拾ったヒモは、釈迦だった。

Φ(ファイ)

第1話 また男を拾う

季節は冬、イルミネーションの青白い光が恋人たちを包み込む頃。


年の瀬を迎えたサラリーマンは仕事納めに追われながらも、一年間の苦労を忘れるためにビールを胃に流し込む。


そんなサラリーマンおじさん達にへーこらしている冴えないOLこそ、ワタクシこと神谷ひばりである。


自嘲気味に言ってみたが、本当はキラキラ女子だ。

新卒で入った大手広告代理店の勤務も早いことで6年。

現在は、CMのプロデューサーをしている。


彼氏もいる。

独立を目指して動画投稿を続ける、未来のインフルエンサー。

顔は塩顔で格好いい。大好きな彼氏。


これは半分嘘だ。

本当は動画投稿なんてしているところは見たことないし、私のあげるお小遣いで毎日パチンコをしている。


でも、顔は格好いい。

お金をあげるとすっごく喜んでくれる。

私に大好きと言ってくれる。

お金をあげた時だけ言ってくれる。


そんな彼とも、もう1ヶ月会っていない。

週の半分は私の家に泊まっていたのに、ずっと帰ってこない。


そう、彼はヒモで私は財布。

そんな男からも見捨てられるような、残念系キラキラ女子だ。


どうでもいい脳内自己紹介をしている間に、最寄り駅に到着する。


お家に帰る前にコンビニ寄ろう。

忘年会では上司たちへの社内接待でろくにご飯にありつけなかったし。


カップラーメンの入った袋を片手に、私の住むマンションがある住宅街の路地を進む。


気になるのは、道の端の街灯の一つがチカチカしていること。

数日前から接触がおかしいようで、薄黄色い明かりが付いては消えてを繰り返す。


女性の一人歩きには注意が必要だ。

私は街灯の暗がりに目を向ける。


「誰かいる?」


つい口に出てしまったが、誰かが街灯の下に座り込んでいる。

警戒しながら横を過ぎ去ろうとしたが、立ち止まってしまった。


そこに座っていたのは、お坊さんだった。

多分、お坊さんでいいのだと思う。


というのも、彼は坊主頭で胡坐をかいて座っているのたが、着ている服はくすんだオレンジ色の袈裟。


あれか、海外のお坊さんか。

インドとかタイとかの。よく分からないけど。


立ち止まってしまったのが運の尽き。


「もし。食べ物を恵んでいただけませんか?」


物乞いだ。

と言うか日本語だ。


そうだ、学生時代に社会の授業で学んだことある。

確か僧侶のやる托鉢とかいうやつだったか。


「えっと、カップラーメンなら。あ、でも、お湯ないと食べれないし」

動揺しながらも絞り出た言葉は、先生に詰め寄られる小学生のよう。


「そうですか。それなら大丈夫ですよ」

僧侶は穏やかそうに、答える。


何か悪いことをしたような気まずさで、私は立ちすくんでしまう。

そうやって、僧侶を見下ろす形で眺めていると、あることに気が付く。


こんな真冬に、裸足で薄い袈裟を着て、姿勢も崩さずに丁寧にずっと座っているのだ。


「あの、、、」


どうしてか分からない。

でも、なぜかこんな言葉が口から出た。


「私の家に来ませんか?」


〜続く〜

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