第五章 ~『蛇の密室の真相』~
「失礼します……」
扉を開けると、医房の中はひっそりと静まり返っていた。白い布で覆われた寝台の上には
(意識はまだ戻っていないようですね……)
「
趙炎は少し沈んだ様子な一方で、
「
「ありがとうございます、
これで役者は揃った。後は事実を突きつけるだけだ。
「真相が分かったそうね。それで、真犯人は誰なの?」
「それはあなたが一番分かっているはずですよ」
「私が犯人だと言いたいわけね」
「はい、あなたが今回の事件の首謀者です」
「忘れたの? 私にはアリバイがあるのよ」
「知っていますとも。そのアリバイを崩したからこそ、あなたが犯人だと伝えているのです」
「なら推理を聞かせてもらいましょうか」
「本題の前にまずは事件の密室から振り返りましょう。正面入口に鍵が掛かり、予備の存在も知られていなかった。傘立てから発見できれば別ですが、それはきっと難しいでしょうから。部屋は密室と呼んで間違いないでしょう」
人は部屋の中に出入りできなかった。その前提で道筋を立てていく。
「ですが採光用の窓からなら、人は無理でも蛇なら侵入できます。実際、鱗が落ちていましたから。この推理には確信があります」
訓練させた蛇に針を運ばせ、人間の仕業に見せかけながら
「ただこれを実現するには、よく訓練された蛇が必要です。そして、犯人には
「それで私を怪しんだというわけよね?」
「はい、ですが、あなたにはアリバイがありました。襲われた時間帯に占いをしていましたから……ですが、それは協力者がいれば覆ります。趙炎様が実行犯として、蛇を宿舎まで連れて行ったのですね」
「馬鹿馬鹿しい。根拠のない言いがかりよ」
「いいえ、根拠ならあります」
「実行役には蛇との信頼関係が求められます。そのために趙炎様は蛇の世話を手伝っていたのではありませんか?」
「お、俺は……世話なんて……」
「占房に顔を出した時、蛇が趙炎様に好意を向けていました。人懐っこい蛇ではありますが、明らかに他人以上の感情が込められていました。その理由を説明できますか?」
「…………」
動物の声が聞こえる
そんな彼の代わりとでも言わんばかりに、
「もし仮に趙炎が世話をしていたとして、まだ蛇のアリバイがあるわ」
「それも説明できます。蛇が二匹いればアリバイを崩せますから」
「――ッ……な、なにを馬鹿な……」
「おかしな話ではありませんよね。蛇は占いの肝ですから。不慮の事故が起きた時のために保険となる別の相棒を用意するのは自然ですから」
「うぐっ……」
見破られるとは思っていなかったのか、
(私でも見間違えるほど、瓜二つの蛇でしたから……騙し通せる自信があったのでしょうね)
最初に感じた違和感の正体は、以前見た蛇と少しだけ姿形が変わっていたからだ。その変化は僅かだったため直感としてしか感じ取れなかったが、改めて振り返ると、別の蛇だと断言できた。
「ただ二匹目の蛇は訓練不足だったのでしょうね。
その言葉に最初に納得したのは
「そういえば、珍しく占いを外していたね。なるほど。訓練不足の蛇では占うにはまだ力不足だったというわけか……」
この推理が正しいなら、アリバイはすべて崩れる。
「し、証拠はあるの?」
「実は先程、趙炎様の部屋の前まで伺ったのですが、子狼のシロ様が蛇の匂いがするからと強い拒否反応を示しました。きっともう一匹が中にいますよね?」
「うぐっ……」
部屋の空気が張り詰めていく。そんな中、突然、重苦しい沈黙を破る声が響いた。
「もう認めるしかないな……俺たちが犯人だ」
「趙炎!」
「証拠もある。どうせ言い逃れはできない……それにな、俺はこれ以上、恥を重ねたくないんだ」
趙炎は苦悩に満ちた表情でそう呟く。その言葉を耳にした
「破滅よ……
虚ろな目で絶望する
「
「…………っ」
「私と
「飢饉ですか?」
「ええ。農作物が取れなくなり、貧困が村を襲ったわ。でも食べていくには、お金が必要だった……村の大人たちが相談して、若い女を一人だけ後宮に売ることで話が付いたわ」
「候補は私か
その結果、
「私は何通も手紙を書いたわ。後宮に会いに来て欲しいと……でも
「君の考えは間違っているよ。
「どういうこと?」
「手紙はまず村長がまとめて受け取り、その後、村人に配られる。つまり……君の両親が手紙を渡していなかったんだ」
「君の両親が村長になれたのは、能力でもなければ、人望でもない。一人娘を後宮に売って、村を救った功績のおかげだ。でも同じように犠牲になる者が現れれば、その立場は揺らいでしまうと恐れた。だから
「う、嘘よ……そんなの……」
「本当だ。だからこそ、大人になった
「そ、そんな……ぅ……」
声が震え、否定しようとするものの、心のどこかで真実だと感じたのか反論は続かない。肩を小刻みに震わせながら、その背中には後悔と自責の念が滲んでいた。
「私は……友人を……裏切ってしまった……」
そんな時だ。
「
「
「どうして……生きて……」
蛇に命を奪うようにと命じたはずなのにと、
「毒が弱かったのではないでしょうか……きっと
蛇は人が考えるよりも賢い。主人に過ちを犯させないため、命までは奪わなかった。だからこそ取り返しのつかない事態を避けられたのだと、
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