第5話 日常
大華国の後宮には数千年生きるエルフがいるという。
エルフ。
またの名を耳長族。
大華国が建国される遥か前からこの地に住んでいたというが、今となっては銀髪の麗人・サラしかいないとされている。
そんなサラは今日も後宮で民の幸福を祈っているとも、裏で皇帝を操っているとも噂されているが――実際は――
「はぁ~、やっぱり若い子はいいわねえ」
二階の窓枠にあごを乗せながら、サラはせわしなく働く下女達を眺めていた。
「老い先短い少女達が一生懸命仕事をしている姿……。萌えるわよね!」
サラが中々に鬼畜な発言をしていると、
「――師匠。また鼻の下を伸ばしているのですか?」
まだ年若い声がかけられた。むしろ幼いといってもいいかもしれない。
(あーらこれはまた小言を言われちゃうかしら?)
わくわくしながらサラが顔を上げると、そこには呆れた顔をした天真の姿が。
暗殺から匿うため。という大義名分でもって女装をさせている少年。
もちろん、サラの趣味である。
もちろん、サラの趣味である。
天真の名誉のためにも強調しておかねばならぬだろう。
ちなみになぜサラが『師匠』かというと、後宮での生活や一般庶民としての行き方を教えてくれる師だからという理由であるらしい。生真面目な少年である。
そんな天真からすら呆れられているのだから、サラの残念具合は相当であろう。
「師匠は見た目だけはいいのですから、だらしなく頬を緩めずに、その見た目に相応しい言動をしてください」
外見を褒められているはずなのにまったく嬉しくないサラだった。実際、天真としてはさほど褒めているつもりはない。美人には三日で慣れ、残念美人には一日で呆れる。
やれやれと肩をすくめる天真にサラは口をすぼめて見せた。
「天真、私は花のように咲いては散る人間の一生を目でいているだけだから。変態みたいに言うのはやめなさい」
「失礼しました。師匠は変態みたいじゃなくて、変態そのものですものね。物事は正確に、伝わるように表現しませんと」
「この短期間で生意気になってくれちゃってまぁ。一人称も『僕』から『私』になっているし」
「私が生意気になったとしたら、師匠に呆れて突っ込みをし続けたせいですね」
「そういうところが生意気だって言っているんだけどな~?」
「はいはい、生意気でいいですから、さっさと洗濯物を出してください」
「洗濯物?」
「はい」
「なんで天真が?」
「私は師匠の侍女ですから、師匠の服の洗濯も私がするみたいです。他の宮の侍女が教えてくれました」
「……とか何とか言っちゃって、美人なお姉さんの洗濯物のニオイを嗅いでドキドキはぁはぁするのが目的なのでは?」
「はいはい、もうそれでいいですから。さっさと出してください」
「ノリが悪~い」
「師匠に付き合っていたら日が暮れます。洗濯物が乾きません」
さぁさぁと急かしてくる天真に対し、サラは不敵に笑ってみせた。
「ふっ、天真は知らないかもしれないけど……エルフに洗濯なんて必要ないのよ!」
「え? 汚い」
「汚くないわよ! エルフは新陳代謝がほとんどないから必要ないの! やるにしても百年とか二百年とか!」
「……ほんとですか? そうやって自分を誤魔化しているんじゃないですか?」
「そ、そんなことないわよ! エルフは高貴! エルフは老いない! ……くんくん」
それはそれとして自分の二の腕に鼻を押し付けるサラだった。
「ほら大丈夫! 見なさい私を! 人間とはそもそもの出来が違うのよ!」
「……ほんとですか?」
疑わしげな半眼をしつつ、天真がサラの服に顔を近づける。よりにもよって胸元に。
ここでほかの男性なら下心でもあるのかと疑うところ。だが、天真はそういう感情は抱いていない。なぜならサラの見た目の美しさより残念さの方が勝るからだ。
そして天真が自分にそういう方面の感情を抱いていないことはサラも何となく察している。
「エルフと人間なんだからその方がいいんだけど! それはそれで面白くないわね!」
叫びながら天真の肩を掴み、距離をとらせるサラであった。
彼女からしたら見た目好みの女装美少年を前にして立派に自重した形だが……天真からしてみれば別の意味に映ってしまう。
「……やっぱり臭いんですね?」
「臭くない! 臭くないけど! 別の問題があるのよ!」
「はぁ……? まぁ、どうでもいいから早く着替えて洗濯物を出してください」
「くぅう」
容赦のない言葉。
しかも口にしているのは好みの美少年。
つまりは押し負けそうになるサラだが……着替える必要もないのに着替えるというのも面倒くさいのが本音だ。
(……ここは双方が納得する解決といきましょうか)
サラが指を鳴らすと、彼女の体が光に包まれた。
本来なら聖なる儀式を前に場を清めるための聖なる術なのだが、自分に掛ければこうして清潔にしてくれるのだ。
「どうよ! これで着替える必要はないわね!」
「はぁ……。まぁ、師匠がいいのなら、いいですけど。私も仕事が減りますし」
空っぽの駕籠を抱えながら部屋を出て行ってしまう天真だった。
(もうちょっとこう、お師匠様に興味を抱いてくれてもいいんじゃない!?)
見た目好みの女装美少年からまったく相手にされていない現状に、「むがー!」となってしまうサラだった。
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