。
なんでこうなった?
ノアは何を考えてるんだ?
俺がこいつに勝てると思ってるのか?
いくら酔っ払いとはいえ、こいつも冒険者だ。
そこそこの場数を踏んでるはず。
一筋縄ではいかないだろう?
ギルドを出て、小さな広場へ移動する頃には周囲は薄暗くなっていた。
「ルールは簡単だ。どちらかが倒れるか、参ったと言えば勝負は終了だ。」
ノアが淡々と説明する。
「いいぜ。さっさと始めようや。」
拳を鳴らしている。筋肉酔っ払いバカはやる気満々のようだ。
「マジかよ……」
俺は小さく溜息をつきながら呟いた。
「ラキ、お前なら大丈夫だ。」
「何考えてるんですか? 何か秘策があるんですか?」
ちょっとイラッとしつつもノアに聞いてみた。
「お前ならあの冒険者くらいであれば余裕だろう」
「……舐めてかかると痛い目見るやつじゃないですか?」
軽く言い放つノアに対し、俺は心の中でまた溜息をついた。
「どうした、どうした? 怖気付いたのか? かかって来いよ! 俺はガキだからって容赦はしねぇからな!」
男は煽ってくる。
ノアの考えが読めずイライラするも覚悟を決めた
「わかりました! やればいいんでしょ、やれば! 何かあったら助けてくださいね!」
「あぁ」
ノアはニコッと笑って言った。
「来ないなら俺から行くぜ!」
男はそう言うと俺に向かって走り出した。
とりあえず距離を取る!
俺は咄嗟に横へ飛び退き、距離を取った。男の手の内が読めないならまずは距離を取るべきだ。相手は丸腰。剣も弓もない。攻撃してくるとしたら素手か、魔法だ。どんな魔法を使ってくるかも分からない。とりあえず出方を伺う。
男はそのまま俺の方向へ突進してきた。魔法を発動する様子はない。俺は反対方向に走りながら、手に魔力を込める。
「水の精霊イシュリアよ、透明なる水晶を創り出し、その輝きを大地へと解き放て! アクアフィールド!」
早口で詠唱し男に向かって、アクアフィールドを発動させた。
男の足元に水が広がっていく。
「うぉっ!? マジかよ本当に魔法を使いやがった!」
男は足を滑らせ、バランスを崩した。
俺は立て続けにアクアボールを放った。大きな水球が男の胸元を直撃した。
「ぐはっ!」
男は後ろに吹き飛ばされ、地面に転がりそのまま動かなくなった。
「えっ!? 死んでないよな!?」
男は動かない。駆け寄って確認すると、なんと酔いが回ってしまったのか寝ていた。
「おい、なんなんだよ……」
呆れて言葉も出ない。自分からふっかけた喧嘩なのに。
肩透かしを食らった気分でいると、周囲に観客が集まってきた。
その中の数人が「見つけたぞ! こんな所にいやがって!」と言いながら男に駆け寄ってきた。
「ごめんなさいね。こいつ、うちのリーダーなの。」
駆け寄ってきたうちの1人の女性が男に回復魔法をかけながら謝ってきた。
「リーダー?」
「こいつ酔っ払ったら誰彼構わず喧嘩ふっかけるのよね。酔っ払ってなければちゃんと強いのよ?」
「はぁ……そうなんですね。」
この人達も苦労してるんだろうな。
なんて思いながら突っ立っていると「明日ちゃんとこいつに謝らせるから!」と言われた。
「いえ、全然大丈夫です。そこまでしていただかなくても……」
「ダメよ。こういうのはちゃんとしておかなきゃ。それに、あなたも冒険者なんでしょ?」
「まぁ……そうですね。今日からですけど。」
「あら、そうなの? パーティ名は?」
「ルクシオンです。光の道を往く者という意味です。」
「へぇ、かっこいいわね! 覚えておくわ。それじゃあ、また明日ギルドで!」
彼女はそう言うと男を引きずってパーティメンバーは帰って行った。気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。なんだか嵐のような人達だったな。
「やったな、ラキ。」
ノアは俺の肩に手を置いて笑う。
「やったな、じゃないですよ。」とイラつきながら言い返した。
「そんなに怒るなよ。良い練習になったろう?」
「……もしかして明日のために?」
ノアは何も言わずに微笑んだ。
マジか……
なんなんだこの人は。
この人の考えが全然読めない。
明日から冒険者として依頼をこなしていくことになる。危険が伴う。喧嘩が実戦形式の練習だった訳だ。確かに練習にはなった。なったが……納得はいっていない。
「練習なら練習って早く言ってくださいよ。こっちにも心の準備ってものが必要なんですから。」
「ハハハ。まぁ、怒るなよ。腹が減っただろう? 「湖の恵み」で魚料理でも食べよう。」
ノアはそう言いながら俺の肩を叩いた。
「今日は店で1番高い魚料理を食べますから!」
今日は破産するまで食べてやる!
一夜明け、冒険者ギルドに行くと昨日の酔っ払いリーダーのパーティがいた。今日のリーダーはシラフだった。俺たちに「昨日は本当にすまなかった!」と土下座してきたので許すことにした。
酒には嫌な記憶しかない。飲んでも飲まれるな。身を滅ぼすだけだ。
「これに懲りたらお酒は程々にしてください。」とだけ言っておいた。
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