第6話 Skill

『お、君たち終わった?お疲れ〜。

じゃあ次の段階、ダンジョン設置場所を決めてもらうから』


Classを選択し終わった4人。

その4人の脳裏に明るい声が響く。

仮称、神様的存在だ。


『今から君たちを日本のどこかに送るよ。

んでダンジョンの設置場所を決めてね。決まったらSkillの支配領域生成を使うこと。

そしたら、そこにダンジョンが設置されるから』


驚くほど簡単な操作。

すでにここが夢の中ではないと理解しているが、夢みたいだなと思ってしまうケイ。

さて、どんな場所にダンジョンを作るべきかと悩む4人。


そんな4人を面白がるように神様的存在は告げた。


『ちなみに〜ここからは個人行動だからね〜。

じゃ頑張って!!』


「は?」と声を発した時にはもう、ケイはどこかの山の中にいた。

辺りに灯りはなく、獣道さえ見当たらない完全な自然の中に放り出されたようだ。

動物たちは急に現れた異物に驚き、一斉にその場を離れていった。


「ちくしょう!アイツやりやがった!!」


そんなケイの文句が暗闇の中に消える。

しかし、あの白い空間の時とは違って神様的存在は反応しなかった。

ケイは思いっきり4人で相談してダンジョン設置場所を決めるつもりだった。


同盟を結んだのだから、それは当然の思考と言えるだろう。

なんならケイは同盟を理由に4人でダンジョンを共同運営していこうと考えていたほどだ。


「くそっ!………いや、落ち着け。落ち着くんだ。

焦りと怒りはロクなものを生まない。冷静に、そう冷静に」


自身に言い聞かせるように呟くケイ。

目を閉じて瞑想。

脳裏に思い浮かべるのは6面サイコロだ。


1d6と言ったほうが分かりやすい人もいるかもしれない。

これはケイのメンタルリセット法の一つで、出た目によってメンタルが変化するのだ。

運が良ければ気分上々。心なしか世界が輝いて見えるほどメンタルは好調する。


まぁ運が悪ければむしろ悪化するので滅多に使われることはない。

ちなみにケイはTRPGはやっていない。

何故かキャラの名前とアルファベット三文字がいくつか並んでいるシートがあるがやっていない。

やたらINTとAPPの数値が高いがやっていないのだ。


ケイは架空のサイコロを握る。

そして天高くへと放る。

ケイは出来るだけ悪あがきをするタイプなので、放ると共にサイコロへ回転をかける。


その回転は凄まじく、サイコロが地面に着地してもなお回っている。

やがて回転は緩くなっていき、もう止まるというところまで来た。

ケイの予想が正しければ、出る目は1……つまりはクリティカルだ。


ふっ、勝ったな風呂食ってくるというコメントがケイの脳裏に浮かぶ。

おや?そのコメントの向こうに何か見えるぞ?

あれは確か、乱数の女神と呼ばれていたような………。


ばっとコメントを振り切りサイコロへと目を向ける。

そこには約束された赤いオンリーワンではなく、黒い点が6つ並んでいる面があった。

6………ファンブルである。


「ノォぉおおお!!!」


真夜中の山の夜に絶望の叫びが響いた。




ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー


「はぁああああ………やってられないわ〜」


それなりの時間が経ち、絶望の慟哭が止んだ。

そこには、やたらいい笑顔を浮かべながら寝そべるケイがいた。

が、ケイの心情は絶望から立ち上がったというより、やさぐれたと言ったほうがいいかもしれない。

錯覚かもしれないが、口の辺りからエクトプラズムが出ているように見える。


「………やめだ。クヨクヨするの終わり。

時間は買えないんだ。無駄に消費するのはいけない」


思考を切り替え、ケイは考える。

対象はダンジョンのこと。


「ダンジョンの場所ねぇ。海底の奥深くとか火山の中でもオッケーって言ってたから

本当に自由なんだろうなぁ」


ダンジョンの展開は本当に自由だ。

に抵触しない限り制限はない。

しかし、だからと言って本当に海底や火山の中に作るわけにはいかない。


ダンジョンとは人類を迎え撃つ場所。

ダンジョンに人類が入らないと、そもそもの存在意義が満たせない。

よってDPが稼げなくなるのだ。


もしダンジョンマスターの仕事がダンジョンの運営だけなら、それでよかったかもしれない。

しかし、ダンジョンマスターにはもう一つ重要な義務がある。

それがダンジョンマスター同士での戦争、ダンジョン戦争だ。


ダンジョンマスターは年に一回は必ずダンジョン戦争をしなければならない。

最初はダンジョンマスター間にそんなに差は無い。

少なくとも一方的に負けるという事はないだろう。


しかし来年は?再来年はどうだ?

