第18話

「誰に伝えたと?」

「ルシアン様です。えっと……とても位の高い方で……いらっしゃいますよね?」


 男性は眉根を寄せてレーナを見据え、距離を詰めて真正面に立った。


「ルシアンは、私だが?」


 レーナは自分の耳を疑った。

 しかし目の前の男性がこんな状況で冗談を言うとは思えない。


「私がお会いしたのは……背が高くてサラサラのブロンドの髪の……」


 訝しい顔をしていたルシアンだったが、レーナが口にした特徴を聞いて動きが固まった。

 堂々と王太子の最側近であるルシアンの名をかたる、ルックスのいい人物はこの王宮にひとりしかいない。


「彼女を放せ」


 考え込むルシアンの背後から男性が駆け寄ってきて、ふたりのあいだに割って入った。

 レーナの両脇に立っていた男性たちは、波が引くようにさっと後ろに下がっていく。


「あ、ルシアン様!」

「だから私がルシアンで、このお方は王太子殿下であるオスカー様だ」


 イライラとしながら訂正をした男性が本物のルシアンで、五日前に出会った美しい容姿の男性は王太子のオスカーだったと、レーナはこのときあらためて理解した。

 知らなかったとはいえ、王太子を相手に無礼な発言をしていたのではないかと不安になり、あわてて両手を前に組んで頭を下げる。


「彼女は犯人じゃない。逆だ。毒のことを教えてくれた」

「お言葉を返すようですが、それならなおさら調査せねばなりません。なにか知っていた証拠です」

「彼女は“予知夢”を見ただけだ」


 オスカーの言葉を聞き、ルシアンは不思議そうな顔をして首をひねった。

 実際に口には出さないものの、まさか夢の話を信じたのかと言わんばかりの表情だ。

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