赤い雪

タヌキング

・・・

 一目でこれは夢なのだろうと思った。

 辺り一面の雪景色。そんなものは私の地域では見ることが出来ないし、尚且つ、その雪景色が赤く染まっているのだから、これは夢だと確信できた。

 少し歩くと、異様かつ凄惨な現場を目撃することになった。真っ赤なワンピースを着た少女が、包丁片手に次々に人々を殺して回っているのである。


「あはははははははは♪」


 狂喜的に笑う少女。包丁で刺された人から噴き出た鮮血が辺りの雪を赤く染め上げていく。これで赤い雪景色の謎は解けたが、何ともおぞましい理由だろう。

 私は怖くなって、その場を逃げ出そうとも思ったが、これが夢であることを思い出した。夢ならばと勇気をもって少女の元に歩を進めた。

 少女はそんな私に気付いた様で人を殺すのを中断して、私の方をジーッと見つめている。ギョロっとした目、ボサボサの髪、痩せ細った体、そのどれもが不気味であり、血の滴る包丁を見ると震えが止まらないが、それでも私は歩くのをやめなかった。そしてある程度の距離を取って立ち止まり、その少女にこう問うた。


「なんで人を殺すんですか?何か恨みでもあるんですか?」


 全とか悪とかそんなこと以前に、とにかく少女が人を殺す理由が知りたかったのだが、少女はニタリと笑って私にこう言った。


「待ってて♪アナタは最後に殺してあげるから♪」


 そうして少女はまた人殺しを始めた。楽しそうに、踊る様に。

 理由が知りたかったのだが、殺害予告をされてしまった。逃げるのも億劫になった私はその場に腰を下ろして、少女が人を殺すのを見ていた。人はいつの間にか湧いて来る、そうして現れた順に少女は殺していくのである。


「あーっははははは♪」


 笑顔を見るに、もしかしてこれは彼女にとって楽園なのだろうか?どれだけ殺しても無限に湧き出る人、それを殺していくことが彼女にとって心地良いことなのかもしれない。

 精神衛生上、こんな光景を見続けることはいけないことだと分かっているが、目を逸らすことが出来ない。これが夢だと分かっていても自然と私の目は彼女のことを追っているのである。

 しんしんと雪が降り始めた。この雪が赤く染まった雪景色を再び白くするのが先か、それともやはり血が赤く染め上げるのが先か、それは私にも分かり兼ねた。

 いつになれば私が殺される番になるだろう?また殺されたことで現実の私にどんな影響があるのだろう?考えたところでどうしようもないことを考えてしまう。


「待たせたわね♪」


 ようやく彼女が僕の方を向いて、ゆっくりと近づいて来た。

 いざその時が来ると、やはり怖くて堪らないが、逃げたところで状況が好転するようには思えない。悪夢というものはバッドエンドと相場が決まっている。

 ただ自分の血がこの景色に一部になる。そう考えると少しだけ誇らしい気がしてしまったので、どうやら私は精神的に参ってしまったようである。


「あーはっはははは♪」


 彼女は笑い声と共に、私の胸に包丁を突き刺した。

 ピューッと吹き出した血を見て、私もこんな風に血が出るんだなぁと、薄れいく意識の中で感心していた。

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赤い雪 タヌキング @kibamusi

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