雪の朝

春渡夏歩(はるとなほ)

雪だるま、作ろう

「ああ、雪が降っている気配がする……」

 ベッドの中で、まどろみながら、そう思った


 雪が降ると、どうして静かなのだろう


 しんしんと、しんしんと

 雪は降り続く


 悲しみも何もかも、おおいつくしていく、真っ白な世界


 あの日も朝、起きたら雪が積もっていた


 大喜びで外に飛び出し、小さな庭で雪だるまを作りはじめる君


「ねぇ、雪合戦しようよ!」


 寒いのが苦手な僕は、首を振って、暖かい部屋の中から、そんな君をただ眺めていた


 その日、家に帰ったら、冷蔵庫の中が小さな雪だるまでいっぱいになっていて、僕のビールまで居場所を追い出されていたっけ


 君か、子供か、どちらかの生命を選ぶことなんて、僕にできるわけがなかった

 

 迷うことなく、きっぱり「どちらも!」と、決してあきらめかった君


 君が愛していた仔犬は、大きく育って、すっかり愛娘あの子騎士ナイトきどりだよ


 愛娘あの子が起きてきたら、ホットミルクを飲んで、それから一緒に雪だるまを作ろう


 雪だるま、作ろう

 雪だるま、作ろう


 歌いながら


 雪だるま、作ろう


 思い出が消えてしまわないように


 雪だるま、作ろう


 思い出をうずめつくすまで


 今日は、ホワイトクリスマス

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪の朝 春渡夏歩(はるとなほ) @harutonaho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画