第17話

「レーナ・アラルースアはいるか?」


 やってきたのはウエストコート姿の高貴な男性で、彼の後ろには従者の役人たちが控えていた。


「私……です」


 名前を呼ばれたレーナは驚きながら即座に立ち上がった。

 なぜ自分を捜しにきたのかと、不安な気持ちが押し寄せる。


「調理補助の仕事を手伝っていたな?」

「はい」

「取り調べるから一緒に来い」


 彼が後ろにいる役人たちに手で合図を送ると、大柄な男性がふたりレーナのもとに来て両側から腕をつかんだ。


「乱暴はお辞めください」


 レーナの同僚がひとり、か細い声で懇願するように言う。

 レーナ自身はなにが起こっているかわからず、ただされるがままだ。


「お前たちも今日の宴でなにがあったのか聞いているだろう。この者には毒殺未遂容疑がかかっているんだ」


 レーナはそこでやっと自分が犯人だと疑われているとわかり、大きくかぶりを振った。


「ち、違います! 私は給仕には関わっていませんし、なにもしていません」

「お前が調理場へ出入りするようになってから事件が起こったんだ。怪しまれても仕方ないだろう」


 男性がそのまま背を向けて建物の外へ出て行き、レーナも男たちに腕をつかまれたまま連れ出された。


「待ってください。五日前、毒でお倒れになる夢を見たとルシアン様ご本人にお伝えしました。私が犯人ならそんなことはしません」


 前を歩く男性の背中に向かってレーナは必死で訴えかけた。

 あのとき、誰にも話すなと言われていたが、宴が終わった今なら問題ないと思ったのだ。


「なに?」


 早足で歩いていた男性がピタリと止まり、怖い顔をして振り返った。

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