(エ) 障がい者の雇用について

【美香】 では、続いてお訊(き)きしますが、精神障がい者が仕事をするにあたって、ぶち当たる壁のようなものはありますか?


【音生】 今は昔と違って、「オープン就労」・「障がい者雇⽤」が⼀般的になってきていますので、障がい者の雇⽤機会⾃体は増えていると思います。ところが、その仕事内容はと⾔えば、ほとんどが「単純作業」しかさせてもらえないのが現状です。

 障がい者といえども、仕事能⼒的には衰(おとろ)えはない⼈も多いですので、そういう⼈たちにとっては、この現状は「隠れた障がい者差別」になってしまっているわけですね。

【美香】 「隠れた障がい者差別」ですか! 確かに、能⼒のある⼈からすれば、そういうことになりますよね。

 でも、それは、雇う側の「愛情」でもあるのではないですか?

「障がいを負っているのだから、そんなに頑張らなくてもいいよ」

 という。


【音生】 そう解釈する⼈もいるでしょうね。そして、そういう⼈は、「単純作業」であっても、⼗分に満⾜して、仕事をしているかもしれません。

 ただ、⼀⽅で、「単純作業」では満⾜できずに、普通の⼈と同じように、仕事をしたいと考えている⼈も、少なからずいるわけです。


【美香】 なるほど。それでしたら、求⼈募集をする職種や仕事内容を、「単純作業」に偏(かたよ)らせるのではなく、その⼈の希望や能⼒に応じて、与える仕事を変えていけるような「柔軟性」が欲しいところですね。


【音生】 その通りです。病状や能⼒はさまざまなのですから、障がい者をひとくくりにして、⼀定のカテゴリーの仕事だけを⽤意するような募集のしかたは、問題ですね。


【美香】 なるほど。ほかに問題となることはありますか?


【音生】 はい。「障がい者雇⽤」においては、企業側は、いわゆる「安定している⼈」しか採⽤しようとしないところが多いのです。

 ですので、「双極性障害」を患う僕らに、安定などというものは、ほぼありえませんから、僕らははなから除外されてしまうことがあるんです。

 実際、僕も、かつての就職活動においては、何件もそういう理由で断られてしまいました。


【美香】そうなんですか。「双極性障害」をはじめとして、不安定が当たり前である障がいに対する理解が、企業側にはあまりないのですね。

 就職活動⾃体は、普通の⼈と同様、問題なくできるんですか?


【音生】 それが、普通に公共の職業紹介所等を通す場合は、条件付きであることが多いんですね。「直前に仕事をしていた」か、「特別な訓練を受けていた」かでなければ、相⼿にしてもらえないことが多いんです。

 僕も、退院直後に訪れたときは、「門前払い」され、「職業訓練校」のようなところに⾏けと⾔われました。


【美香】 なるほど。⼀律でそういう対応をするのは、ちょっと問題のような気がしますね。働く能⼒があるかどうかなんて、ブランクのあるなしや、訓練云々(うんぬん)とは、必ずしも関係がありませんもんね。


【音生】 その通りです。「働くのは僕ら」なわけですから、紹介所の段階で、勝⼿に振り分ける必要は全くないと思います。

 企業側が判断して、必要な⼈なら採⽤、そうでないなら不採⽤。本来はそれだけでいいはずです。

 僕は、全くの別ルートで居酒屋に就職したのですが、実際、その際に「訓練の有無」や「直前の職歴」等は、全く問題とはなりませんでしたからね。


【美香】 なるほど。まぁ、紹介所にすれば、変な⼈を下⼿には紹介できないという気持ちから、「守りの姿勢」に⼊ってしまうのかもしれませんね。


【音生】 そうなんでしょうね。でもその姿勢が、障がい者の就職への門⼾(もんこ)を非常に狭めてしまっています。紹介所の⽅々が思っているよりも、その能⼒を埋もれさせている障がい者が、ずっとたくさん眠っているのですよ。そういうものをどんどん発掘していく姿勢でなければ、国の発展のためにもよろし

 くないと思うんですよね。


【美香】 そうですね。雇⽤ということに関しては、もっともっと障がい者に対して開かれたものにしていかなければなりませんね。


【音生】 そうです。ですので、僕はこれからも本を書き続け、啓発活動も活発に続けていきますよ。


【美香】 はい! 今後も、ますますのご活躍を、お祈りしています。



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