雪の京都を駆け抜けろ

henopon

第1話

 雪の都大路を走ってみたい。

 冬ではなくて?

 一月初旬、女子都道府県対抗駅伝というものがある。選ばれた選手が京都の都大路をタスキを繋いで駆け抜ける。京都の南西にあるスタジアムから金閣まで北上し、今出川へと折れ、烏丸通を下る。ほぼ市街地を駆け抜ける。そして烏丸通の途中を東へ折れ、鴨川を渡り東大路を折り返し地点の国立京都国際会館まて北上し再び戻る。一月の寒い京都を駆け抜ける大会に出ることに憧れていた。それも雪の中を。

 出場するのは社会人、大学生、高校生、中学生となる社会人と大学生は所属する都道府県で出場するか、もしくはふるさと選手として出身地で出ることができる。高校生も中学生は各都道府県に住んでいるか、学校に通っているかが条件になる。

 礼子は中学生のときに補欠に選ばれたものの走ることはなかった。ただオリンピックに出た社会人の選手や大学対抗駅伝に出ていた選手と一緒にいられるだけでドキドキした。

「テレビで観てたよ」

 と陸上好きの塾のセンセに言われた。言われただけでもうれしかった。あのセンセは男子の都道府県対抗駅伝、社会人、テレビで観られるものは観ているらしい。大阪国際女子マラソンは淀屋橋で観ていると聞いた。

「うち走ってなかったし」

「テロップに名前出てた」

「初めの方のね。上に二人おるからなあ。一人は抜かれへんけど、もう一人は同じくらいやから追い抜きたかったんですけど」

「知り合いか?」

「みんな知り合い。合宿とかで会うから高校生までは知り合いです。大学生と社会人はわからないですけど」

「県も広いからな」

「センセ、陸上やってたんですか?」

「やってないよ」

 センセはホワイトボードのお世辞にも上手ではない文字を消しながら答えた。塾では大学受験を担当していて疲れている様子だが、礼子は教えてもらうわけではなく、母が迎えに来てくれるまでの時間潰しに話すことが多い。

「二時間テレビの前で観てるんですか?」

「そうや。おもしろいやん。でもオリンピックと世界陸上と箱根駅伝は観んけどな」

「有名なの観てないですやん」

「有名どころは興味ない。ほっといても順位決まるやん。エリートにはエリートの悩みもあるんやろうけどな。ビシッと大会に合わせてきてるの観てもなあ。職業病やな。まだこれから伸びるかもしれんし、伸びんかもしれんというのを観るのが好きなんやろうな」

「観ててわかるんですか?」

「わからんな」

「何ですか、それ。いちばん好きな大会とかありますか」

「都道府県対抗駅伝やな。あれは主催する側が大変やろうな。でもおもしろいな」

「確かに実力差ありすぎるとつまらないですもんね。ふるさと選手にも差あるし」

「そやねんな。でもあのシステムはええと思うわ。応援しよう思える」

「とこか応援とかしてるんですか」

「特には」

「観てるだけなんですね」

「まあな。思うんやけどな」机に腰を掛けたセンセは受験対策で疲れている様子だ。「あれは何で男女わけるんやろうな。距離伸ばして男女一緒にしたらええんやないか。憧れのセンパイにタスキをみたいな。好きな男の子と」

「憧れますけどね。好きとかはない。はよ走れって気持ちとごめんて気持ちがある」

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