第2話 今日こそ彼女をデートに誘いたい

 無事に2学期の期末試験も乗り越えた。

 今月の残りの学校は、午前中だけの短縮授業になる。


 短縮の1日目の昼過ぎ、オレは自分の教室で1人だけ残りラノベを読んでいた。

 図書委員会に出席している静花しずかを待っている。

 今日こそは本格的なデートに誘いたい。


 そろそろかなぁ。

 教室の窓から図書室の方を見る。


 図書室がある建物は、3年生の教室がある建物と渡り廊下でつながっている。

 オレがいる教室は3階で、ちょうどよく渡り廊下が見下ろせる。


 

  ※ ※ ※



 隣の校舎から渡り廊下に、数人がまとまって歩いてくる。

 その中に静花しずかの姿もある。

 図書委員会が終わったみたいだ。


 静花しずかが他の男子と一緒に仲良さそうに歩いている。

 ちょっとヤキモチな気持ちになる。


 静花しずかもそうだけど、図書委員て毎学期いつも同じやつがする傾向がある。

 ある意味で部活みたいな関係になっていて、仲良くなりやすいのかもしれない。


 そのとき、一緒に歩いている男子が静花しずかのお尻を触った。

 軽く撫で回す感じで。

 いや、見間違いかもしれない。

 静花しずかは特に何も嫌がるそぶりは見せない。

 やはり見間違えか。

 静花しずかたちの姿が3年の校舎に近づきすぎて、窓から見えなくなる。

 いっくら仲がいいにしても……と、心の中でモヤモヤする気持ちが残る。


 

  ※ ※ ※



「待たせちゃってごめんなさい」

 静花しずかが教室に入ってくる。

 いつも通りの丁寧な口調だ。


 彼女は普段通りで変わらない。

 オレはさっき見た光景が気になるけど、気にしないことにする。

 聞くにしても、デートに誘おうとする今じゃない気がする。


「全然。

 ラノベ読んでたから気にならないよ」

 オレは自席に座っていて、手に持ったラノベを彼女に見せるようにする。


 彼女は自分の鞄を手に持ちオレに微笑む。

「じゃあ、帰りましょうか?」

 あまりにいつも通りだから、さっきの場面はやはり見間違いな気がしてくる。


 

  ※ ※ ※



 2人で駅の反対側にある、少し離れたハンバーガー店に入る。

 昼食がまだなので、2人ともセットを購入して席に着く。


 オレは今読んでいるラノベの話をする。

 彼女は図書委員会で友達から勧められた恋愛ものの短編集についての話をする。

 本の話題なら、男の友達と会話してるのと同じ感覚で話せる。


 彼女もオレに似て普通の見た目だ。

 派手なギャルでもスポーツ美少女でもロリ妹キャラでもない。

 かといってメガネかけて勉強タイプってわけでもない。

 制服の着崩し方もいたって普通だ。

 普通のスカート丈で、普通のブラウスのボタンの外し方だ。


 背は普通より少し小さいほうだ。

 体つきは運動が嫌いなせいか少し丸みがある。


 勉強もオレと同じくらい普通にできる。

 県内では上位校なので、そこで普通だから結構頭いいことになる。


 オレにはちょうどいい彼女だ。

 ライトオタクの自覚があるオレには、こんな子が向いている。

 "彼女"というものに上級者向けとか中級者向けがあるなら、間違いなく入門者向けの彼女だと思う。


 

  ※ ※ ※



 彼女の話を聞いていたら、2人ともポテトまですっかり食べてた。

 彼女はトレイの上の食べた包みを片付けている。

 いつもなら帰りましょうとなるけれど、今日はデートに誘うのが目標だ。


「今度の土曜日どこか出かけない?」

 オレは緊張しつつ聞いてみる。

「いいですね!」


「映画とかどうかな?

 ちょうど静花しずかが好きそうな小説が原作のやつやってるしさ」

 付き合い始めて、彼女の方から「静花しずか」と呼んでと言われた。

 素直にそれに従っている。

「うーん、どうかしら」

 彼女が首をかしげる。


 オレが他の提案をする。

「水族館とか美術館のほうがいい?」

「そうじゃなくて……」

 彼女がちょっとを作る。

 オレは断られるのかと思い緊張する。


「そういうのもいいんですけど、

 土曜なら、わたしの家はどうですか?」

静花しずかの家?」

「はい。

 つとむくんの家でもいいですけど」

 びっくりする。

 家の方がハードル高い気がする。

「それでいいっていうか、むしろ嬉しいよ」

「じゃあそうしましょう」



 そんなわけで、オレは土曜に彼女の家に遊びに行くことになった。

 茉莉まりの部屋以外じゃ女の子の部屋なんて入ったことがない。

 オレにとって思いがけない展開になった。

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