第四章 ~『思いがけない再会』~
街を包む空が茜色に染まり始め、日没が迫っていることを告げていた。建物の影が浮かび上がり、その中で佇む人々の姿は、どこか幻想的である。
風は少し冷たくなり、昼間の活気に包まれた空気が静寂に変わっている。屋台は閉める準備を始めており、屋台主たちの笑い声や、常連客とのやりとりが耳に届いた。
「夕暮れの街も悪くないね」
「風情がありますよね」
「楽しい一日でしたね」
「こんなに充実した休日は、私にとっても初めてだったよ。
その言葉には飾り気のない感謝が込められており、
気づけば足音も軽やかになっており、隣を歩く
やがて、二人は通りの角を曲がる。するとミステリアスな雰囲気に包まれた女性が客を待つ屋台が目に入る。
二十代中頃ほどの女性は端正な顔立ちだが、その目元はどこか鋭さが感じられた。黒を基調とした外套に包まれ、首元では真珠のネックレスが輝いている。
彼女の前には小さな台が置かれ、その上に黒布が広げられている。布の中央には木箱があり、一匹の蛇が静かに顔を覗かせていた。
「無料で構わないから、占いを試してみない?」
占い師が柔らかな声で語りかける。その声音にはどこか誘惑するような響きが含まれており、その眼差しはまっすぐに二人を捉えている。
「占いですか……」
「この子があなたたちの運命を見通してくれるの」
占い師の手が滑らかに動き、木箱の中の蛇に触れる。すると飼い主の期待に応えるようにトグロを巻いて、高く頭をもたげた。
「やってみる価値はあるかもね……」
「
「普段ならね。でも彼女なら当たるかもしれない」
(何か根拠があるのでしょうね……)
「では始めるわね」
了承を受け取った占い師は丸みを帯びた小さな石を幾つか取り出し、布の上に並べていく。それぞれの石には象形文字が刻まれており、光を受けて僅かに艶を放っている。
「この子があなたたちの未来を導くわ」
占い師が手を軽く振ると、蛇が幾つかの石をかすめながら進み、やがて二つの石の間で静止する。
占い師はそれを見て微笑み、優しく頷く。
「お告げが出たわ。二人の相性は抜群よ。お互いを支え合い、高め合う関係を築ければ、素晴らしい未来が待っているわ」
その言葉に
「あの、もう一つ占ってくれませんか?」
「構わないわよ。何を占って欲しいの?」
「私が画師として成功できるかどうかを知りたいのです」
その願いを聞いた占い師は眉間に皺を寄せる。それまで穏やかだった表情が険しさを帯び、それを感じ取った蛇が木箱の中に帰っていった。
「画師がお嫌いなのですか?」
「……画師そのものが嫌いなわけではないわ。ただ私が世界で最も嫌いな女が画師なの」
その声には神秘的な雰囲気を吹き飛ばすほどの重々しさが含まれていた。
「私も知っている人でしょうか?」
「画師の界隈では有名なはずよ。なにせ後宮に招かれるほどの才人だもの」
「――ッ……もしかして、
「あの女を知っているの!」
「同僚ですから」
「ここから今すぐ立ち去りなさい!」
突然の態度の変化に
「帰ろうか」
「そうですね」
(因縁が気になりますが、話を聞ける雰囲気でもありませんからね)
夕焼けが二人の影を長く伸ばし、足元で静かに揺れる。屋台から少し離れたところで、
「
「
「ということは、女官なのですか?」
「ああ。だから
同じ職場で働いているのだ。揉め事があったとしても不思議ではない。だがそれとは別にある疑問を抱く。
「どうして、女官でありながら街で占いをしているのでしょうか?」
「そういう者は少なからずいるよ。小遣い稼ぎや、経験のためなど理由は様々だろうけどね」
「
「街に出て、多様な人々と接することで、自分の技術や感覚を磨いているのだろうね」
後宮だけだと占う相手も限られるが、街なら老若男女を占える。料金が無料だったのも、
そのような考え事をしていたからか、
「不注意で失礼致しました」
起き上がった
「趙炎様……」
「
趙炎もぶつかった相手が
「
「私は街の散策をしていただけです。趙炎様こそ、どうしてここに?」
「俺は仕事で買い付けだ」
「お仕事ですか?」
「聞いて驚け。実は後宮に拾われてな。男として大事なモノは失ったが、俺は権力者になったんだ。
「そうですか……」
「驚かないのか?」
「私も正式に女官として働くようになりましたから」
「なんだとっ!」
趙炎は目を見開いて、驚きと怒りを混ぜた声をあげる。顔を赤く染めながら、唇を震わせた。
「だ、だが、俺より立場は下だろ?」
「それは分かりませんが……」
「ふん、そうに決まっている。もし後宮で見つけたら、虐めてやるから覚悟しろよ」
物騒な発言に
「いや、失敬。あまりに君が愚かでね」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。
「あれで良かったのでしょうか?」
「無礼者にはあれくらいして構わないさ」
「まぁ、そうですね。あの人には以前、酷い目に合わされましたから」
「酷い目?」
「もし何かされそうになったら、私が力になるから。いつでも頼ってほしい」
「
彼の頼もしさに
夕焼けが街並みを照らす中、二人は再び歩き出す。
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