第10話 己
「警告、支配領域内に再度支配領域生成を問題視。何処にもダンジョンに関して記述なし」
ツトゥルが冷静に指摘する。
それは小さなミス。されど見逃せば遅効性の毒のようにジワジワと首を絞める真綿となる。
それは隠された悪意。意図的に説明を省き、誤解するように誘導され、選定基準となる。
それはいずれ暴かれる秘密。しかし、想定より遥かに早い露呈。
「……確かに。何で今まで支配領域をダンジョンだと勘違いしていたんだろ?
誘導?何のために?」
犯人は分かっている。
あの性格の悪い神様的存在だろう。
どうせ、この事を隠していたのも気づかずに行動する様を嘲笑うためだろう。
うん、そうに決まってる。
ケイはそう結論付けた。
それが合っているのか、答えを知っているものはこの場にいない。
「それで問題はここに生成した覚えのない支配領域があるって事だよね。
何でだろ?バグ?」
「………不明。主人様、別の場所での試験を推奨」
「そうだね。そうしよう。
ふふ……けど、そうか。そうなるのか」
「主人様?」
ツトゥルは主人が一瞬見せた
その顔は何か悪戯を思いついた幼な子のようだった。
しかし、どこか仄暗い感情も含んでいた。
そしてそれは何処か既視感に似たようなものがある。
己がみた光景が、既視感が正しいのだとしたら、主人は…………。
「何でもないよ。とりあえず、この山を降りようか。
それなら支配領域外に出るでしょ」
「了承」
ケイはクルリと振り返り、山を降り始める。
しかしツトゥルにはその光景が不思議だったのか、主人へ声をかける。
「主人様。何故転移使わない?転移、一瞬」
「え、僕転移出来るの?」
「何故
「おっと?これは心を抉りに来てる?
当然出来るよね?みたいな雰囲気出されても無理なんだけど?」
ツトゥルの純粋な疑問にケイのメンタルへダメージが入る。
しかし、ツトゥルには本当に疑問なのだ。
裏空間へダンジョンを展開するという高等技術を涼しい顔をしてやっていたのだ。
逆に何故転移が出来ないと言うのか。
しかしケイからするとダンジョン生成はSkillによるものだ。
いくらそれが高等技術だとしてもケイは知る由もない。
ちなみに裏空間にダンジョンを作るのが、どれほど難しいかというと。
永久機関を今すぐ作れと命令されるくらいだ。
そもそも原理的にほぼ不可能なのである。
「ちなみにやり方とか知ってたり?」
「当然」
「そっかー当然かぁ。じゃあ教えてもらえる?」
「了承」
以下はツトゥルの転移説明抜粋。
まず転移とはある場所からある場所へ一瞬で移動する方法の事を指す。
地球での有名どころだとワープホールだったり超光速航法があげられる。
そのどれもが光速という壁を越えることで転移が可能と言っているのだ。
したがって転移とはまず光速を超えることが第一目標となる。
しかし主人様の世界では光速を超える方法、または素粒子は発見されていない。
タキオン、重力子など仮想の素粒子は提唱されていても発見には至っていない。
ではワープホール、超光速航法は何故有名になりえたのか。
まずワープホールだが、これは似たような自然現象があるから。
それがブラックホール、ホワイトホールとされている。
つまりワープホールを端折りに端折り簡単に説明すると2つのブラックホール同士、またはブラックホールとホワイトホールを結んだトンネルだ。
この理論の発端はアインシュタインとネイサン・ローゼンが1936年に共同発表した論文になる。
当時はアインシュタインーローゼン橋と呼ばれた。
その後アインシュタインーローゼン橋に触発されたジョン・ホイーラーとチャールズ・マイスナーが1957年に発表した共同論文で、その概念を確立させた。
ワームホールを一言で表すなら時空構造の位相幾何学として考えうる構造の一つだ。
主人様の世界のもので表現するなら砂時計が近い。
しかしこの方法はエネルギーの観点や放射線、何より人間という種族が耐えられないという点で実現不可能だ。
では超光速航法ではどうか?