片や全く人類の来ない辺境で引きこもっており、ダンジョンに人類が来ないためDP収入なし。

DPがないので罠はない、もしくは初めから持っているちょっとのDPで設置できるものだけ。

魔物は初回無料10連分のみ。もしくは初回のDPを注ぎ込んだ分を足した程度。

さらに実践経験は前回のダンジョン戦争のみ。


片や適度に人類が入ってくる場所でダンジョンを運営しておりDPは潤沢にある。

罠は豊富だし、魔物もDP量に応じた数いる。もしかしたら強力な魔物をガチャで引いたかもしれない。

実践経験は人類を相手にしているので豊富だ。ある程度、人がされて嫌な戦術も知っているだろう。


Raceが魔王になったとはいえ、元は人間。

それも争いとは無縁だっただろうタイプがほとんど。

はっきり言って勝ち目など万が一にも、いや億が一にも無いと断言できる。


そんな過酷な環境が予想されるダンジョンマスターの理想は『人類がダンジョンにバンバン侵入し、けれど決して攻略されない』になる。


「けど、そんな上手い話はないよねぇ。っていうか実現可能なのかな?」


ケイの脳裏に幾つか方法は浮かぶが、それら全ては人類がSKillなどの超常の力を持たない前提の話。

そもそも神様的存在が勝負は公平でなければいけないと言った時点であり得ない事なのだ。


「ま、そんなダンジョンマスター理想のニート生活は置いといて。

色々試してみようか」


空間の主を試すことにしたケイ。

支配領域生成はダンジョンを生成させるらしいので後回し。

魔物ガチャ、アイテムガチャも予想が付くので後回しにしたのだ。


「[空間の主]………あー、こんな感じかぁ」


周囲に変化はない。ケイの外見にも何の変化もない。

が、ケイの視界は大幅に変化していた。

目に映る空間全てに縦横高さの線が走っており、その線を弄れるようだ。


試しに線を動かしてみる。

高さの線を上へと動かし、横の線を右へと動かす。

が、それだけだ。何の変化もない。


「………え、これだけ?嘘でしょ?

転移とかできないの?空間斬は?絶対無敵障壁は!?」


どうやら出来ないらしい。

チートの代名詞である空間能力はケイには無理だったようだ。

本格的に不貞腐れてきたケイ。しかし、その目はまだ死んでいなかった!


「いや、多分僕の使い方が悪いんだろう。

うん。きっとそうだ。空間系統の能力はチートだって決まってるんだ……!!」


ブツブツと誰かに言い訳しながら[空間の主]を発動させるケイ。

視界が変わり、立体格子が現れる。

弄れるのは縦横高さの線のみ。


「(いや本当にそうなのかな?空間系統の能力の出来る事はいっぱいあるけど………)」


思いつくのは絶対切断や転移、絶対防御………そして異空間生成。

ケイは考える。このSkillで何が出来るのか。

今出来るのは線の位置や長さを変える事。


別のものに例えるとするなら土魔法だ。

今ケイが出来るのは地面を隆起、沈降させ、それを細く、もしくは太くさせる事のみ。

これならイメージしやすい。他にできる事は沢山あるだろう。そう例えば………


「操作対象の複数化」


ケイは集中する。

出来そうな事は分かった。

では、それを実現するための手段は?


ケイは注視する。

その対象は縦横高さの線だ。

操作対象の複数化……つまり、この線を増やす?


ケイは思考する。

この線を増やす方法は?コピー&ペースト?

いやいや、そんな便利ツールはないだろう。


「………[空間の主]?

そうか!そういうことか!最初から答えは書いてあるじゃん!!」


そう、答えは目の前にあったのだ。

スキル名は[空間の主]。

主。つまり主人、つまるところ上位者、すなわち支配者!


自分が合わせる必要はない。

こちらは支配者だ。むしろ向こうが合わせなければいけない。

例えば、こんな風に。


ケイは指を伸ばす。

線に、ではなく線のない面の場所に。

そして、その指をゆっくりと下へと動かす。


すると格子の面に新たな線が生まれる。

手応えを感じ、ケイは目線を線から現実の空間へと変える。

そこには虚空に浮かぶ、パックリと割れた空間の切れ目があった。


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実際に空間系の能力を手に入れたら座標計算とかで頭爆発しそうですよね

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救済計画〜ども、人類の敵役のダンジョンマスターです〜(仮) 祓戸大神 @haraedoookami

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