第2話・忍者の初陣

 ミドリの操る身長十五メートルの黒猫丸は、対戦相手のアルシェガルディアンに強烈な攻撃によって吹き飛ばされた。

 どんな攻撃を受けたのすら判らず。

「左腕破損、左腕破損、肘から下が粉砕されました」

 サポートAIのナナコが、無機質な声で淡々と破損状況を知らせている。

 しかし、ミドリはそれどころでは無かった。

 吹き飛ばされた黒猫丸は、まだ宙を舞っているのだ。

 これから床に叩き付けられ、その衝撃が一気にコクピットを襲うのだ。

 身長十五メートルの巨体が宙を舞い、床に叩き付けられれば尋常ではない衝撃だろう。

「どうしてこうなった!」

 ミドリの悲痛な叫びが、コクピットに響く。




 試合の始まる少し前に、時間は遡る。

 ミドリはボール型の、ポッドと呼ばれるコクピットの前に立っていた。



 服部ミドリ、九月九日生まれの高校一年生。

 江戸幕府お庭番の末裔であり、四年前に両親が失踪した事により父の残した忍者組織の頭領となる。

 スレンダーな体型を生かした、素早い動きを得意とする。

 悩みは、スレンダーすぎて合うブラが無いというか、必要性すら無いところ。

 先日、ようやく十六歳の誕生日を迎え、これからナイト・クラン・ウォーの初試合に挑むところなのであった。



「ミドリちゃん、準備出来たからポッドに乗って」

 ヘッドセットにアカネの声が響く。



 天馬アカネ、八月八日生まれの二十歳。

 見た目は中学生か高一くらいにしか見えないが、十三歳で米国工業大学を首席で卒業し博士号まで持つ天才であり、ナイト・クラン・ウォーの個人戦において、百連勝の偉業を成し遂げ「ナイト・オブ・ナイツ」の称号を持つ、ナイト・クラン・ウォーの歴史に名を残す人物でもあった。



「了解」

 ミドリはポッドに乗り込むとシートに座り、操作アームに腕を通し、足をフットレスに乗せた。

 それを合図に開いていたポッドの開口部が閉まり、内部照明が点灯すると同時に前面のスクリーンに外部の様子が映し出される。

 続いて保護パッドが頭と脇の下をシートに固定し、腰を両側から挟み込んでしっかりと掴む。

 これで身体は動かせなくなり、動かせるのはアームに入れた腕と固定の緩い膝から下だけとなった。

 頭も動かせるには動かせるが、僅かに、それもゆっくりとしか動かせず、早く動かそうとすればロックがかかり動かなくなる、車のシートベルトのような仕様だ。

 その為、首は回せず、目を動かすだけで状況の確認をしなくてはならない。

 補助として、メインスクリーンの上部に、後方から左右に百度の範囲をカバーするワイドモニターが埋め込まれている。

 メインスクリーンとワイドモニターを使って、前後左右の確認が出来る仕様になっているのだ。

 今は、そのワイドモニターは起動していなかった。



「コクピット移動を開始します」

 AIのナナコの無機質な声が告げると、同時に僅かな振動と供にコクピットが動き始める。

 そのまま、目の前のトンネルに入りやがて下り坂を下る、トンネル内を照らすオレンジ色の照明の中をコクピットはゆっくりと進む。

 それも最初の内だけで、ポッドが進むにつれ徐々にスピードが上がり、ついにはミドリの身体がシートに押し付けられるまでに加速となった。

 等間隔に並んでいたオレンジの光も、既に光の線と化す。

 弾丸の様な速度でポッドはトンネルの中を爆走し、時折、緩いカーブを尋常でない速度で疾走し、強烈な横Gがミドリの身体を押し潰そうとするのを、ミドリは歯を食いしばって耐える。



 幾つかカーブを抜け、その度に爆走するコクピットの中で押し潰されそうになったが、それも唐突に終わりを告げた。

「黒猫丸とのドッキングシークエンスに入ります」

 ナナコの言葉が終わると同時に強烈な減速がかかり、壁に激突したような衝撃がミドリの身体をシートから引き剥がそうとしたが、保護パッドがミドリの身体をがっちりと掴みシートに固定して守る。

 もし、頭がしっかりと固定されていなかったら、間違いなく首を痛めていただろう。

 それほど厳しい急制動だった。

 シート自体も変形して、ミドリにかかる圧を吸収してくれていた。

 TEI技術陣が誇る耐Gシートの力を遺憾なく発揮して、操縦者を守ったのだ。

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