女子高に入学したら『推し』ができました。

音雪香林

第1話 わっ、美少女がいる!

 母親の勧めで女子高に入学した。

 当たり前だけど前も後ろも左右も何処を見ても女子生徒しかいない。

 ある意味気楽っちゃあ気楽だけど、なんかむなしい。


 ため息を吐きそうなのをぐっと堪え、担任に命じられるがまま自己紹介していくクラスメイトたちに視線をやる。

 また一人立ち上がって名乗りを上げた。


橘瑞花たちばなずいかです」


 まるで清流のように冷たく、透き通った声だ。

 私の前の席なので後姿しかうかがえないが、腰まである黒髪は艶やかな直毛。


 背筋もピンと伸びていて、きっと育ちがいいのだろうと知れた。

 彼女が座り、次は私の番になる。

 立ち上がり。


知念雪ちねんゆきです」


 名乗った瞬間、前の席の瑞花さんが振り返って私を見上げた。

 切れ長の目がふっと優し気にたわんで、淡紅色の唇がほころぶ。


 うわっ、と思った。

 美少女だ。


 テレビで安売りされている美少女ではなく「深窓のご令嬢」という言葉が似合う貴さだ。


 私は魂を殴られるような衝撃にあい、片言のように趣味を述べたあと脱力するように座った。


 その後全員の自己紹介が終了したところで、入学して最初の授業が終わった。

 休み時間は当然お友達作りが始まる。


 ここで失敗はできない。

 誰に声をかけようかと視線をさまよわせていると。


「はじめまして。あなた、雪さんって言うのね。わたしと同じ名前だなんて縁がありそうじゃない?」


 前の席の瑞花さんが話しかけてきた。

 びっくりした。


 貴族と庶民くらい住む世界が違いそうなのに、なんで声をかけてくれたのだろう。

 それに。


「同じ名前? 私は『雪』だけど?」

「わたしの『瑞花』も『雪』っていう意味なのよ」


 私は「そんなん聞いたことないけどな~」と首を傾げる。


「『瑞』はめでたいって意味で『花』もめでたいとか美しいっていう意味。それで『雪』は雪解け水が畑を潤すことから、豊作や良いことの前触れってされているの。そして雪の結晶は花に似ているでしょう? 『六花』とかそういう意味よね。だからあなたの『雪』も私の『瑞花』も同じ『雪』って意味なのよ」


 私の表情で完璧には理解できていないことが分かったのだろう「説明が下手でごめんね」と謝ってくれた。


 瑞花さんは悪くない。

 私の脳みそがお粗末なだけだ。

 だけど、わかったことがちょっとだけある。


「私さ、自分の名前あんまり好きじゃなかったんだ。雪なんて、空中からふわふわ落ちてくるときは綺麗だけど、地面に落ちたら踏まれて土と混ざってぐちゃぐちゃになって汚いじゃん? でも、豊作とかよいことの前触れって意味もあるんだったら好きになれそう」


 私が「ありがとう」と微笑むと。


「そう言ってくれて嬉しいわ。わたしのことは『瑞花』って呼んでちょうだい」

「なら、私も『雪』でいいよ」


 私たちは自然と握手を交わしていた。

 瑞花さんの手めっちゃスベスベ、指も細くて長いし。


 友達って言うか……『推し』になりそう。

 『推し』の隣に立って恥ずかしくないよう、私もこれからは美容とか勉強とか頑張ろう。

 そんなことを思う新年度だった。




おわり


富士見ノベル大賞にも以下の作品で応募しています。

『「完結予約済み」両想いなはずなのに何ですれ違ってるんだ?! あらゆる手を尽くすがどんどんこじれていって……?』

https://kakuyomu.jp/works/16818093090591142478


異世界ファンタジーですが、転生なし、魔法なし、チートなし、の物語です。


見た目はクマのような強面の執事さんが、お仕えするお姫様の恋を叶えるために相棒であるアイラと共に奔走します。


毎日15:33更新、全65話、2月21日に完結します。

できればよろしくお願いいたします。




おわり

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