復刻版8「こころのダイアローグ2!」~双極性障害と仕事~
林音生(はやしねお)
【1】ラジオ対談編
(ア) そして、再び対談へ
今⽇はクリスマス。私、林美⾹と夫の⾳⽣(ねお)は、ここ、イタリアにある、私の⼤親友の古⽥百海(ももみ)ちゃん夫婦が営むレストラン「ベル・パエーゼ(Bel Paese)」で、クリスマスを祝っている。百海ちゃんと、店主である旦那さんも同席してくれている。
「メリークリスマス!」
私たちは、次々に運ばれてくる料理をいただきながら、⼤いに語り合った。話は、⾳⽣と百海ちゃんの、今まで知らなかった意外な共通点の話になった。
なんでも、全くの偶然だが、⾳⽣と百海ちゃんは、時期は違うものの、同じ居酒屋で働いていたのだと⾔う。そして、その居酒屋とは、⽇本で、百海ちゃんの旦那さんが経営していた居酒屋さんなのである。
ちなみに、夫・⾳⽣が働いていたころは、初代⼤将である、百海ちゃんの旦那さんのお⽗さん・雄⼀さんが経営しておられた。⾳⽣は、
「いやぁ、お⽗様には、本当にお世話になりました。あのときの経験がなければ、今、僕は、作家としては活動できていませんからね。」
「いえ、こちらこそ、あの店から⾳⽣先⽣のような⽅が出てこられて誠に光栄です。親⽗もきっと誇りに思っていることでしょう。」
⾳⽣と百海ちゃ んと旦那さんは、居酒屋勤務時代の話で⼤いに盛り上がった。なんか、私だけ置いてけぼりだわね。
すると、⾳⽣が……。
「ところで、美⾹さんは、どうしてラジオパーソナリティになろうと思ったんですか? まだ、きちんとお聞きしていなかったと思いますが。」
さすがは、「こころの専門家」。私が置いてけぼりになっていることはすぐに察したわね。私は、
「実は、特に夢として掲(かか)げていたのでも、なんでもなかったんですのよ。なんか、成り⾏きで、あれよこれよという間に、パーソナリティの仕事にたどり着いてしまった、という感じなんです。」
「ほう。なんか僕の作家への道とよく似ていますね。でも、美⾹さんに全くの才能がなければ、誰もその道へは、連れて⾏ってはくれなかったでしょ う。」
「そうですね。私は、⼦供のころから話すことが好きでしたので、ナレーションのコンクールに出たり、アルバイトもしたりしていました。それを⻑年⾒ていた友⼈たちが、お膳⽴(ぜんだ)てをしてくれた感じですね。」
すると、百海ちゃんが、
「そうよね。何かに⼀⽣懸命(けんめい)な⼈を⾒ていたら、周りの人が放っておかないわよね。」
私は、
「うん、そうみたいね。だから、友達って⼤事だなって。夫が《やたら》と友達を作りたがるのも、少しだけわかるような気がするわ。」
すると、夫は、
「美⾹さん、《やたら》はないでしょう。」
「あら、本当のことを⾔っただけですけど。」
ははは。
百海ちゃんと旦那さんの笑い声が響く。
そう、私と⾳⽣の関係は、結婚後、逆転して、私が彼を⼿⽟に取っているのである。
もちろん、私は、夫を⼤いに尊敬していることは、結婚後も変わりはない。夫の偉⼤さは⼗分に理解しているし、それを夫に、常々、表現するように⼼がけているつもりだ。でも、私は、つい照れ隠しから、夫にこんな風に接してしまうのだ。
すると、旦那さんが……。
「あの、おふたりのそういう姿を⾒ていたら、ひとつ提案してみたくなりました。どうでしょう、再びおふたりでラジオ対談をされてみては? 関係性が変わったおふたりの対談は、なかなか⾯⽩いと思うのですが。」
⾳⽣は、
「えー! 夫婦でですかぁ。それはちょっと……。」
私は、
「それ、いいですね! 実はちょうど、予定していた回にひとつ、ゲスト側からキャンセルがあって、その代わりの⼈を誰にしようか悩んでいたんですよね。夫が出てくれるならちょうどいいです。」
「えー、でも僕は公共の電波の上で《さらしもん》ですかぁ。」
「あら、別にいじめたりしませんわよ。《普通に》対談するだけですから。」
「その《普通に》が怖いんですよ。」
ははは。
また百海ちゃんと旦那さんの笑い声が響く。「さ
らし者」なら、いますでにそうなのだから、気にしなくてもよさそうなものだが。
「まぁ、わかりました。僕も実は、⽇本での対談ではお話ししきれなかったことが結構ありましてね。機会があれば、公共の場でお話しできればと思っていたんです。
それに、イタリアの⽅に僕のことをよりよく知ってもらうよいきっかけにもなるでしょう。」
百海ちゃんは、
「はーい、じゃあ決まりですね! ⾳⽣先⽣の本番の《醜態(しゅうたい)》を楽しみにしてまーす。」
「えー、百海さんまで何ですか!」
ははは。
3⼈の笑い声が響く。
こうして、私のイタリアでの番組に、夫・⾳⽣に出演してもらうことになった。番組名は、⽇本のそれと同じく「こころのダイアローグ」。リスナーのみなさんには、ちょっとおのろけになってしまうかもしれないけど、きっと⾯⽩い収録になるわ。
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