超光速航法が注目されたのはアインシュタインが提唱した相対性理論の光は常に一定の速度であり、これを超えることはできないという部分を見事にクリア出来ているからだ。
ではどのような方法を取ったのか。簡単に言うと、空間が膨張する速度は必ず光より速いので転移する物体の前方の空間を収縮、後方の空間を膨張させることで転移が成功する。
しかしこの理論は負の質量というエキゾチック物質が必要になるので不可能だ。
では転移は不可能なのかという話になるが、当然可能だ。
理論的には超光速航法が近い。
この理論の否定材料は負の質量という矛盾した存在にある。
しかし、これは裏空間を使うことでクリア出来る。
したがって…………………
※ツトゥルのお里が知れるのでケイの言語に翻訳しています。
「ごめん。要するに?」
「要約。転移先の座標、空間を十全に扱い可能な力の二つがあれば転移可能」
「んー空間を十全に扱うのはSkillで可能として……座標かぁ」
「補足。詳細な座標が必要」
「んー無理!人類には無理だよそれ」
ツトゥルは長々と説明したが、そういうことだ。
そもそも人類に向いていない。
座標はどこを原点にするかで変わってくる。
仮に座標を認識出来たとしても人間の脳では覚えておけない。
ケイの種族は人類ではなく魔王だが、自身の認識では人間のままなので関係ない。
「ごめんだけど、歩くのに付き合ってくれる?」
「了承」
「ありがとね」
こうして二人は山を降り始めた。
人の手が入っていないのでとても歩き難く、ケイは何度も転けていた。
ちなみにツトゥルも転けていた。ケイとはいい勝負をする。
「や、やっと降りれた………まさか初めて命の危機を感じるのが崖から落ちかけた時とは……」
「我、疲労困憊……」
多大な時間をかけて山を降りてきた二人。
二人はどうやら運動音痴、所謂運痴に分類されるらしい。
人の手が入っていないというのもあるが、中々に危険な道中であった。
まず二人に降りかかった困難は水辺に夥しいほどいる羽虫の軍隊。
人がたくさんいる場所であの数なのだから、大自然の中での数は押して知るべしだろう。
ツトゥルは口がそもそもないので無事だったが、ケイは口に羽虫が入らないように必死だった。
が、結果として鼻呼吸になってしまい、鼻の中に入ってしまった。
今での鼻の中に違和感がある。ちゃんと取り除いたはずなのに。
次なる困難は猪との邂逅だ。
猪。猪突猛進という四字熟語のせいで軽く扱われがちだが、その突進は非常に危険だ。
縄張りに入ったのか、猪はケイへと一直線に突進してきた。
幸い、ツトゥルが対処してくれたので事なきを得た。
次なる困難は命の危険を感じた崖。
道が細く、体を横にして岩肌の方に体重をかけて進んでいたケイ。
突然ケイの足元が崩れ、ケイはそのまま崖下へと落下した。
一瞬の出来事、ツトゥルも運動音痴だったため3テンポほど遅れたツトゥルの助けの手は届かず。
幸い、崖に横に生えていた松の木に引っかかったため無事だった。
他にも色々とイベントはあったが、長くなるので割愛させていただこう。
「さてさて。ここは何処だろうねぇ。できれば土地勘がある場所が良かったけど」
「主人様。この道、降る。街ある」
「お、マジ?ありがとツトゥル」
ケイはツトゥルのガイドに従い、道を降る。
道のりは長く、山を迂回しているせいもあって終わりが見えない。
「着いたー!いやぁ文明って素晴らしい!!
道が平らなのはすごい事だ!」
「同意」
たっぷり2時間ほど時間をかけて道を歩いたケイたち。
着いた街は山が近いため坂道が多く、高低差が激しい。
ずっと先を見ると港のような場所が見える。
川の長さが短い日本ならではの光景だろう。
「いやはや。まさか知ってる場所だとは。
ここならスマホとかも早くゲット出来るね」
さらに、その場所はケイの見知った場所。
というか大学進学をきっかけに実家から出てきた場所だ。
ちなみにケイは大学直営の寮に住んでいる。
早速ケイは寮へと足を向ける。
走りはしないが、出来る限りの早歩きで。
理由はツトゥルだ。身長こそ成人男性の平均だが、いやだからこそ緑の外套を纏っているのは非常に怪しい。事なかれ主義が多い日本だから声は掛けられていないが、警察が飛んで来るのは時間の問題だろう。
そんな早足でやってきた寮。
ケイは素早く部屋のドアの前に行き鍵を………鍵を持っていない。
「やばい」
「如何した主人様?」
「鍵がない。この部屋、僕が借りてるのに」
「?簡単。転移」
「いや、だから僕は転移出来ないって」
「……代案。主人様、裏空間へ移動可能?」
「え、それは出来るけど………」
「裏空間と表空間はある種共通部分がある。この規模なら裏空間と表空間はほぼ合同」
「……つまり?」
「裏空間へ移動。裏空間で少し前進。表空間へ帰還。
結果、部屋の中」
「なるほど」
理屈は分からないが、裏空間で移動した分だけ表空間でも移動するという事らしい。
どんなセキュリティでも太刀打ち出来ない最強の侵入方法である。
これを越すには、それこそ転移くらいしかないので現状最強の侵入方法だ。
「[空間の主]」
ケイはSkillを発動し、裏空間へと移動する。
少し歩いて表空間へと戻る。
そこは本当にドアの向こう側だった。
玄関があり、短い廊下がある。
その廊下はトイレの扉だったり、水周りの部屋の扉がある。
廊下を進むとリビングでキッチンがある。
寝室はリビングで、実家から持ってきたソファで寝ている。
ケイが表空間にでた場所はリビング。
そしてケイは見つけた。
「は?」
ソファで横たわっている自分を。
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昨日は投稿出来ず、すみません。
頑張って今日は2話投稿します
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