ナイト・クラン・ウオー
入沙界南兎《いさかなんと》
第1話・忍者の初陣
コツコツコツコツ
薄暗い廊下に、杖の音が響く。
コツコツコツコツ
その杖の音に、無言で男達が従って歩く。
音も立てずに規則正しく。
その歩く姿だけで、練度の高さが
どこかの国の特殊部隊員なのは間違いない。
どの男も身を包んだ防護服の上からでも判る、鍛え上げられた肉体の持ち主だ。
その男達が、杖を突いて歩く少女に、無言で付き従って歩いていた。
少女の背丈は150センチそこそこ、えんじ色のビジネススーツの上から白衣を纏っている点を除けば、その容姿は中三かギリギリ高一にしか見えない。
少女が突然止まった。
後ろの男達も隊列を乱す事なく止まる。
少女が眼鏡型の端末を操作してから、肩までの僅かに赤みがかった黒髪をかき上げた。
「セキュリティーの掌握は完璧ね。まっ、わたしが本気を出せば当然だけど」
出来て当たり前とばかりに、少女は表情ひとつ変えずに呟く。
ここは沼津駅北口の商業施設ルル・ポート。
その地下駐車場の、更に下に密かに作られた地下通路。
その秘密通路に少女達は侵入していた。
「私のセキュリティーにちょっかいをかけておいて、ただで済むと思わないでね」
冷たい笑みを浮かべると、少女は再び歩き出す。
通路に杖の音が再び響き始めた。
やがて通路の先が見えて来る。
通路は壁で行き止まっており、他になにも見えない。
少女は手を顎に当てしばし考え込むと、突然手を前に突き出し、指が超高速で動く。
空気相手に指を動かしているようにしか見えないが、少女のかけている眼鏡に映し出されるキーボードを操作しているのだ。
やがて眼鏡越しに、行き止まりのはずの壁に扉が表示される。
「この程度のカムフラージュで、私の目は誤魔化せないわよ」
少女が空中のキーボードを叩くと、壁が消え金属製の引き戸が現れる。
引き戸の手前に、通路一杯の半透明なカーテンが見えた。
そのカーテンの名前はホログラムカーテン。
名前の通り、三次元ホログラムを映し出すカーテンで、商品の広告やイベントなどに使われる物だった。
そのホログラムカーテンが、存在しない壁を映し出し、入り口を見えないようにしていたのだ。
少女は脇にずれて男達に場所を譲る。
リーダーと思わしき男がハンドサインで指示を出し、指示された男達は音も立てずに配置に着く。
アカネがその間に再びキーボードを操作すると、ホログラムカーテンが真ん中から左右に割れ壁際に折りたたまれる。
扉に取り付いた男が瞬く間にロックを解除してしまう。
他の男達は銃を構えた。
その銃は、米国で開発されたばかりの超最新の暴徒鎮圧銃。
スタン効果の有る、BB弾程の弾を無数に撃ち出す、まだ米国でも軍の一部にしか支給されていない貴重な銃だ。
この男達は、米軍の特殊部隊員と言うことになる。
男達は扉を開け放つと同時に、正面と左右の壁、天井に向けて銃を撃つ。
放たれ無数の弾が天井や壁で跳ね、中にいた人間に襲いかかる。
声を上げる暇も無く中にいた人間は無力化されたが、中年の男一人だけ、中学生らしき少女をかばうように覆い被さっていた。
そのおかげで少女は僅かに意識があり、部屋に入ってきた白衣の少女の前に引きずり出される。
「会いたかったわミドリちゃん、私と一緒に世界を目指しましょう」
白衣の少女が微笑む。
それがミドリとアカネの最初の出会いだった。
ナイト・クラン・ウオー 入沙界南兎《いさかなんと》 @isakananto
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