samurai santa
雛形 絢尊
第1話
凛々と音が鳴る。
「幸四郎殿」と声を出す甲冑の男。
煤の散る屋敷は熱を覆う。
離れた場所に別の男がいる。
彼も同様甲冑を着ている。
じっと馬に跨ったまま。
焼け落ちる建物の残骸と、木の弾ける音。
草が炎のように轟轟と揺れた。
十二月十一日
軽やかな佇まいで弓を引くのは諭一。
その曲線は空を切り裂き、
束ねた藁へと向かった。
「寒うなってきたのう」
翁が様子を見に下駄を
履いて庭へと歩み寄る。
「佐吉を待っておる」
翁は低い声で言った。
諭一はふうと息を吐き翁のもとへ向かう。
「斉之殿、わしは戦の匂いがする」
「諭一は三太を知っておるか?」
翁がボソッと呟いた。
「三太、加賀家の幼子か?」
加賀家はこの城の近くにある農民の家だ。
「殿様」
家来の実篤が駆け寄るように言う。
「どうかしたか」諭一はその目を彼に向ける。
彼は体を下げつつも堂々たる姿勢でいる。
「年の暮れまでに谷津家の
軍勢が攻め入る可能性が」
「ほほう」
「兵糧もすでに底が見え、足らぬと」
「実篤」
「ははあ」
「主ならどうする」
「わ、私は」
斉之が割り込むように会話に入ってくる。
「提案じゃ」
「何ぞ」
「三太聖衣や」
ぽかんとしている。
んんん、と咳払いをして諭一は問いかける。
「一体何だ、三太聖衣とは」
「異国で名を張す、武士じゃ」
「なんだと?異国にも侍はおるのか?」
「そうじゃ、だがの」
「だが、?」
「幼子共に、召し物をやるそうだ」
「そげなもの、武士ではあるまい」
「それじゃよ」
斉之は左手に持つ杖で地面に何かを書いた。おそらく顔であろう。
顎下にあるものは髭であろう。
その量はすさまじく、
未だかつて見たことがなかった。
「これが三太聖衣だ」
「三太聖衣の戦であるか、実篤、刀を持て」
「ははあ」彼は腰に携えた刀を構えた。
「屋根裏から忍び寄るのだ、十二月二十四日の夜、自らの息子の首を枕元へ届けるのじゃ」
「なんと」実篤は驚きの声を上げる。
「寝込みを襲うなど、武士の恥じゃ」
「何を言うておる」
斉之の生唾を聞いた。
「そうせねば、儂らは滅びる」
どこかで鳶の鳴く声がした。
「決行は十二月二十四日じゃ、
実篤、諭一。頼んだぞ」
「二人で?」実篤は不安そうに言う。
「将に申すと面倒が起こる。
穏便に、佐吉の恨みを晴らしておくれ」
諭一は南西の方へ顔を向け、
それに当たる風に目を閉じた。
「武士道に反するも、此れはけじめじゃ」
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