第190話・集う色達

 スーパーダッシュは速度は凄いが、その速度は一定なので馴れればなんとかなった。


 しかし、キャタピラで丘陵地を走行する場合、その都度の地面の起伏の影響を受け、速度も変われば曲がるタイミングも変わる。

 その見極めが出来ないで苦しむ。


「難しいですかお嬢様?」

 ジョセフが心配して聞いてくる。


「大丈夫です、スーパーダッシュに比べれば速度は遅いですから。

 なんとかして見せますわ」

 弱音は吐かない。

 弱音を吐いてしまえば、自分の心が折れてしまう。

 意地でも弱音は吐かないと、ヴィオレットはギリッと奥歯を噛み締める。


 アシエ・ガルディアンによって地形がかなりぐちゃぐちゃになった。

 100トンもある巨体が時速50キロで走って、シールドを地面に押しつけ急旋回しようというのだ。

 地面がえぐられて当然。


 アシエ・ガルディアンが通った後は、木々がなぎ倒され、地面がえぐり取られ、無残な姿に変わり果てていた。


「ちょっとやり過ぎでしょうか?」

 その光景を見て、心を痛めるヴィオレット。


「お嬢様、これは仮想の景色で御座います。

 お心を痛める必要は御座いません」

 と言われても、


「そうなんですけれど」

 人の心は、そう簡単に割り切れるモノでもない。


「明日も学校が御座いますから、本日はここまでに致しましょうか?」

 ジョセフが切り上げる事を提案してきた。


 ヴィオレットが、地形を破壊した事に心を痛めたのを、切り上げ時と判断したのだ。

 主の心の安寧を図るのも執事の役目。


「そうですね、お医者様も無理は良くないと仰っていましたしものね」

 ジョセフの提案に、ヴィオレットはホッとする。


 地面の悲惨な状況を見て、一瞬迷いが生じたのだ。

 たぶん、それで続けても身が入らなかったと思う。

 そんな状態で練習しても徒労とろうに終わるだけなのは、スーパーダッシュの練習の時に何度も味わってきた。


 エレペットをポッドから出して、所定の位置に移動させるとヴィオレットは全てのスイッチを切った。


 自分の使った物は自分で片付ける、自分で出来ない事なら人に任せるが、自分で出来る事なら自分でやる。

 物心ついてからヴィオレットが自分に課してた来た事だ。


 両親を亡くして後見人なってくれた祖父から、

「自分の出来ない事で他人にを頼るのは仕方ない事。

 でもね、自分で出来る事まで他人を頼ってはダメだよ。

 そうすると、出来る事まで出来なくなってしまうからね」

 と言われたからだ。


 祖父の真意が何かはわからなかったが、

「自分の出来る事は自分でやらないと」

 祖父の言葉は、幼いヴィオレットにそう決心させたのだった。

 

 

 その後、メイドの助けを借りて湯浴みを済ませ、寝間着に着替えさせて貰って眠りにつく。

「明日、学校頑張ろう」

 今日出来た、友達の顔を思い浮かべながらヴィオレットは眠りにつく。

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