第11話 社畜! コミュ力のみでブラック企業へ挑む?

 俺ははっきりと意識が戻ると同時に体がまるで操られている様に勝手に動き出した。


 そして、俺は小林の前に膝をつくと


「マスター! 申し訳ありません! せっかく大切なお時間を頂いて、私に特別なご教授の中お見苦しい姿をお見せするとは……!」


 と、俺は顔を下に向けながら悲しくも何とも思ってないのに嗚咽を漏らしながら、涙を流した……


……何じゃこりゃ?


 何でこの鬼教官に向かって頭を下げて涙を流さなければならないんだ?


『いいね! いいね! これで好感度爆上がりだね』


 と、さっきまで俺の前にいた自称神さまの声が聞こえてきたので、驚いて辺りを探っていると


『僕はそこにはいないよ〜。今、異空間から君の頭の中に直接声をかけているんだ!

 君はこれから相手にとって一番好感度が上がる態度を自然に行なえる様にしたんだ。僕ってすごいでしょ?』


 俺は内心毒つきながら頭の中から、自称神さまへ


『すごいでしょ? じゃないだろ! カリスマの力くれてやる! じゃなくて単に人たらしの呪いを俺にかけただけじゃないか! 何で勝手に体が動いてしゃべるんだよ!』


 と、目一杯の抗議を送ったが、自称神さまは


『だって、それがカリスマなんだよ! 後この力の束縛から解かれたかったら、すぐにでもブラック企業を潰すことだね! それが解放の条件! 時々様子を見にくるから宜しくね! それじゃあ、頑張ってねぇぇぇ〜』


 自称神さまは言いたい放題やって声はフェードアウトしていった。


……畜生……! 単なる操り人形じゃないか! ふざけるな!


 と、内心怒りに満ちても、体は勝手に涙を流しながら震えてる。


「一……! お前はそこまで俺を敬ってくれるのか……!」


 と、小林はそんな俺を見つめて感極まったのか、震える声で


「一! 私は決意した! その態度! その涙! それには邪な影がない純粋なものだと私にはわかる! なら、その想いに応えよう! 一! 顔を上げなさい! そこまでして冒険者になる本当の理由を私に教えてくれ!」


 俺は全然悲しくも何ともないのに、口が勝手に動いて途切れ途切れに


「マスター……! 私は変えたいのです! この日本の社会を! そして駆逐したいのです! 私たちの日本を蝕むブラック企業を!」


 そんな自称神さまの呪いに抗えず、思ってもないことをぬけぬけと言うと


「一! そこまでこの社会を……日本を思ってくれていたのか!」


 小林は手を俺に向かって差し出して立たせると


「マスターとして、一が言うブラック企業根絶に手助けしよう! それで何か計画とかあるのか?」


 実際の所、頭の中はノープランなのだが、体と口はゆっくりと動き自信に満ちた声で


「もちろんです! この冒険者として活躍して多くの仲間を探して、そしてランクを上げて政界と財界にパイプを作るのです! そして、その影響力と力でまずはじめにブラック企業の社畜を我々の陣営に引き入れるのです! 後は社畜のいないブラック企業など張子の虎! 自然と瓦解するでしょう!」


 小林は俺の手を握ると熱い視線を送りながら


「紅蓮の四天王の一人 白虎 !今この時この場所で一! お前の力になることを約束しよう! そして、この日本を巣くう悪! ブラック企業駆逐に力を貸そう!」


 俺の本心とは別に体は勝手に、ダラダラと涙を流しながら、小林の手を強く握り返して


「マスター! 感謝致します! これで一歩、世の中のブラック企業いや、虐げられている社畜を救えます! 本当に感謝致します!」


 このシーンは映画やドラマならかなり感動的な場面かもしれないが、俺の本心は確かにブラック企業に恨みがある。


 しかし、日本のブラック企業根絶とか、そんな途方もないことを口走るなどまずあり得ない。


……クソゥ……あのエセ神めぇ……


 そして、これ以上ないくらい小林の好感度を上げた後、俺の体はお馴染みに勝手に動いて、イノウエやナメカワに向かった。


 そして、ぷにぷにしたイノウエに対して


「ヘイ! イノウエ! 宜しくな!」


 かなりフランクに口走ると、同じノリでイノウエも


「イェイ! マスター! 上げてこうぜ!」


 と互いにハイタッチする始末だった……


 ……はっきり言おう! 俺は普段こんなパリピみたいなセリフ絶対口にしない! クソゥ……呪いとはいえ、何だか自分を否定された気がする……


 そして、俺の体は俺の意思とは全く関係なくナメカワの隣りに立つと


「なぁ……ナメカワ……俺からも頼む……この腐った世界を終わらせて静かに暮らしたいんだ……それにはお前の力が必要なんだ……頼む……」


 と、イノウエのテンションとは真逆で、トーンが低くボソボソとナメカワに語りかけると、ナメカワは


「ああ……終わらせるのを待ってはダメだよな……俺で良ければ終わらせてやるよ……こんなゴミみたいな世界……」


 スケルトンなので表情など読めないが口調から、どこかしら仲間意識が感じられた。


 ……何だろ? この呪いって器用に八方美人やるスキルなのか?


 とりあえず、小林は使命感に燃え


 イノウエは、何も考えない脳内カーニバルで


 ナメカワは、この世界の終末を願う


 と言う、三者三様の心でこれから、ブラック企業根絶へと向かうのだった!


 ……おいおい! こんなんので成功するのかよ⁈


 と思ったが、もう周りが後戻りを許さないことをその時の俺は知らなかった!

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