双子天使は世界を創り眠りにつく・・・
万愁ミチル
第0話 プロローグ
かつて天界には、とても強い魔力を持った双子の姉弟天使がいた。
姉天使の名前はエリシア。彼女はいつも笑っていた。誰かがケガをすれば、それを魔法で治療し笑顔で手を差し伸べる。
弟天使のルカは姉とは正反対で、滅多に他人に笑顔を見せることはない。常に周りを警戒し、いつも姉を守るように静かに威嚇する。
そんな二人には親がいない。しかし二人はけして寂しいなどと思うことはなかった。なぜなら、大好きな人がずっとそばにいてくれるから。
たとえ友達が出来なくても、自身たちの『強すぎる魔力』のせいで大勢の大人
に恐怖され、内心疎まれていたとしても……。
ある日、双子のもとに黒くて大きなローブを羽織った老人が現れた。
「……なに? アンタ」
ルカはいつものように姉を隠すように前に出て、当然のように老人を睨みつけた。
しかし老人は、ルカの威嚇に臆する様子も、気を悪くしたような素振りも見せることなく口を開いた。
「お前たちに頼みがあるんだ」
「頼み……ですか?」
ルカの後ろから顔をのぞかせ、エリシアが老人の言葉に耳を傾けた。
「ちょっ、エリシア危ないよ! こんな見るからに怪しいヤツっ」
「だけど、困ってるのなら助けてあげないと……」
ルカと違い、エリシアは全くと言っていいほど老人を警戒していない。「本当に同じ血を引いているのか」とルカの脳裏に不安が過るほどに、エリシアは周りを警戒しない。
「フフッ、本当にお前は優しいね」
老人は笑った。
老人は知っているようだった。エリシアが優しく、お人好しなことを。そしてそれゆえに、老人の「頼み」が退けられることはないということも……。
「それで、頼みって何ですか?」
エリシアがルカをそっと押しのけ、老人の前へと歩み出た。
老人は何かを握り締めた手をローブの中からエリシアの前へと出して見せた。 手を出せと促されていると直感したエリシアは、自身の小さな両手の平で受け皿を作り、老人の拳の下へと動かした。
「これをお前たちの魔法で大きくしてほしいんだ」
そう言って老人は、すごく小さな破片のようなものをエリシアの手の平の上へと落とした。
「なに? このゴミ……」
「こらルカ、失礼だよ」
エリシアの手の平にある欠片を覗き見たルカがボソリと呟く。それは老人を小馬鹿にしたと捉えられる言葉だったが、エリシアは若干同意の心があったのか軽く叱る程度に留まらせた。
「わかりました。私たちの魔法でいいのなら」
エリシアは優しく微笑み、老人の頼みを快諾した。その隣で不服そうにしていたルカだったが、「エリシアが良いのなら」と渋々承諾した。
エリシアは欠片を両手で包み込み、願うように自身の魔力を欠片へと注ぎ込んだ。
欠片はエリシアの魔力を吸収してどんどん大きくなっていく。米粒よりも小さかった欠片は次第に小石よりも、岩よりも、老人よりも、双子が遊び場にしていた広大な森よりも大きくなっていった。
「ちょっエリシア、やりすぎっ!」
「へ? あ……」
隣にいたルカの焦ったような声に、魔法に集中していたエリシアがハッ我に返った。エリシアの手の平の中にはもう欠片はない。いや、もうそんな欠片はどこを探しても見つかるはずがない。
欠片は、もう目視では大きさを把握できないほどに巨大になってしまっていた。もはやこれは欠片ではない。しかし石とも岩とも呼ぶこともできない。そしてそんなものを老人が持って帰れるはずがない。
「やってしまった……」とエリシアが後悔するのにそんなに時間はかかるはずがなく、エリシアは急いで老人に頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! 私はなんてことをっ……」
「いや、大丈夫だ。顔を上げなさいエリシア」
謝罪するエリシアに老人はニッコリと笑う。
「そうだよエリシア。大きいに越したことないし……」
隣で見当違いなことを言う弟の言葉に、「変なフォローをするくらいならいっそのこと責め立ててほしい……」と思うエリシアだったが、自身の失態のために何も言えずに目に涙を溜めてグッと堪えた。
「その通りだ」
聞こえてきた言葉にエリシアだけでなく、ルカも自身の耳を疑った。
その通り。老人が、ルカが先ほど言った言葉にまさかの肯定をしたのだ。
「「え……?」」
さすがの双子にも、老人の言っている意味が分からない。欠片だったものはもはや誰にも持って動かすことはできない。たとえ魔法を使ったとしても、それには多くの魔力が必要となるだろう。これでは、老人が持ち帰ることはほぼ不可能なはずなのに……なぜか老人は満足そうに笑っている。
「いや、良いものを見させてもらった。これはお礼だ。この大きな世界はお前たちで使いなさい」
そう言って、老人は双子のもとを去っていった。
「「世界……?」」
双子は佇み、ただ老人の後姿を眺めることしかできなかった。
双子天使は世界を創り眠りにつく・・・ 万愁ミチル @bansyu-michiru
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