悪役白豚令嬢ですが痩せたらスパダリ(♀)だったので、スパダリ洗脳(まりょく)とチート魔力でポンコツ王子と婚約破棄します!

Iso

第1話 悪役白豚令嬢シャルロッテ

淡いクリーム色のドレスに身を包んだシャルロッテは、溜息をついた。

ドレスは、まるで巨大なプリンのようだった。


「まったく、このドレスも窮屈でかなわんぞ」


シャルロッテはぶつぶつと低い声で呟きながら、侍女が苦しそうに締め上げるコルセットの紐を睨みつけた。

ドレスは、王宮で開催される夜会のために用意されたものだった。

夜会ーー華やかな社交の場。……そのはずだが、シャルロッテにとってはいつも悪夢のような時間にしかならない。


「お嬢様、もう少しでございますっ!せいやぁあっ!とぅっ!!」


侍女が汗を拭いながら声を張りあげる。

シャルロッテは「いつもすまんな。頑張ってくれ」と短く返事をする。

鏡に映る自分の姿は、まるで巨大な白い豚のようだった。


ふっくらと膨張した頬、タプタプの二重顎、そして……みっちりと脂肪で覆われた身体。

豚のように細い暗黒色の瞳に、豚毛のような色の髪。

愛想の悪い表情も手伝って、まさに不貞腐れた子豚だった。


「白豚令嬢……か」


シャルロッテは自嘲気味に呟いた。

婚約者である第二王子リューズ殿下から、陰でそう呼ばれていることをーーシャルロッテは知っていた。

リューズ殿下は、シャルロッテのことを蔑んで豚などと呼ぶだけでは飽き足らず、公然と男爵令嬢のマリリナに言い寄っていた。

二人の仲を引き裂くシャルロッテは、悪役白豚令嬢であるらしい。



夜会には、マリリナも出席すると聞いている。


シャルロッテにとって夜会が拷問のような時間になることは、火を見るよりも明らかだった。


「お嬢様、準備が整いましたわ」


侍女の声に、シャルロッテは重い腰を上げた。

浮いた化粧や宝石でデコレーションされた巨大なプリンのようなシャルロッテは馬車に乗り込み、王宮へと向かう。

馬がちょっと苦しそうである。

窓の外を流れる景色を眺めているうちに、シャルロッテは過去の出来事を思い出していた。自然と溜息が漏れる。



シャルロッテは、伯爵家の令嬢として何不自由なく育った。裕福な家庭、優しい両親、使用人達からの寵愛。何一つ不自由はなかった。


ーー強いて言うならば、シャルロッテの容姿だけが問題だった。


シャルロッテは、スリムで美男美女揃いの伯爵家で、なぜか一人だけ幼い頃から肥満体型だった。

周りからは「伯爵家は子豚を飼っていらっしゃるのね」などと言われ、陰口を叩かれることも少なくなかった。

しかし、シャルロッテは気にしないようにした。


むしろ、そんな陰口を跳ね返すかのように、男勝りでサバサバとした性格を身につけた。



シャルロッテが15歳になった時、リューズ王子との婚約が決まった。

リューズ王子は、美しい黒髪を持ち、甘く端正な顔立ちで文武両道、そして将来を嘱望される優秀な王子だった。


婚約が決まった当初、シャルロッテは喜んだ。

しかし、その喜びは長くは続かなかった……。


当たり前かもしれないが、リューズ王子は、醜いシャルロッテのことなど全く好きではなかったのだ。

王子は、シャルロッテの容姿を嫌い、陰で「あの白豚」と呼んでいた。

そして、公然と他の美しい令嬢たちに言い寄っていた。シャルロッテは、婚約者である王子から蔑まれ、嘲笑われる日々を送っていた。


「はぁ……」


シャルロッテは、再び溜息をついた。馬車は、すでに王宮の門をくぐっていた。

待ち構えるは華やかな天国……のはずだが、シャルロッテにとっては、ケルベロスが牙を剥く地獄の門であった。


王宮の広間は、すでに貴族達で賑わっていた。

煌びやかなドレスを身につけた令嬢達、燕尾服や軍服に身を包んだ紳士達。


ーーそして、その中心には、リューズ第二王子とマリリナ男爵令嬢の姿があった。

二人は肩を寄せ合って楽しそうに談笑し、まるで絵に描いたような美男美女のカップルだった。

マリリナの燃えるような輝く赤い髪とドレスが、リューズの黒髪と漆黒の軍服をより美しく引き立てている。


シャルロッテは、その光景を一人で遠くから見つめていた。




「夜会で一人きりなんて惨めね?白豚令嬢……今日はプリン令嬢かしら?」


しばらくの間、壁の豚としてぼうっとしていたシャルロッテの耳元で嫌味な声が響いた。

振り返ると、そこに立っていたのはマリリナだった。彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、シャルロッテを見下ろしていた。


「おや、マリリナ嬢。せっかくの夜会でその口の悪さはいただけないな」


シャルロッテは、冷静に言い返した。

内心は怒りで煮えくり返っていたが、それを表に出すことはなかった。


「あら、図星だったかしら?白豚ちゃん」


マリリナは、さらに挑発的な言葉を投げかけてきた。シャルロッテは、グッと拳を握りしめた。

この脂肪の塊パワーを拳に乗せてぶつけることができれば、こんなに華奢なマリリナのことだーーチューペットみたいに簡単にパキンと折ってしまえないだろうか……。


「……私に絡むのはいい加減にしないか。男爵家ではそのくらいの躾けもされていないのか?」


シャルロッテは、低い声で言った。その声には、怒りと軽蔑が込められていた。


「あら、怖い怖い。今日はどうしたのよ、白豚ちゃんたら。まさか、私に逆らうつもり?」


マリリナはこぼれ落ちそうなアメジストの瞳を見開いて、面白がるようにシャルロッテを見つめていた。

シャルロッテは、何も言わずに黒曜石色の細い目でマリリナを睨みつけた。


ーー時が止まった。

広間に、緊張感が走った。


その時、リューズ王子が二人の間に割って入ってきた。


「どうしたんだ、マリリナ!こいつに何かされたのか!?」


「違う!私はただ……!」


リューズ王子は、シャルロッテの縋るような視線を冷ややかに一瞥し、冷淡な声で言った。


「シャルロッテ、少しは静かにしろ。ブヒブヒとみっともない」


シャルロッテは、何も言わずにリューズ王子を睨みつけた。

その目は、何の感情も見えずーーまるで氷のように冷たかった。


「……ふん」


シャルロッテは、小さく鼻を鳴らし、その場を立ち去った。

シャルロッテの背中に、マリリナの嘲笑が突き刺さった。


「ふふふ……まるで本当に豚みたい!」


シャルロッテは、広間を出て、誰もいないバルコニーへと向かった。

夜空には満月が輝き、王宮の庭園を柔らかな光で照らしていた。シャルロッテは、一人バルコニーに立ち、夜空を見上げていた。


「……くそっ」


シャルロッテは、歯を食いしばり悔し涙を流した。

王子とマリリナから蔑まれ、嘲笑われる日々。

もう、うんざりだった。シャルロッテは、心の中で誓った。


「絶対に、見返してやるからな……!」

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