2024年のクリスマスミライ with 建部稲穂『オトナだから……♥』編

三宅蒼色

『オトナだから……♥』

2024年のクリスマスミライ with 建部稲穂 『オトナだから……♥』編


~登場人物~

●建部稲穂=薊学園の新米女教師(この世界線では教育実習生ではありません)

●英田柾=二年生の新聞部部長


○基本、ミライシリーズを知っている人前提の小話です~。ごめんね。

○稲穂が恩着せがましく新聞部の顧問をやってあげようと手を挙げるちょっと前の話。



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 お昼休みの部室は、運動部も文化部も同様に部員が昼食を取る場所に使われる事が多い。

 学園内の食堂がやたら混雑するのも理由のひとつだが、最近のキッズどもはプライベート空間を優先したいらしい。

 タバコを吸ったりイリーガルなお薬を嗜んだりしない分、まだマトモなのだろう。

 ひょっとしたら人目を忍んでいちゃつくカップルもいるかもしれない。

 校舎一階にある倉庫を部室とする新聞部にもやはり一組の男女がいた。

 そんな昼休みの新聞部部室から小話は始まる――

 

 ・・・

 ・・

 ・


【12月上旬 午後12時19分】

【私立薊学園新聞部・部室内】


 菓子パンを食べながらパソコンでネットの新聞記事を眺めるのは英田柾。新聞部の部長。

 その背後で、使い古された学生用の机にダルそうに突っ伏しているのは教員である建部稲穂。

 職員室から持ってきたマグカップのコーヒーも程程に、頬を机に預け、それはもうダルそうにスマホをポチポチ。その姿は酸いも甘いも噛み分ける、やさぐれたOLの昼休みのようだ。

 "そんなの"であるから、身体のラインがバッチリ出る服装でかつ、膝上ミニスカで教鞭を執る強心臓の持ち主であるが、本当に教師である。


 いつもの日常。だからお互い、気を遣うこともない。新聞部の部室は狭い空間であるが、それぞれの時間を過ごす。

 たとえそれが生徒と教師であっても。


 稲穂は、いつも昼に確認するポータルサイトの星座占いを見ていた。

 自分の星座が12位だったことに舌打ちしながらスマホをスリープ。12位にしておいてなぁにが"ゴメンナサイ"だと思いながら。


建部稲穂たけべ・いなほ

「そういえば最近、他の子たち昼休みに来ないねー。ケンカした?」


英田柾あいだ・まさき

「神目と八束のことなら、どっかで紫苑とメシ食ってるんじゃないかな。あと奄美は部員じゃない」


【稲穂】

「一緒しないの?」


【柾】

「なんでだよ、一緒とか気持ちわるっ。あいつらとメシなんて"集られる"だけだし。デケー方どもなんか、最近暴力がヒデーんだぞ。ガタイいいから男よりパワーあるからマジで痛いのなんの」


【稲穂】

「可愛い子ばっかりだから照れちゃってるのね♥ 英田のそういうところカワイイわ~」


【柾】

「どこをどう聞いてそう思うのか……むしろ教師が昼休みにこんなところに来る方がおかしい。しかも毎日」


【稲穂】

「私? だって職員室にいると息苦しいじゃん! 『建部先生はまだお若いから、学生気分が抜けないようですなぁ』とか嫌味言われるんだよ? 私は生徒と一緒に青春したいの! 事務とか"やー"なの!」


【柾】

「思いっきり学生気分が抜けてないではないか……(やーなの! って子供か)」


 学生のノリそのまんまやんけ、と納得出来るのが建部稲穂のいいところかもしれない。

 青春――教師――理想と現実は残酷なものだった。ドラマは所詮、ドラマでしかないのか……

 ○八先生はなーんか『?』なのでどうでもいいが、スク○ルウォーズは彼女にとっての聖典だ。


『私はあなたたちを殴るわ!』


 絶対いつか言おう……稲穂の夢である。


【稲穂】

「そろそろキミらは冬休みかぁ……いいなぁ私も一緒に休みたぁい」


【柾】

「教員は平日出てくるんだっけか? でもどうせする事ないんだろ? 学校閉めて休めばいいのになー。部活動もあるからそうはいかないか」


【稲穂】

「新人はアレコレやらされるのよ~。見回り、戸締まり、連絡係~。部活の顧問になればそういうの免除されるんだけどさ、顧問なんて全部埋まってんじゃん! ずるーい!」


【柾】

「ずるいって……」


【稲穂】

「冬休みってことは……あーっ! もうすぐクリスマスじゃん!」


【柾】

「彼氏と一緒にやらしーことするんだろ、タケベも」


【稲穂】

「先生にタケベって呼び捨てすんなっ! ……今のこの私に彼氏なんていると思う? それとも……うふふ、いて欲しい?」


【柾】

「どういう答えを求めてるんだよ……意味わからん」


【稲穂】

「いるわけ無いでしょーが! そんな余裕いっさいナシ!」


【柾】

「ふーん」


【稲穂】

「ちょっと待って、モテない事はなぁい! 言い寄られる事は多いんだよ? っていうか私、そんな軽そーに見えるのかな?」


【柾】

「自分で"お堅い"と思っているのなら驚きだな」


【稲穂】

「はぁ……私さー、昔っからそうなんだよね。なーんか軽そーに見られて」


【柾】

「生徒と昼間っからこんな場所でダラダラ駄弁ってる教師だもんな」


【稲穂】

「嫌みったらしい! ムカツクっ!」


【柾】

「仮にも生徒に対してそんなこと言いなさんな……」


 少し考えて、確かにそれもそうかと納得する稲穂。


【稲穂】

「ねえ、英田くん。クリスマスって何してるの?」


【柾】

「何って、ええっと……今年は平日か。なら家にいるんじゃないかな」


【稲穂】

「うわっ! しょーもな! いまそんなボケ求めてないわ~」


【柾】

「えっ? ボケてねえって! なんでそーなる」


【稲穂】

「やっぱり幼馴染みのあの子と一緒? 閑谷さん……だっけ? あの子ねー、ホント可愛いよねー。同性が見た瞬間に"スミマセンでしたー!"って負けを認める子ってなかなかいないよ?」


