第2話 白豚令嬢はもういない

悔し涙を流したシャルロッテは、冷たい夜風に吹かれながら、しばらくバルコニーに佇んでいた。

澄んだ夜空を見上げ、深呼吸を繰り返すと、少しずつ落ち着きが戻ってきた。

ーーこのまま広間に戻って、白豚と蔑まれるみじめな夜を過ごすのはごめんだ。


シャルロッテは、バルコニーを出て、王宮の中を歩き始めた。


人気のない方を探しては当てもなく進んでいく。

誰もいない廊下を歩いていると、シャルロッテは古びた扉を見つけた。

扉は、異様な威圧感を孕んでいる。


「王宮にこんな部屋……あっただろうか?」


扉には鍵がかかっておらず、シャルロッテは軽い気持ちで扉を開けた。


埃が舞い、カビの臭いが鼻をついたが、シャルロッテは好奇心から太い身体を扉の中へと押し込んだ。


そこは、小さな書庫だった。書庫には、色褪せた古い書物や巻物が所狭しと並べられていた。

シャルロッテは書棚に近づき、書物に目を走らせた。


「王族の秘密の図書室だろうか…?」


ーー見たこともない珍しい歴史書、地理書、哲学書…。様々な書物が並んでいる中で、シャルロッテはなぜかある一冊の書物に目を奪われた。


それは、闇色の革表紙の分厚い書物で、表紙には何も書かれていなかった。

シャルロッテは、その書物を手に取り、パラパラとめくってみた。


書物には、奇妙な図形や文字がびっしりと書き込まれていた。

シャルロッテは、その文字が何語で書かれているのか見当もつかなかった。しかし、なぜかその書物に強く惹かれるものを感じたーー。


『連れて行っておくれ、ロゼルジャンの末裔よ』


不意に、頭の奥に声が響いた。

それは人のものとは思えない、何重にも重なった不思議に美しい声ーー……。


ーーロゼルジャン伯爵家。

シャルロッテの家名である。


いけない事だとは思ったが、シャルロッテは書物を持ち帰り、自分の部屋でじっくりと読んでみることにした。


シャルロッテはこっそりと書庫を出て、馬車に乗って自分の部屋に戻った。

不思議な書物を抱きしめて。

侍女達が部屋で待ち構えており、シャルロッテの姿を見て安堵の表情を浮かべた。


「お嬢様、お戻りになられましたか。大丈夫でしたか!?馬鹿王子にいじめられませんでした?」


シャルロッテは「ああ。だが、疲れたからしばらく休ませてくれないか」と返事をして、侍女達を部屋から退出させた。

一人になったシャルロッテは、ベッドに腰掛け、持ち帰った書物を開いた。


『大魔術師ロゼルジャンの書だと……!?』



書物を読み進めていくうちに、シャルロッテは驚愕の事実を知ることになる。


それは、シャルロッテが持つ隠された力についてだった。

書物には、シャルロッテの家系には代々受け継がれる特殊な魔力を持って生まれる者がいると書かれていた。



ーーそして、シャルロッテの肥満体型の脂肪は、その膨大な魔力が暴走するのを防ぐために、体が無意識に作り出したものだったのだ。


さらに書物には、その特殊な魔力を制御する方法も記されていた。


それは、特殊な呼吸法と瞑想を組み合わせた秘術だった。

シャルロッテは、半信半疑ながらも、書物に書かれた通りに呼吸法と瞑想を試してみた。



すると、シャルロッテの体から、今まで感じたことのないような熱く大きな力が湧き上がってきた。



「……!?これが、私の秘められた魔力、だというのか!?」



シャルロッテは、その力に驚きながらも、さらに呼吸法と瞑想を続けた。


……どれくらいの時間が経っただろうか。

シャルロッテは、深い瞑想状態から目を覚ました。


「な、誰だこれは……まさか!?」



ーーそして、鏡に映る自分の姿を見て、さらに驚愕した。



鏡の中には、以前の悪役白豚令嬢シャルロッテとは全く違う美少女が映っていた。


脂肪で覆われていた体は、美しく痩せたでしなやかな体つきに変わっていた。

二重顎は消え、ほっそりとした顎のラインが現れていた。

そして、何より驚いたのは、シャルロッテの顔だった。以前は、どこか冴えない子豚のような印象だった顔が、まるで別人のように美しくなっていたのだ。

黒曜石の大きな瞳に、すっと通った鼻。薔薇色の頬と潤んだ唇。輝く淡いプラチナブロンドの髪。


シャルロッテは、自分の体に起こった変化に困惑しながらも、大きな喜びを感じていた。

長年、自分の容姿にコンプレックスを抱いていたシャルロッテにとってーーこの変化はまさに奇跡だった。

シャルロッテは、鏡の中の自分に微笑みかけた。


「……悪役白豚令嬢は、もういない」


鈴を転がすように澄んだ声で、シャルロッテは力強く宣言した。


その声には、自信と決意が込められていた。

そして、シャルロッテは新たな人生を歩み始める決意を固めたのだった。


窓の外はすでに夜明けを迎え、美しい色彩に充ちていた。

シャルロッテは、希望の象徴のように輝く朝日を浴びながら、これからの未来に想いを馳せた……。

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