ロボオタクは異世界で人型ロボを駆る
ウツヨ
第1話「初手から詰むのって……」
薄暗い部屋の中、アケコンのスティックをガコガコと動かす音が響いている。
「よっし! 十連勝キタコレ!! やっぱスパアマしか勝たん!!」
モニターにはリザルト画面が映っている。推しの機体。いつ見ても色褪せないかっこよさがある。
「ぬわー。疲れたー! そろそろ寝るか。てか何時だ?」
スマホを立ち上げ、時計を確認する。もう四時か。あ。早朝ね。
「ロボゲーはある程度やり尽くした感あるよなぁ〜」
棚には塗装済みのプラモデルが数多く飾られており、なんか雛壇みたいになっている。
スマホにピコンと通知が届く。
「ん? 新作ゲーム情報か。なになに?」
『全世界初!! フルダイブ型VRMMOファンタジー本日発売!! キミは生き残ることができるか……』
あー! これテレビでめっちゃ宣伝してたやつだ。体験版のクオリティが高すぎてトレンドに一ヶ月居座ってたやつじゃん。
「ちょいめんどくさいが、開店凸して買い行くか」
ってなわけで2時間半並んだ後、無事商品を
「カッターナイフ……」
工具箱からカッターナイフを取り出し、ダンボールを開ける。
「うわっ。箱シンプルだなぁ」
艶消しの箱に箔押し、英語表記でヌルと書いてある。ものすごく高級感を感じる。
中にはVRゴーグルが入っている。なんかパイロットスーツのヘルメットみたいだな。
「ほっ。起動!」
VRゴーグルを頭に被り、側面のスイッチを押す。
キュイインという駆動音と共にVRゴーグルは光り始める。
「わはは。すご」
次目を開けた時は真っ白な空間にいた。
五億年ボタンかよ。
「なんかアレ。玉座みたいなのに人座ってない?」
目の前に玉座が見える。白髪の少女がちょこんと座っている。
近づいてみるとゲームのUIのようなものが視界に突如現れる。
少女の頭の上にはヌルという表記がある。
「どうも?」
少女はゆっくりと目を開き、蒼白の瞳が顕になる。
『こんにちは。アカネ様。お待ちしておりました。仮想世界ヌルにようこそ。ナビゲーターのヌルです。ここではゲームの説明をさせていただきます』
少女は指を鳴らす。
目の前にいくつかの景色が映し出される。
『これからアカネ様には幻魔大陸ヴィザリスに転移していただき異世界ライフを楽しんでいただきます。この世界には魔力が存在しており、さまざまな使い方ができます。詳細は鑑定スキルをご覧ください。では楽しい異世界ライフを』
足元に青い魔法陣が展開され、身体が光の粒子のようなものに変換される。
「うぉ。すげ」
目を覚ますとそこは……。
「何処ここ?」
見渡す限り、謎の模様が彫り込まれた壁しかない。あとなんか湿っぽい。
『あ。すみません。このゲームリリースしたてでバグが多くてダンジョンにスポーンしたっぽいです。なんとかならないかなぁ……』
さっきの少女の声だ。かなり焦りを感じる。
丸腰の状態でダンジョンってかなりまずいのでは?
その場でぴょんぴょんと跳ねてみる。
「カラダ軽っ!? 異世界人ってすご」
ぴちゃぴちゃとした液体が垂れる音と何かを引きずる音が聞こえる。なんの音だろう。
「うん。気づきたくなかったけどスライムいるよね。ダンジョンだもん」
とりあえずステータス見るか。
「ステータスオープン」
粒子が手のひらから放たれ、画面を構成する。
触れてみると少しひんやりとしている。ステータスプレートに当たり判定あるんだ。
「私。なんとも言えないステータスだな……」
レベリングでどうにかなるか。熟練度……。無いか。ロボゲーじゃないし。
スキル……はスロットが四つ。とりあえず出会ったモンスター倒してって感じ。
地響きがする。しかも近づいてきてない?
ドスンと地面を踏み締め、転がる石を砕きながらヤツは姿を現した。
「は?」
全身がスライムに覆われていてかつ巨大なゴブリンのような出で立ちのソレはダンジョンの硬い壁をウエハースのように突き破る。
『鑑定 スライムゴブリン。レベル38』
鑑定スキルが叩き出した数字は桁外れのものだった。
スライムゴブリンは咆哮を上げる。それは地を揺らし、大気を震わせる。
コレさもしかしてだけど
「詰みじゃね?」
ゴブリンは腕を振り下ろし、地面へと叩きつける。地面、壁に亀裂が走り、衝撃波が放たれる。
私は手をクロスし、防御の体制をとる。私が大好きなロボゲーは核の光に包まれてもガード張っとけばどうにかなる。
衝撃波がカラダ全体に伝わり、後ろ方向へと吹き飛ばされる。硬い石壁にカラダが叩きつけられる。
「っは!!」
魔力でカラダを覆ったつもりでも痛いものは痛い。
「って痛い!? ゲームなのに!?」
っこれフルダイブだった!! 違う。次の手を考えろ。
「なんかスキル無いのか!? 多少のXPは入っただろ!」
『スキル解放 【トンファーレイ】』
私の両手首から肘にかけての皮膚がロボットの変形機構のように変形、展開し、露出した内部フレームからビーム刃が展開される。
「おぉ。すご。機械かよ」
ゴブリンは振り下ろした腕を私目掛けて伸ばす。
「コレならイケる!」
トンファーを煌めかせ、ゴブリンの腕を斬り、振った直後にステップを踏む。カラダに虹色のオーラがかかり、次の行動へノータイムで移れる。
「そう!虹ステだ!」
ゴブリンの腕を蹴り上げ、再度ステップ。両手を極限まで交差し斬撃を放つ。
放たれた斬撃は大気を断ち、ゴブリンの腕を斬り飛ばす。
ゴブリンは痛みに悶える。よし。やった!
でも息切れが……急な運動はカラダに良くない。
私の展開された両腕はプシューと煙を吐き、閉じる。
あ。やべ。
次に目に映ったのはゴブリンの拳だった。
ロボオタクは異世界で人型ロボを駆る ウツヨ @Onigiri_5mo9
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