【柾】

「ただの幼馴染みであって、そういう関係では無い。それに大して可愛くもない。チビだからそう見えるだけだ」


【稲穂】

「あんな子連れて歩いたら、さぞ気分がよろしいんでしょうねェ……はー。腹立ってきた!」


【柾】

「なんで勝手な憶測でこっちがムカつかれなきゃならんのだ……たしか去年も神目らと騒いでたから、今年もそうだろうよ。なにが楽しいんだか」


【稲穂】

「私それ呼ばれてない!」


【柾】

「あんた教師じゃん……(そもそもその頃いなかったろうに)」


【稲穂】

「教師の前に、私たち友達じゃん!? ね?」


【柾】

「(しらんがな)なら今年は自分も参加するって言えばいいじゃないか」


【稲穂】

「ヤダ! 誘われてこそよ! 自分からとか無理ィ」


【柾】

「(出たよ。女のメンドクセーところ……)」


【稲穂】

「誘ってくれないなら……教師として、クリスマス会禁止にしようかな……」


【柾】

「大人のやることか」


【稲穂】

「大人だからやれるんでしょ!」


 そんなどこかで聞いたような台詞を吐きながら、自分も楽しいことに参加したいと駄々をこねる建部稲穂。

 たしかに、彼女の性格を考えるに、友達がたくさんいたであろう学生自体から今の教員という立場は息苦しいのだろうと柾は同情する。

 タケベも誘ってやれば?と口添えくらいは……と考えていると……


【稲穂】

「ならクリスマス私と付き合って! 有給取るから」


【柾】

「はあ? なんで。ヤだよ、面倒くさい」


【稲穂】

「面倒とはなによ! 年上のお姉さんが誘ってるんだよ? 妙な期待で色んな所膨らませてホイホイ付いてくるのがクソガキってもんでしょーが!」


【柾】

「(下ネタじゃん……)年上のお姉さんという認識は1ミリも無い。せいぜい1コ上のやかましい先輩レベル」


【稲穂】

「後輩は先輩の言う事を聞くものよ。先輩がカラスは白いと言えば黒いカラスも白い。オーケー?」


【柾】

「ノットオーケーだっつうの。あー! あれだ、予定あったわ。すまん。明石家サンタ見るからその日は無理。行けたら行くわ」


【稲穂】

「うわー! 英田ほんとムカツク~! ちょっとほんとなんとかならないのー? このままじゃ私、クリスマスに学校で見回りじゃない……暖房殆ど切ってるからすっごく寒いのよ」


【柾】

「まずその生足出してる格好をなんとかしてから来いよ……」


【稲穂】

「男子が喜んでくれるから私はこれで行くの~!」


【柾】

「そら軽い言われるわ」


【稲穂】

「軽くは無いッ! そんなことどうでもいい……は~、ショックだわ……何も予定が無いのにクリスマスに有給とか絶対ヤだし……」


【柾】

「誰が見ているわけでもないんだから、気にするような事だろうか……」


【稲穂】

「気にするのよ~! 女はそういうものよ~! 英田むかつく~~ぅ」


 仮にも教師が生徒をゲシゲシと蹴ってくる。

 柾も馴れたもので、身体を揺さぶられながら溜め息。


【柾】

「他の生徒の前でそんなことすんなよ……」


【稲穂】

「当たり前でしょー。英田だから、こう、こうだっ。えいっ!」


 げしげし。

 ミニスカ生足を伸ばして、つま先で柾の座る椅子を小突く稲穂。


【柾】

「やれやれ……(なんで足癖、手癖の悪い女ばっかりなんだろう……)」


【稲穂】

「ん……? ちょっおっと待ってェ~!? この新聞部ってぇ、顧問いないんじゃないの?」


【柾】

「いないよ? 誰が好き好んでこんな場末のクラブ活動を面倒見るって言うんだ」


【稲穂】

「私っ! 私が、新聞部の顧問になるっ!」


【柾】

「やめてくれ……海賊王っぽく言うのもイラッとくる」


【稲穂】

「遠慮しちゃダメよ。私とキミの仲じゃない?」


【柾】

「迷惑だと言っているんだが? 顧問になればラクできるとか自分で言ってたじゃないか。あっ! まさかクリスマス学校に行きたくないから……そんな不純な理由で我が新聞部を……」


【稲穂】

「身近過ぎて気がつかなかったわー。近すぎて本当の気持ちに気付けなかった、JPOPでよくあるやつよね。失ってから始めて気付くわ~。これで私も部活動の顧問かぁ」


【柾】

「聞いちゃいねー!?(もうなったつもりでいるよ……JPOP……?)」


 ……このあと、突如爆誕の顧問によって柾はなぜか


『先生、俺、悔しいです!』


 と絶叫する事を強要される、そんなお昼休みの出来事。


(終)



 クリスマス関係ある?と言われると困るの巻。

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2024年のクリスマスミライ with 建部稲穂『オトナだから……♥』編 三宅蒼色 @miyakeaoiro

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