笄ーこうがいー
褥木 縁
簪ーかんざしー
街の一角にある深い竹林の最奥にある小さい鳥居と黒い祠。
入口こそ竹に覆われ判然としないが一歩踏み入れると
その高々と
用事は、要件は願い。そうただ一つだけの、それこそ唯一の願い。生まれ落ちて間もない孫の救命。そして延命。
夜更けに生まれたその孫は、身体が思いの
焦りを含んだ冷や汗が、静かに頬を伝って顎の先から
数刻歩いた
祠の前で身を屈め、祈る姿は、今の若者よりも姿勢良く1つ1つの所作が様になっている。堂に入っている。
二拝二拍手一拝。
知っての通り。知られている通りの手順に沿って老婆は2回頭を下げ、右手を手前にずらし柏手を2回打つ。
パチン・パチン。
老婆の様子を伺うように周りを囲み、漂う風の中、打った細い
「我らが血族を見てくださっておる氏の神、地を与えてくださった
その願いが届いたのか、老婆の眼の前で不思議な出来事が起こる。風が強くなったわけではない。揺れる竹や林が当たった訳では無い。にも関わらず、ひとりでに黒い祠の扉が勢いよく開かれた。その中に見えたのは1つの
全体が赤黒く染め上げられたお面には硬い毛を表すような荒々しい削り跡が夥しい数、
「ありがたや…、ありがたや…。」
そう繰り返し呟きながらその鼬鼠のお面を取り出し、大事そうに胸に抱えて振り返り帰路に着こうと背を向ける。老婆が振り返った拍子に後ろで結い
乾いた血のように…。
落ちた簪に気づくこと無くお面を抱えて、来た道を戻っていく老婆。
その姿は誰かが、否、何モノかが、後ろ髪を掴んで引き止めているように見えた…。
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