短歌集『百葉箱』

みやこ

猟奇にして幻想系



約束の聖剣を抜く少年王

兄貫いた手は血に濡れて



百合の頸手折り微笑む吸血鬼

三十六万五千一夜目



人狼の擬人見破る狩人の

銀弾が撃つ恋人の胸



嵐とは狂神の駆るチャリオッツ

王の子を焼く雷霆の閃



弟が消えた神社の境内に

いつからか棲む人喰い天使



人形が動き出す夜来たりけりけりけりりりり…………正体を知る



焼ける森切り倒された千年樹

以来無頭児出生止まず



角翼爪毛皮牙尾に鱗

心も獣とて角からめ



王様は実は偽物なんだって

憲兵たちが扉を叩く



石榴切るナイフに春は夢を見る

毎夜沈む日 昇る月 不死



坂道を振り返らない青年が

連れてきたのは見知らぬなにか



群れている烏が空に群れている

糞の長雨廃城にふる



唐突に空を支える巨人の死

世界樹の幹ボギリと折れる



夕焼けを遮る人でない巨影

扉鍵掛け身をひそめけり



うらさびてあれたるまちに竜がきて

なにもないなとわらって死んだ



「幸せになれよ」英雄病患者の戯言が不幸にした人



聖域へ捧げられたる生贄が

神喰い殺す月蝕の夜



石化風吹いた青空

音を立て堕天使像が屋根砕く秋



尖塔に煙立ち城を逃れ出る

秘密通路を行き過ぎた日々



「さて次は何処へ行こう」とハイエルフ

熱的死せる宇宙の隅で


────────────────────

おまけ


『約束の聖剣を抜く少年王

 兄貫いた手は血に濡れて』


 少年王の栄光は既に血塗られている。兄殺しの咎を負いながら聖剣を握ることは、彼の生涯が悲劇を以て閉じることを暗示する。アーサー王伝説的な一首を目指して作歌。栄光と死の同居を表現。



『「さて次は何処へ行こう」とハイエルフ

 熱的死せる宇宙の隅で』


 SFのフリー◯ン? ハイエルフは不死なので、宇宙の終わりすらも乗り越えるのだろう。スペースオペラ✕エルフの壮大さと終末の寂しさ、それでいて前向きな様子を込められたらと思って作歌。



 

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