天涯孤独の男が超王道のファンタジー世界に転生して人生をやり直してみた話
たかしの
序章 生まれ変わった異世界人
プロローグ
30歳、日雇いアルバイター、学歴なし、彼女なし、家族なし。これが俺……だった。
特技も特徴も、自慢できるものも、なにもない。俺が死んだところで誰も困らない、誰の人生にも俺は関わることができなかった、カス人間だった。
毎日生きるのがしんどかった。生きる意味もないと思ってた。生きる意味を探すことすら、いつからかただの苦痛になってた。
多分、幼い頃に母が出ていったことが、このくだらない人生の原因だ。
小さい頃の俺は、それなりに幸せだった。父、母、兄、そして俺の四人家族。平穏だった家庭は突然壊れた。俺が幼稚園の頃、母が外で男を作り出ていったんだ。
父はそれ以来酒に溺れ、毎晩のように俺たち兄弟に罵声を浴びせてきた。
「お前らさえいなければ、あいつは出ていくこともなかったんだ!」
今思えばそんなこともないだろうとは言えるのに、幼い俺は本当に自分のせいだと信じ、自分を責めていた。優しかった父の面影は薄れ、壊れていく様を見ているのは辛かった。
そんな中、俺にとっての唯一の救いは年の離れた兄だった。兄はいつも優しかった。一緒にサッカーをして遊んでくれたし、父からの暴力も俺を守ってくれた。
そんな兄も数年後、何も言わずに姿を消した。中学卒業後、高校には通わず働き始めて家庭を支えていた兄。父親の酒浸りと罵声、さらには暴力、幼い俺の世話。全てに限界がきたんだろうな。兄も突然消えてしまった。今どこで何をしているのか、そもそも生きているのかさえ分からない。
兄が消えてからは、父は俺の存在をまるで最初から居なかったかのように扱い始めた。多分現実逃避ってやつだ。さすがに母と兄に出ていかれて精神を病んでしまったんだろう。俺はそれはそれで良いと思った。相変わらず酒は飲むけど、罵声と暴力は止んだから。
中学の俺は荒れた。学校では俺の境遇に理解を示してくれる人がいなかった。だからそこら辺の不良と毎日喧嘩して、金を奪い、怒りを発散する。そんな日常だった。
高校には行かなかった。代わりにアルバイトを始めた。が、どれも長くは続かなかった。
働けるようになってから家を出た。家を出る瞬間、玄関からリビングへ振り返り父を見た。父は最後まで俺の顔を見ることはなかった。
これが、俺が家族を失った過程だ。
その後の俺は、日雇いバイトでその日暮らし生活。
中には犯罪まがいのこともやったし、借金もした。返すあてもないのに。闇金から逃れるために何度も夜逃げした。借りた金は酒、ギャンブル、女に消えた。酒もギャンブルもいつか無くなるし、女も俺の家族の代わりにはなれない。
どれも俺の心を満たしてはくれなかった。
そんな日々を繰り返し、ある日、俺は死んだ。
最後に見た景色。それは、真っ赤に燃え盛る炎だった。六畳一間のボロアパートが炎に包まれ、ゴウゴウと音を立てて燃えていた。まさに地獄だった。
その日もバイトから帰ってきた俺は、疲れ果てて布団に倒れ込んだ。ただ眠るだけのいつもと同じ夜、そのはずだったのに――。
火災報知器が鳴り響き、早く逃げろと警告していた。だけどどこにも逃げ場はなかった。玄関、窓の前には、炎が立ち塞がっていた。
ついさっきまで俺が寝ていた布団にも、火の手が迫ってきていた。
熱気と煙が俺を包む。煙を吸ってゴホゴホと咳き込む。酸素が薄くなり、身体は重く、思考も次第にぼんやりしてきた。
俺はただ、ベッドに横になり、目を閉じた。もうすべてがどうでもよくなった。どうせここからは逃げられない。こんな人生、やめてやる。
死の直前、過去を振り返った。家族を失ったあの日、不毛な生活、数え切れないほどの後悔。
今さら悔やんでも遅いのは分かっていたが、どうしても、どうしても、最後に言わずにはいられなかった。
もし、生まれ変われるなら、今度は全力で、心から人生を楽しみたい。どんな些細なことでも、幸せを感じられるような人生を送りたい──そう願いながら、俺の人生は幕を閉じた。
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