第2話

翁は馬に跨った。

一人でに城下町を出て農村へと出向いた。

城に攻め込む前に準備をせねばならない。

踵を返すように雲行きが怪しくなり、

一粒、二粒と雨が滴り落ちた。

それをも気にせずに翁は頭で策を練る。

雨が強くなってきた。

「爺や、主がそうか」

こめかみをつく様な衝撃を覚えた。

この声は。

「貴様か、佐吉を殺ったのは」

そう、因縁、怨念の相手、

谷津家の筆頭、矢津蓮芝一行である。

「左様じゃ、そげな奴は儂が

とくと切り捨てた」

「貴様」

彼は如何にも淡々という。

「まあ良い。憎しみおうても仕方あるまい」

「なんじゃと」

翁の次の一撃を見透かす様に彼は出た。

「構えても仕方あるまい。主は敵わぬだろう」

ぐぬぬ、と声にならない声を発し、

歯を食いしばる。

「じゃがのう」

「なんじゃ、負け犬の遠吠えか?」

「そげなもんじゃない」

「ではなんじゃ」

「大きな召物を其方らに届ける」

「切り捨てい」

気がつけば血飛沫が舞い、

翁は馬から転がり落ちた。

溢れ出る血、それを抑える様に

立ちあがろうとした。

「三太聖衣、」

「何を言うておる」

「三太聖衣が、」翁の息は途絶えた。

その数時間後、発見された翁の姿を見て

諭一は憤りを覚えた。

無垢が囲うその場を潜る様に

実篤が諭一にいった。

「殿、殿」

「どうした実篤」

「翁の書斎からこんなものが」

実篤が持っていたのは

何かが書かれた便箋である。

「翁の遺言か」

「左様でございます」

諭一の手元にそれが渡った。それを開く。

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samurai santa 雛形 絢尊 @kensonhina

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