友よ、僕は魔王でした
芥生夢子
プロローグ
ダイヤモンド型と呼ばれる地形を持つカトラリア王国──わずかに採れる鉱石の輸出で成り立っている、資源の乏しい弱小国家である。
力を持った周囲の国々がこの小国を独立させたまま見逃しておくのは、カトラリア王国だけに存在する、ある血筋のためだった。
勇者は、この国で生まれる。
しかし、世界を混沌に陥れるという魔王もまた、この国から生まれるのだ。
貧しい国とはいっても、歴史の古いカトラリアの街並みは美しく、首都の市場は多くの人々でにぎわっていた。
新鮮な野菜や果物が並び、屋台からは出来立ての食物の匂いが沸き立つ。店員と客の会話が飛び交い、誰しもが活気に満ち溢れていた。
建物は様々な色を使用した
市場から少し離れると、夜になれば酔っ払いの浮浪者や鉱山で働く労働者たちで繁盛する酒場がある。昼間はただのレストランだが、貴族たちはもちろん、少し金を持っている連中は近寄らない。集まるのは貧しい労働者とその家族たちだ。汚れた服を着た子どもたちが、酒場の一角に集まって何かを懸命に見ている。
小さな丸いテーブルに布を敷いて、傾きかけた古い椅子に座っているのは布で顔を隠した占い師だ。時折、この酒場に現れる。占い稼業が始まるのは夜になってから。客となる親たちの印象を良くするため、子どもたちとボードゲームで遊んでいるのだ。
占い師は言った。
「ここに三つの駒がある。これは王の駒。これは奴隷の駒。そしてこれは悪魔の駒だ」
白黒の盤面の上に、木彫りの駒を三つ置いてみせた。そして子どもたちにこう尋ねた。
「さあ、どれが一番強いと思う?」
子どもたちは口々に答えた。
「悪魔だ!」
「違うよ、王が一番に決まってる!」
その様子を眺め、もったいぶるようにして占い師はただ微笑んだ。年齢も、性別も、その姿と声からは推測することはできない。
続けて、占い師は言った。
「王は言った『私は神だ!』」
「奴隷は言った『私は人間だ!』」
「悪魔は言った『私は悪魔だ!』」
「さあ、正しいことを言っているのは誰だ?」
子どもたちは今度も悩まなかった。
「もちろん王さ。悪魔は嘘つきのはずだもの」
「悪魔が嘘をついているなら、悪魔じゃないってことになるよ」
「あ、そっかぁ……」
隣にいた子どもが言い返すと、最初に口を開いた子どもは戸惑った顔をした。
その様子を、微笑みの張りついたままの顔で見ていた占い師は、懐から駒を全部出して本来のゲームを始めた。子どもたちは考えごとをやめ、目の前の遊びに夢中になった。
占い師は小さく笑いながら、男でもない女でもない声で囁いた。
「この国にも、様々な種類の人間がいる。王、貴族、平民、そして勇者、魔王、革命家……。さあ、正しいのは誰だ……?」
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