東アジアには絶対音感を持つ人が欧米よりはるかに多いことが判明【コラム】
ミッキー大槻
東アジアには絶対音感を持つ人が欧米よりはるかに多いことが判明【コラム】
本稿の元記事を2009年5月に書いたのだが、現時点でも、東アジアに絶対音感者が他地域より多いことはまだあまり知られていないようだ。東アジア人に世界的に優れた特質がある場合、欧米ではできる限りスルーしたい話題のようであり、東アジアでも特に日本では、欧米の対応に従っておこうとする「事なかれ主義」的傾向がある。中国や韓国では、自国民が世界的に優れていることを主張したがるのに対し―。絶対音感が神通力に近い西洋音楽を生んだ欧米側としては、東アジア人が自分たちに世界的に優れた能力(この場合は音感)があると自負して結託するのが厄介なのだろう。だから、日本が韓国や中国と結託しにくい風土が欧米主導(またはマッカーサーの遺志)により維持されているのだろう―と、別に右翼でもない私が見ている。
東アジア人同士で人種差別(レイシズム)を受けたとする主張は、同じ人種内でもレイシズムが成立するのかという意味不明な設問を突き付けられているに等しい。
さて、日本でも、絶対音感を持つ人がいれば羨望のまなざしを浴びる。我が子に絶対音感を身につけさせたがっている親は世の中に五万といる。だが、絶対音感を持つ人は1万人に1人しかいないと言われている。この「1万人に1人」という出現率は、あくまで欧米での調査結果に基づくものであって、アジアでの調査に基づくものではない。
■ 東アジア人は絶対音感に優れた遺伝子を持つのか?
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)所属のダイアナ・ドイッチュ女史らが“Journal of the Acoustical Society of America”で発表した研究結果によると、地域を限定すれば、絶対音感を持つ人がざらにいる可能性がある。どの地域かというと、主に東アジアである。
2004年、ドイッチュ女史が北京の中国音楽学院で絶対音感を持つ学生の割合を調査したところ(調査対象者は全員が北京官話を話す)、ニューヨークのイーストマン・スクール・オブ・ミュージックでの調査結果を9倍も上回っていた。1万人に1人などではなく、およそ千人に1人の割合で絶対音感者が存在することになる。中国音楽学院で調査の対象となった学生は、全員が“東アジア人”だった(単に“中国人”としていないのは漢民族とは限らず、中国国内の少数民族や、日本など海外からの留学生も含まれていたことを意味すると思われる)。
ということは、東アジア人の絶対音感者の出現率は欧米人の9倍も高いということになる。これは、東アジア人が絶対音感に優れた遺伝子を持っているためなのか? いや、ドイッチュ女史はほかに要因があると考えた。言語である。
■ 実は遺伝とは無関係で言葉の抑揚と大いに関係が・・・
そのことを確認するために、ドイッチュ女史らは南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校で203人の学生を対象に、あるテストを実施した。203人の学生たちに、3オクターブの音域にわたる36の楽音をランダムに聴かせ、その音名を解答用紙に記入するように指示した。さらに、被験者各自の音楽面、民族面、言語面でのバックグラウンドを解答用紙に記入させた。
言語面でのバックグラウンドには、東アジアの“声調言語”を流暢に話せるかどうかも記入させた。さて、ここで“声調言語”とは何かを説明しておくべきだろう。ローマ字表記などにしたときに同じ発音に見えても実は音の高低(抑揚)があり、その違いによって意味が変わるタイプの言語のことを“声調言語”と呼ぶ。
その最たるものが北京官話や広東語を含む中国語である。ベトナム語もこれに含まれる。・・・とここまで読んで、にやりとした中国語ネイティブの読者もいるはずだが、圧倒的大多数を占める日本語ネイティブの読者は落胆したかもしれない。(だが、後述するように日本語も“広義の声調言語”になら含まれる)。
さて、上記のテストの結果、以下のような相違点が浮かび上がった。
東アジアの声調言語を流暢に話せる被験者は、楽音を聴いて音名を当てるテストでほぼ100%の正答率だった。
声調言語をなんとか話せる程度の被験者は、上記のグループよりも正答率が落ちた。
声調言語をまったく話せない被験者(白人と東アジア人の両方が含まれる)は、最も正答率が低かった。
■ 絶対音感は“絶対的能力”にあらず
日本語は同音異義語がきわめて多く、抑揚で区別する。たとえば、何の文脈も与えずに「はし」という言葉をひらがなで書くだけでは、「橋」なののか「端」なのか「箸」なのか区別できない。それゆえ、日本語も“広義の声調言語”には含まれる(諸説あろうと思われるが)。日本語の中でも京阪方言(京都弁や大阪弁など)は声調言語の性質が他の方言より濃いと言われている(たとえば、Wikipedia日本語版の「声調」の項にも、このような記載がある)。そういえば、最近のロック系やJポップ系の歌手(特にシンガーソングライター)を見ていると、京阪神出身者が目立ってはいないだろうか。
ただし、絶対音感は優れた音楽家に必須の資質ではない。かの名指揮者カラヤンなど、あるとき楽団員が悪戯でベートーヴェンの第5交響曲の第一楽章を異なる調で演奏したのに(さすがに本番ではなくリハのときだが)、まったく気づかなかったというエピソードがある。これはカラヤンに絶対音感がなかったことを意味する。
上記の結果によれば、声調言語ではない言葉(たとえば英語)しか話さないグループに絶対音感を持つ人が含まれる比率は低いことになるわけだが、英語ネイティブの歌手の方がリズムに乗せた表現力に優れているように感じられたりもする。これまた、言語に原因があるのだろう。英語は音節構造が複雑で、シンコペーションなどのリズム変化に歌詞がのりやすい。(日本語を英語の音節構造風に発音して歌詞に乗せた第一人者が桑田佳祐だと思われるが)。
また、声調言語は東アジアだけに特有のものではなく、アフリカ大陸のリンガラ語もその1つに分類されている(ただし声調は2つだけ)。(日本語Wikipediaの「リンガラ語」の項には、その旨の記載が含まれていないようだが)。
ともあれ、言語能力は生まれた後で習得する能力である。上記のように言語と絶対音感に密接な関係があるのなら、絶対音感は天賦の才ではない、ということになる。ドイッチュ女史もその点を強調している。ま、絶対音感は一種の記憶力だという話もある。記憶力は磨くこともできる。
■ Reference: Tone Language Is Key To Perfect Pitch
東アジアには絶対音感を持つ人が欧米よりはるかに多いことが判明【コラム】 ミッキー大槻 @miccckey
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