ヤクザ・ミーツ・エロマンガ家

ツキ

はじまり

0・プロローグ

ありきたりな取り立てになるはずだった。


志水一しみずはじめは貸金業者・ドリームファイナンスの代表だ。この店は東王会系伊坂組がもつ会社がやっている。つまりヤクザの店であり、代表の志水もヤクザである。

従業員は志水と、弟分である八柳蓮やなぎれんの2人。代表電話番号はケータイだけ。看板も出していない。あちこちで首が回らなくなったやつが「ドリームファイナンスで借りて返せ」と紹介されてやってくる。どんなやつにも金を貸すが、高利子。いわゆる闇金だ。



よくある話だ。



ドリームファイナンスから金を借りていた、キャバ嬢の蓮見令佳が飛んだ。返済期日になっても利子すら返せず、ソープにいかせた。が、数日の出勤で姿を消した。


しかし令佳の借用書には、連帯保証人の名があった。


雨宮トキコ。23歳。女。


住所は蓮見と同じ。同居人らしい。


志水と八柳は、雨宮トキコのマンションを尋ねた。「あなた、蓮見令佳の連帯保証人ですよね」というように。

トキコは借用書に覚えはあるようだったが、あまりよく読んでいなかったのか事態が呑み込めていなかった。



これも、よくある話だ。



この女は本当によくわかっていないのかもしれないし、わかっていてしらばっくれているのかもしれない。


こちらとしては、いくらかでも返してもらうだけ。志水はトキコの部屋に押し入った。八柳に玄関ドアを守らせて、逃げ場も封じた。案の定、トキコは抵抗した。

特に、志水が奥の部屋に入ろうとしたときには必死もいいところだった。


「やめてください!この部屋には入らないで…!」

「あぁ?やけに必死だな。もしかして令佳がここにいるのか?」

「ちがいます、そうじゃないんです!お願いだからとにかくやめて!!」


トキコの細い腕を、ぱっと振り払い。

志水はドアノブに手をかけた。



よくある話、だった。


ここまでは。



志水の目に飛び込んできたのは、壁という壁に貼られたエロい絵。


さらに、エロいマンガみたいな絵。

ダッチワイフ。

アダルトグッズ。


エロい絵。とにかくエロい絵。ワァあの絵どうなってんの?え?アレがコレで、こうなってくんずほぐれつ。でかいパソコンの画面みたいなのにもエロい絵があり、隣のもう1つのモニターではAVが流れていた。


とにかく、それはそれはエロいものだらけだった。


「なにこの部屋…」

「きゃーーーーーーーー!!!!!!」


トキコの悲鳴が、志水の耳をつんざいた。


「きゃー!はこっちのセリフだ変態女!」

「だから入らないでって言ったのに!」

「そりゃこんなエロいもん見られたくないだろうなぁ!?」


トキコは志水を押しのけて、部屋に倒れているダッチワイフに駆け寄った。


「エリザベス大丈夫?知らない人に裸見られてはずかしかったね」

「そっちかよ!」


トキコはキッと志水をにらみつけた。


「な…何なんですかあなたさっきから!エリザベスの裸を見ておいて!」

「そりゃこっちのセリフだ。こんなモンに囲まれてるヤツ普通じゃねえだろ。気持ち悪ぃな」

「!! て…撤回してください」

「あ?」


「ここは私の仕事場です!!」



よくある取り立てに、ならなかった。



この女、雨宮トキコの取り立ては。

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