本は燃えてデータは壊れた
@man_sun_
昔はスマホっていう便利で楽しい機械があったんだってさ
「学校、行きたくないなぁ」
「なんで?」
え?幻聴?私イヤすぎてついに幻聴聞こえるようになった?そう思った瞬間、目の前に何か人型の
「うわぁ!!!」
「きらら〜、そんなびっくりしなくてもいーじゃん」
「……その私の名前、古臭くてイヤって言ったよね。なんか別のあだ名考えてよ〜!それに、みかっち、こんな薄暗いトコで、いきなり目の前に人が出てきたらどこか敵軍が侵略してきたかと思っちゃうよ」
そう、今は、第四次世界大戦真っ只中。ほとんどの人々は、第三次世界大戦時代に作られた巨大防空壕に住んでいて、そこがそれぞれ都市になっている。防空壕って言うより、だだっ広い地下の街ってイメージだけど。
「ここは安心安全、日本中の防空壕の中で、一番機密性が高くて、地上の人達も、他の防空壕にいる人たちも知らないよ。んで、なんで学校行きたくないの〜きらりん!」
「それはそうだけどさぁ……怖いよこんな薄暗くてジメジメしたトコ。んで、学校行きたくない理由ね、はいはい。今日臨時講師の日でしょ?つまんない、賢い人の、いかにもみたいな説明聞いてると吐き気する」
みかっちは少し間を置いて、言った。
「山崎先生のこと?」
「……うん」
「えー、私は、山崎先生好きだなぁ。おじさんだけど、結構かっこいいじゃん。300年前は、いけおじ、って言ってたんだって!いけおじ!しかも、IQ162!」
「人のIQ覚えてるの?キモ……」
「400年前くらい?だっけ。アインシュタインっていうとんでもない天才がいたらしいよ。その、アインシュタインがIQ160以上。」
「へー、アインシュタイン、なんか聞いたことある気がするけど、うーん」
「この前テレビでやってたじゃん!日本が産んだ世紀の天才、山崎孝吉!」
「ごめんみかっち、ウチ、ビンボーだし、テレビないんだわ」
「あ、ごめん、ごめんね。そうだったね、あたしが恵まれてるだけ……」
お母さんもお父さんも、私のために、安全で良い教育を受けれるようにって、家の物なんてほとんど売って、安全な地下壕の狭い部屋を借りてるんだ。お父さん、仕事変えるって言ったきり、戻ってきてないけど、なんの仕事をしてるんだろう。
また、太陽の光、浴びたいなぁ。いつ、戦争終わるのかな。
みかっちはいいな。みかっちは、空を知らない。海を知らない。山を知らない。川を知らない……第三次世界大戦の時代から、みかっちの家系は裕福で、地下壕の広くて綺麗な家で、親族が有権者だから、徴兵令も来なくて、何代も、誰も。誰ひとり、空を知らない……あれ、本当に、それで、いいのかな。知らない方が、幸せなのかな。
「……きらりん、怒った?」
「ううん、全然。戦争が終わったら、また、空見たいなって」
「あ、そうだ!きらりんって空見たことあるんだよね!空って何色?宇宙だから、黒?あーでも太陽、太陽が見えるんだよね?太陽はめちゃ眩しいらしいから、うーん、真っ白でなにも見えないとか!?」
「ううん、色んな色になるんだよ。空って。すごく綺麗なんだ。太陽も、そこまで眩しくはないよ」
「あはは、たしかに!光で何も見えないくらいなら地上に残ってる人達はみんな盲目になってるね!」
なんて雑談をしてたら着いちゃった。学校。
この学校は日本で一番の特別養成学校。ここに通う私たちは、殆どが戦争に深く関わる人間になる。
身分証認証、パスコード、指紋認証……生徒と教師、お国の偉い人達しか入れないようになってる。もう慣れたけど、この厳重すぎるセキュリティシステムで何度遅刻したことか。
「おはようございます。本日も良い朝をみなさん生徒全員と迎えられた事に、深く喜びを感じます。一限目は臨時特別講師の山崎先生による、戦争と私たちの生活に深く関わる講義です」
普段と違う。普段はもっと、兵器の仕組みとか、新しい毒薬の開発とか、そんな、血なまぐさくて、難解で、イヤな授業ばかりだったのに。他人を殺すための、殺すためだけの、殺す授業。戦争、戦争ってなんの為だ。産まれた時からずっとそうだったから、わからない。教わったこともない。生活?地下で鼠のようにコソコソ生きてること?空や海を知らないこと?わからない。わからないよ……。
気づいたら一限直前の時間になっていた。
「おはようございます。臨時講師の山崎孝吉です。数ヶ月ぶりですね。少し早いですが、授業を始めます。今日は、戦争と生活について」
山崎先生は、おもむろにポケットから、見たことがないような機械を出した。テレビを小さくしたみたいな、変な機械。
「おそらく、コレを知っている人は現代において、ほとんどいないでしょう。これは、スマートフォン。通称、スマホです。200年ほど前まで、国民のほとんど全員が持っていた、通信機器です。だいたい300年前くらいから普及していました」
通信機器、今では、ほとんどが禁止されている。何気ない会話も機密情報も、電波を通せば、敵国にハッキングされ、国の存続に関わる問題が起こりかねないから。
「昔の人々は、このスマホを使って、友人と電子的な手紙、それをメールやメッセージと呼びます。リアルタイムで離れた場所からコミュニケーションを取って、楽しんでいました。ゲームや電話……電話というのは、遠くから相手の声が聞こえて、会話出来るものです。ゲームも今と違い電子的で、仮想空間を自由に冒険できるものや、戦争のゲームなんかもあったそうです。今では全て実現不可能です」
そんなの、そんなもの、ゲームって、紙やプラスチックで作られているものじゃないの?
「山崎先生、300年も前にそれだけの技術力があったにも関わらず、何故現代では、実現不可能なのでしょうか?そのような技術や機械は、聞いたことがありません」
山崎先生は少し苦笑いをして言った。
「宮本綺良々さん、良い質問ですね。いつもはとても眠そうな目をしているのに。2154年に始まった第三次世界大戦で、悪いことに使う人々がいました。それにより、人々はスマートフォンという娯楽を、インターネットという名の情報網を失いました。作ろうと思えば、ここに居る生徒全員、作れるでしょう。それは違法ですが。政府の命令です。ですが、もしまだ普及していたら、更に進化を続けて、想像もつかないほど楽しい生活が出来たでしょうね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます