第5話
ドアをノックする音が聞こえたので顔を向けると、母だった。おにぎりとおかず、そして麦茶を乗せたお盆を持って部屋に入ってきた。
「美味しそう! おばちゃん、ありがとう!」
すかさずそう言う茜に、母は目尻を下げて「どうぞ」と言いながらお盆を折りたたみテーブルの上に置いた。
「お風呂はお父さんとお母さん、もう入ったけん。二人とも好きな時に入りんさいね。布団はいつものところにあるけん」
そう言ってから、部屋を出ていった。
「お風呂入ってからテレビの録画観る? それとも今観る?」
早速鶏の唐揚げにかぶりついている茜に向かって訊くと、はふはふ、という音も加えながら、
「テレビ観ながら寝るかもしれんけぇ、先に入る」
と、唐揚げに向かって言っていた。
「えー、ビバヒル観ながら眠くなったりせんじゃろ? あんなに面白いんじゃけぇ」
本気で茜の言うことが分からなくてそう言うと、すぐさま返してきた。
「いくら字幕があっても英語じゃけん、眠くなるんよ。なんで英語ってあんなに眠気誘うんじゃろうね?」
そんなこと私に訊かれても困る。だって、私は一度だって眠くなったことはない。ましてや面白過ぎて目が覚めるほどだ。
そんなことを思っていると、茜はすでに唐揚げは食べ終わっていて、おにぎりにかぶりついていた。
まるで何日も食べていない人みたいに美味しそうに食べている茜を見ていると「おばちゃんのご飯ってほんっと美味しいよね。なんでなん?」と独り言を言いながら、今度は玉子焼きをつまんでいた。ビバヒルの話をしていたことなんて覚えていなさそうだ。
そんな茜を見てくすっと笑ってしまった。茜は私が何で笑っているのか見当もつかないという顔をして、口を動かしながら私の顔をまじまじと見ている。
茜と一緒にいると本当に楽しい。人前では緊張してしまう私が、茜の前では何も気にせず素の自分でいられるし、そんな私を受け容れてくれる。そしていつも味方でいてくれる。こんな最高の友達なんているだろうか。
そう思った次の瞬間、二人で過ごすこの幸せな時間も今年限りなのだと思い出した。
来年はお互い違う大学へ進み、離れ離れになる。
私は茜なしで大丈夫なのだろうか……。
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